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最近、一人の女子に好意を寄せられている。
名前を坂浦陽菜乃と言い、夏休みの数学の特別授業の時に出会った。
陽菜乃は明るく元気で、フットワークの軽い子だ。
それでは何故、彼女が僕に好意を寄せていると思うのか。
そんなのはもう感覚だ。
僕も過去に女子だったので、誰かを好いている友達を囲む仲間の雰囲気は、とてもよく分かっている。
好きな人に話しかけに行く女子に着いていって小突いたり、その二人の間を伝書鳩のように行き来したり。
何が楽しいのかは分からないが、それが一種のコミュニケーションであることは否定はしない。
だが、こちらからしてははた迷惑である。
「碧羽、やっほー。」
「あ、咲。今日は確か、生徒会だったっけ。」
「そうそう。思ってたよりも楽しかったけど、学級委員やめなきゃいけないのはしんどーい。」
うちの学校は、学級委員と生徒会の掛け持ちは禁止されているため、もともと学級委員だった咲はそれを嘆いているようだ。
「ねえ碧羽、日曜に陽菜乃と遊ぶんでしょ。」
「そうだけど。」
「へえ。二人、二人ねえ。」
そう繰り返しながらにやにやする咲は、どうせ恋愛の妄想をしているのだろう。
僕は小さくため息をつく。
(男女という性別があるのは仕方がないけど、それによって全てが恋愛と結びつけられるのは癪だな。)
女も男も経験すると、意外と性別ってどうでもいいと思えてくる。
『愛【あい】−そのものの価値を認め、強く引きつけられる気持ち。』
恋と愛の違いとは何か。
小っ恥ずかしいが、最近そんな事をよく考える。
最近皆は”恋リア”とやらに夢中になっているらしい。
話題の中心がテレビからサブスクやSNSへと移行したことに若干の切なさを覚えながら、調べてみたことがある。
内容を見てびっくりした。
なんと、男女複数人が二泊三日の間一緒に過ごし、最後に付き合うというものなのだ。
(に、二泊三日……!?)
愛情が育まれるというのに、そんな短い期間であっていいものなのだろうか。
そう呆気にとられる僕に母さんは、一緒に公式サイトを覗き込みながら言った。
「愛と恋は別でしょ。それに、未成年の付き合うハードルってものすごく低いものだから。」
当たり前のような顔をして言う母さんに、僕は疑問を覚える。
「じゃあなんで”恋愛”って言うの?例えばほら、”友愛”は友といることで愛が生まれることを言うんでしょ。」
「そうだよ。だから、恋をすることで愛が生まれるかは人によるものだと思うけどな。」
「……そういうものなのかな。」
「碧羽ー!やっほー!」
ショッピングモールに一人でいると、凜に声を掛けられた。
「凜。こんなところで会うなんて偶然だね。」
「そうだね。」
「出会い頭だけど、碧羽にご報告があります!」
彼女はスマホを取り出すと、こちらにラインのトーク画面を見せた。
『よかったら付き合ってほしいです!』
『こちらこそ!』
「というわけで、浦井と付き合うことになりました!」
浦井といえば、小五からの付き合いになる友人だ。
頭は良くないが、バスケが好きで、何より人から好かれる才能がずば抜けている。
これが計算でなく天然だというのだから、恐ろしいものだ。
「そっか。……仲良くね。」
そう言って凛と別れると、さっきの自分の言葉が合っていたのか自問自答してしまう。
それでも何故か『おめでとう』や『お幸せに』って言葉は言いたくなかった。
きっとその二人の間にあるのは、”恋”であって”愛”ではない。
なんて、意地の悪いことすらも考えてしまう。
これが”寂しい”という単純な感情を押し隠しているのだと、最近気がついた。