テラーノベル
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ゆうき あきや
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厚揚げ衣
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なんたろ
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いちご@ホロオタ×ぴちりす
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#ライトノベル
第56話:ボイス大ヒットと、最悪の通知〜歓喜のゴールテープと、魔王(インボイス)の足音〜
「……にひゃく、よんじゅうきゅうまん、はっせん、えんっ……!!」
五月下旬。
帯広市のボロアパートに、俺の血を吐くような、しかし歓喜に満ちた絶叫が響き渡った。
三十一万八千五百円のゲーミングPCのモニターに映し出されているのは、デジタルコンテンツ販売サイトの売上ダッシュボード画面。
そこには、俺がヤケクソでリリースした『四十歳の確定申告愚痴ASMR』の驚異的な売上データが表示されていた。
「売れた……! 売れたぞ! リスナーの奴ら、どんだけ俺の不幸(税金の愚痴)が好きなんだよ!!」
俺は両手で顔を覆い、感極まってむせび泣いた。
あの配信から数日。三千円という強気の価格設定にも関わらず、俺の怨念が詰まったボイスデータは、狂ったリスナーたちによって飛ぶように売れまくった。
何が凄いって、スパチャと違ってプラットフォームに30%も中抜きされないことだ。
売上が、ほぼそのまま俺の『手取り』として入ってくる。この利益率の高さは、まさに資本主義のバグ、いや、神の恵みだった。
そして今、俺の目の前で、売上カウンターが『2,500,000円』のラインを突破した。
「っしゃああああああああッ!!!」
俺は三万円のゲーミングチェアから跳ね上がり、天井に向かって拳を突き上げた。
「集まった! スタプロに払う3D化の自己負担額、二百五十万! 完全達成だァァァ!! これで俺は、ペラペラのイラストから卒業して、バーチャル空間で全身を動かせる真のインフルエンサーになれるんだ!!」
俺はすぐさま配信ソフトを立ち上げ、緊急の歓喜配信枠を取った。
タイトルは『【祝】3D化費用250万円、完全達成! 俺は神になる!』。
配信を開始した瞬間、待機していた数万人のリスナーたちが、お祭り騒ぎでチャット欄に雪崩れ込んできた。
『うおおおおお!! おめでとう!!』
『ついに3Dキターーー!!!』
『ボイスの売上だけで達成したのヤバすぎww』
『おっさんの怨念が3Dの肉体を錬成したww』
『歴史的瞬間!!』
「ありがとうお前ら! マジでありがとう!!」
俺はマイクに向かって、鼻水をすすりながら満面の笑みで語りかけた。
「お前らが俺のASMRをバカみたいに買ってくれたおかげだ! 手数料を引かれない『純度100%の売上』の力、しかと見せてもらったぜ! これで明日、スタプロの運営に『金は用意した、最高の3Dを作ってくれ!』ってドヤ顔でメールしてやる!!」
『スタプロのスタジオ楽しみすぎる!』
『アリスちゃんとのコラボ絶対やってくれよ!』
『おっさんが3Dで動くの想像しただけで草』
画面の向こうのリスナーたちも、我が事のように喜んでくれている。
底辺で泥水をすすっていた四十歳が、ついに掴み取った栄光の瞬間。
俺の人生、ついに完全に『勝ち組』の軌道に乗ったのだ。
そう、確信していた。
あの『最悪の通知(赤いスーパーチャット)』が、画面の右端から飛んでくるまでは。
『スーパーチャット:10,000円(有識者ニキ:ルシフェルさん、3D化費用の達成、本当におめでとうございます。ところで、一つ非常に重要なお知らせがあります。電卓を用意してください)』
「……ん?」
俺は、ピタリと歓喜の声を止めた。
この『有識者ニキ』は、確定申告の時に俺にスパルタ指導をしてきた、あの帯広市役所のケースワーカー・鈴木さん(疑惑)である可能性が極めて高い。
その彼女が、この最高にハッピーな瞬間に、わざわざ一万円のお布施を投げてまで『電卓を用意しろ』と言ってきたのだ。
嫌な予感しかしない。
「な、なんだよ有識者ニキ。せっかくの祝勝会に水差すなよ。俺はもう、税金は全部払ったんだぞ」
俺がビクビクしながら机の上のマイ電卓を引き寄せると、有識者ニキから追加のコメントが投下された。
『ルシフェルさんの今年のこれまでの【総売上】を計算しましょう。大福食品の案件報酬、これまでのスパチャ総額、そして今回のボイス売上250万円。……お気づきですか?』
「……は? 総売上?」
俺は言われた通り、今年に入ってから稼いだ金額を、記憶を頼りに電卓に打ち込んでいった。
