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◻︎部屋作り
「こんにちは、美和ちゃんの友達の藤森潤です。藤森不動産やってます。ま、個人経営のこじんまりしたやつですけどね」
「はじめまして。美和ちゃんの友達の礼子です。今日はよろしくお願いします」
まぁまぁと挨拶をして、早速部屋へと案内してもらう。
出した条件は、近隣住民におかしな人がいないこと、家賃は6万以内。
3階以上で築年数は古くてもいいけど、リノベーション可能なところ。
場所は礼子の家と私の家との真ん中がベストだけど…2人とも車があるから多少離れていてもオッケー。
藤森不動産の車で案内してもらう。
しばらく走って、同じ建物が並ぶ団地に到着した。
「うわぁっ!ここはなんだかタイムスリップしたみたいな場所だよね?最近よく見るバブル期以前に建てられた団地なのかな?」
「ホントだ。建物自体は年季が入ってそうだね」
「建物だけじゃないよ、住んでる人たちも相当年季が入ってる…高齢化社会の縮図のようなものが見れるよ、さ、こっち」
空き部屋が多いのか、駐車場には余裕があった。
ほどよく手入れされた歩道を進んで、A棟からE棟まであるうちの、B棟に着いた。
「ちょっと古いからエレベーターがないんだよ、3階がきつかったら、下の階もあるよ」
「うーん、行ってみてから決める」
「こっちだよ」
潤君は、鍵をジャラジャラさせながら私の前を歩き、その後ろに礼子がついてきた。
階段の左右に部屋があり、端から二つめの階段をのぼり、303号室にたどり着いた。
クリーム色の玄関ドアは、蝶番のところが少し錆びていてキィと音がした。
「さぁ、どうぞ!ちょっと窓を開けてくるから、入って!」
入り口にスリッパを並べてくれる。
「うわぁ、なんだか懐かしい流し台だね!それにさぁ、天井が低いよね?」
「うん、昔の日本家屋の作りかな?」
部屋の作りは2DK。6畳二間と、8畳ほどのダイニングキッチンがあった。
広いとは言えない室内。
「あ、ベランダに出てみようよ」
礼子が掃き出し窓を開けてベランダに出た。
「すごい!なんでこんなに広いの?」
「ホントだ、よく見るベランダの2倍?もっとありそうだね」
「ここは、部屋はそんなに広くないけど、その分、プランター菜園や、ちょっとしたバーベキューくらいはできるくらいのベランダがあるんだよ。そういうプチ贅沢が流行ったころに建てられたからね」
潤君が説明してくれる。
「それから変な住人は、いないはず。なんせこの棟にある部屋の半分は空き部屋で、上下左右、誰も住んでないから」
「え?そんなに空いてるの?」
「そ、古いからね、いまどきこんなレトロな団地に住もうって人はなかなかいないよ」
「でも、リノベーションはしていいんでしょ」
「うん、隣人に迷惑をかけなければ…って隣人いないから。家賃は4万、敷金礼金はいらない。先に1ヶ月分払ってもらったら契約完了。水道や電気ガスはこっちで業者に手配するよ、急ぐ?」
「うーん、少し待って。リノベーションを考えてからライフラインを契約してもらおうかな?礼子はどう?もっと違うとこも見る?」
「ううん、ここがいい。低い天井と狭い部屋が、秘密基地っぽくて気に入った」
あー、なるほど。
その日に早速契約した。
個室はそれぞれで管理するとして、共用部分は2人で話して作っていく。
「私、ベランダやりたいんだけど」
礼子がベランダで深呼吸をしながら言う。
周りには緑も多く、少し離れたら二級河川も見えて空気も美味しい気がする。
「いいよ、どんな感じにするの?」
「サンシェードつけて、ここでお昼寝もできるようにしたいな」
「楽しみ!じゃあ、私キッチンダイニングをいじってもいい?」
「うん、どうするの?」
「この前テレビでやってた、なんかアジアっぽいやつにしたいんだよね。壁とか床も変えたいな。少しずつやってみる」
私と礼子は、それぞれ家から必要なものを少しずつ運んできた。
ダイニングの壁と天井は、塗り替えて、簾や観葉植物を置いた。
キッチン用品や日用品は、必要なものだけを持ってきた。
水道やガス、電気を契約したので、もう住むこともできる。
ベランダには大きなサンシェードの下に、折り畳み式のハンモック。床にはスノコが敷かれた。
ちょっとしたリゾートみたいだ。
「礼子は、個室はどうするの?」
「私はね、勉強部屋にする。ここだと集中して勉強できそうなんだよね」
「そういえばやりたいことがみつかったって、言ってたよね?なに?」
「ソーシャルワーカー、とか民生委員みたいな仕事をやりたい。ばあさんの介護を経験して、わかったことがあるんだ。例えば手助けして欲しいこととか、話を聞いてくれるだけでいいとか。私みたいに介護で辛い思いをしてる人って、意外とたくさんいると思うんだよね、そんな人を少しでも手伝いたいと思うんだ」
礼子の目がキラキラしている。
「すごい!経験を活かせるってこと?」
「私には美和子がいたから助かった。でも、そんな人が身近にいない人のほうが多いような気がして。どうせなら、専門的な知識も身につけて、やろうかなって」
「礼子ならやれるよ、応援する!私も何かしたいなぁ、何がいいかなあ?」
「美和子ならなんでもできそう」
「そうかな?思いついたら即、実行するよ。だって、明日になったら今日より1日歳とっちゃうから」
「だね?今日が一番若いんだもんね」
この部屋は家族にも内緒。
だって秘密基地だから。
「これでよし!」
「いいねぇ!」
玄関ドアには【サロン・W】と表札を提げた。
足元にはサボテンの鉢植えが並べてある。
「サボテンは、悪いものを吸ってくれるらしいよ、だからこれが枯れなかったら悪い気が
なくなったってことみたい」
「ふーん、うちのサボテン、よく枯れてたんだけど何か悪いものがあったのかな?」
「美和子の場合、水のあげすぎじゃないの?」
「あ…遥那にもそれ言われたわ」
部屋を契約して2週間。
私の部屋には、ヨガマットと、ソファベッドを置いた。
少し運動して、スタイルいいって言われるのがとりあえずの目標。
だんだんと居心地のいい秘密基地らしくなってきた。