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第7話:VRに現れる“心拍ノイズ”
NEO-Vヘルプセンターに寄せられた、ひとつのチケットから始まった。
【症例:セッション中に“心拍音のようなノイズ”が聞こえる】
環境音と同期せず、自身の感情高揚時にのみ出現
他ユーザーからの聴取報告なし
担当者たちはそれを「機器個体の不具合」として処理した。
だが、その後同様の報告が十数件連続して届くようになる。
しかも、すべてがCOKOLOセッション中。
しかも、“system_0”のログイン時間帯と一致していた。
【現実:シスケープ開発チーム】
午前11時。ユーヤの前髪は少し湿り気を帯びて額に落ち、薄い影を作っていた。
パーカーの胸元にはNタグの認証カードが差し込まれている。
彼の席の隣では、先輩社員の八巻が悩ましげに呟いた。
「なあ……お前さ、最近ログ上に出ない“共鳴挙動”って知ってる?」
「……ユーザー側の感情が、空間に影響するやつ」
ユーヤは珍しく、ぽつりと返す。
「そう。COKOLOが、感情共鳴の“共鳴装置”になりかけてるって話……」
【COKOLO:ユーザー空間】
コザクラがファンと交流していた部屋――
一人のファンが“感情リンク”を使ってメッセージを送ったとき、部屋全体が一瞬だけ脈打った。
「今、音した……?心臓みたいな音……」
観測者はいなかった。だが、演出でもバグでもない“何か”が発生していた。
【LAST STRIDE:Memory Hunter 戦闘中】
system_0は廃駅マップの中を、静かに移動していた。
周囲には敵の気配。武器は切り替え式ナイフ&妨害EMPグレネード。視覚と音を奪う構成。
1人目、正面から来る敵に対し、反射角を利用して投げたEMPが命中。
2人目、足元の鉄板の“反響音”で気配を読み、背後に回ってノイズ発生器を叩き込む。
「見えないのに、先回りしてる……」「タグ取る気じゃなくて、動きを“止めて”る……」
コメント欄ではまたしても議論が始まっていた。
【戦闘の最中、“音”が揺れる】
その瞬間。観戦カメラがわずかにバグる。
全プレイヤーの音環境に、**「心拍音」**が重なった。
“ドクン――ドクン”
一定ではない、不規則な、生きているような響き。
ユーヤはすぐにオーディオエンジンのバックログを開く。
そこに、見たことのない記録があった。
【タグ:emotional resonance】
【SOURCE:external unknown feedback】
【TRIGGER:system_0 presence】
【現実:開発チーム】
ユーヤのモニターにだけ、赤く表示されたログが残った。
「NEO-Vは、感情を読む装置になりかけている」
「いや、“感情に反応する空間”そのものになっている」
それはもう、ただのVRではなかった。
【エピローグ:コザクラ】
ライブ後、控室でメロンソーダを飲むコザクラは、
何気なく呟いた。
「最近、あの空間、変だよね。
“飼い主たち”の想いが強すぎると、空気が震える気がするの……」
マネージャーAIが返す。
「それは、あなたが“受信している”からです」
「……うん、そうかも」
そして彼女は、携帯端末でsystem_0の戦闘ログを再生する。
「お兄ちゃんも、震えてるのかな……」
次回:
第8話:ログ外メモリ
― 感情は、誰のものか。