「えーっと、アリスとコラボした時のスパチャが爆発して……そのあともコンスタントに稼いで……そこに今回のボイス売上の二百五十万を足す、と」
『ターンッ!』
エンターキーを叩いた瞬間、液晶画面に表示された数字を見て、俺の心臓が「ドクンッ!」と嫌な音を立てた。
『10,234,000』
「い、いっせん、まん……?」
俺の声が、ひっくり返った。
すると、有識者ニキから、死刑宣告のような長文コメントが流れてきた。
『そうです。今年のルシフェルさんの事業の【課税売上高】が、一千万円を突破しました。……ここで勘違いしやすいのが「スパチャ」です。YouTubeに30%の手数料を引かれた後の手取りではなく、引かれる前の【視聴者が投げた総額】があなたの売上になります。つまり、あなたは今、完全に一千万の壁を越えました』
「…………え?」
俺は、息をするのも忘れてモニターを見つめた。
チャット欄の空気が、一瞬にして『お祭り』から『お通夜』へと変わっていく。
『あっ(察し)』
『一千万の壁wwww』
『あーあ、越えちゃったかぁ』
『終わりの始まり』
「ま、待て! 待て待て待て!! 一千万越えたらどうなるんだよ!! 所得税がさらに上がるのか!? 払ってやるよ、こちとら3DVTuberになる男だぞ!!」
俺が虚勢を張って叫ぶと、有識者ニキのコメントが、俺のちっぽけなプライドを無慈悲に粉砕した。
『所得税の問題ではありません。売上が一千万円を超えた事業者は、翌々年から【消費税の課税事業者】となります。今まで免除されていた「リスナーや企業から受け取った消費税」を、国に納付する義務が発生するのです』
「しょ、しょうひぜい……?」
俺は、四十年間生きてきて、初めてその言葉の『本当の恐ろしさ』を理解した。
コンビニで物を買う時に払う、あの10%のことではない。
俺が『売った側』として、売上の10%相当を、後から国に持っていかれるということだ。
「う、嘘だろ……。一千万の売上の消費税って、単純計算で……ひゃくまんえん……?」
『さらに言えば』
有識者ニキの追撃は止まらない。
『消費税を納めるということは、現在の税制上、取引先(スタプロ等の企業)から【インボイス制度(適格請求書発行事業者)】への登録を強く求められることになります。登録すれば、煩雑な事務作業と、消費税の納税地獄があなたを待っています。ようこそ、真の資本主義の世界へ』
「…………」
インボイス。
ニュースで名前だけは聞いたことがあった。フリーランスがこぞって反対し、絶望しているという、あの最凶の魔王の名前。
「あ、あ、あああ……」
俺の口から、声にならない空気が漏れた。
二百五十万円の3D化費用を稼ぐために、俺は利益率の高いボイスを売りまくった。
その結果、目標金額には到達した。
だが、その急激な売上のブーストが、俺自身を『一千万円の壁』の向こう側――消費税という名の無間地獄へと、猛スピードで突き落としてしまったのだ。
『wwwwwwwww』
『目標達成と同時に死刑宣告で草』
『稼げば稼ぐほど首が締まるシステム』
『ボイスが売れすぎたのがトドメになったなww』
『インボイス編、開幕!!』
リスナーたちは、このあまりにも美しすぎる『オチ』に、腹を抱えて大爆笑していた。
夢(3D)を掴んだ瞬間に、現実(税金)の巨大な刃が首に突きつけられる。これぞ、俺のチャンネルの真骨頂。
「ふ、ふざけんなァァァァァァッ!!!」
俺は安物のデスクを、両手で思い切り叩き割る勢いで殴りつけた。
「なんでだよ!! なんで国は俺がちょっと稼いだ瞬間に、新しいトラップ(税金)を発動させんだよ!! 消費税!? インボイス!? 知らねえよそんな魔法の呪文!! 俺はただ、可愛いアリスと3Dで一緒に踊りたかっただけなんだよォォォ!!」
帯広の深夜。
歓喜の祝勝会は、開始わずか十分で、四十歳の悲痛な絶叫が響き渡る『お通夜(絶望編)』へと見事に反転した。
夢にまで見た3Dの肉体。
しかしそれに伴い、俺は日本国政府から『消費税』という新たな十字架を背負わされることになった。
納税者の果てなき戦いは、ここからいよいよ、インボイスという最強のボスを巻き込んで、血みどろの最終局面へと突入していくのだった。
コメント
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いやあ、まさか目標達成の瞬間に、こんな形で「地獄のフラグ」が立つとは…! 前回の確定申告で有識者ニキに鍛えられた読者としては、電卓を叩くくだりで「あっ」ってなりましたよ。スパチャの手取りだけでなく「総額」が売上になるって、確かに盲点ですよね。3D化費用を稼ぐためにボイスを売りまくった結果が、消費税という新たなボスを召喚してしまう皮肉。設定の積み重ねが本当に丁寧で、笑いながらも「これは他人事じゃない」と背筋が冷たくなる構成が秀逸でした。