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11 - 第11話 サロン・W という名の秘密基地

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2025年01月09日

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◻︎部屋作り


「こんにちは、美和ちゃんの友達の藤森潤です。藤森不動産やってます。ま、個人経営のこじんまりしたやつですけどね」

「はじめまして。美和ちゃんの友達の礼子です。今日はよろしくお願いします」


まぁまぁと挨拶をして、早速部屋へと案内してもらう。

出した条件は、近隣住民におかしな人がいないこと、家賃は6万以内。

3階以上で築年数は古くてもいいけど、リノベーション可能なところ。


場所は礼子の家と私の家との真ん中がベストだけど…2人とも車があるから多少離れていてもオッケー。


藤森不動産の車で案内してもらう。

しばらく走って、同じ建物が並ぶ団地に到着した。


「うわぁっ!ここはなんだかタイムスリップしたみたいな場所だよね?最近よく見るバブル期以前に建てられた団地なのかな?」

「ホントだ。建物自体は年季が入ってそうだね」

「建物だけじゃないよ、住んでる人たちも相当年季が入ってる…高齢化社会の縮図のようなものが見れるよ、さ、こっち」


空き部屋が多いのか、駐車場には余裕があった。

ほどよく手入れされた歩道を進んで、A棟からE棟まであるうちの、B棟に着いた。


「ちょっと古いからエレベーターがないんだよ、3階がきつかったら、下の階もあるよ」

「うーん、行ってみてから決める」

「こっちだよ」


潤君は、鍵をジャラジャラさせながら私の前を歩き、その後ろに礼子がついてきた。

階段の左右に部屋があり、端から二つめの階段をのぼり、303号室にたどり着いた。

クリーム色の玄関ドアは、蝶番のところが少し錆びていてキィと音がした。


「さぁ、どうぞ!ちょっと窓を開けてくるから、入って!」


入り口にスリッパを並べてくれる。


「うわぁ、なんだか懐かしい流し台だね!それにさぁ、天井が低いよね?」

「うん、昔の日本家屋の作りかな?」


部屋の作りは2DK。6畳二間と、8畳ほどのダイニングキッチンがあった。

広いとは言えない室内。


「あ、ベランダに出てみようよ」


礼子が掃き出し窓を開けてベランダに出た。


「すごい!なんでこんなに広いの?」

「ホントだ、よく見るベランダの2倍?もっとありそうだね」

「ここは、部屋はそんなに広くないけど、その分、プランター菜園や、ちょっとしたバーベキューくらいはできるくらいのベランダがあるんだよ。そういうプチ贅沢が流行ったころに建てられたからね」


潤君が説明してくれる。


「それから変な住人は、いないはず。なんせこの棟にある部屋の半分は空き部屋で、上下左右、誰も住んでないから」

「え?そんなに空いてるの?」

「そ、古いからね、いまどきこんなレトロな団地に住もうって人はなかなかいないよ」

「でも、リノベーションはしていいんでしょ」

「うん、隣人に迷惑をかけなければ…って隣人いないから。家賃は4万、敷金礼金はいらない。先に1ヶ月分払ってもらったら契約完了。水道や電気ガスはこっちで業者に手配するよ、急ぐ?」

「うーん、少し待って。リノベーションを考えてからライフラインを契約してもらおうかな?礼子はどう?もっと違うとこも見る?」

「ううん、ここがいい。低い天井と狭い部屋が、秘密基地っぽくて気に入った」


あー、なるほど。

その日に早速契約した。




個室はそれぞれで管理するとして、共用部分は2人で話して作っていく。


「私、ベランダやりたいんだけど」


礼子がベランダで深呼吸をしながら言う。

周りには緑も多く、少し離れたら二級河川も見えて空気も美味しい気がする。


「いいよ、どんな感じにするの?」

「サンシェードつけて、ここでお昼寝もできるようにしたいな」

「楽しみ!じゃあ、私キッチンダイニングをいじってもいい?」

「うん、どうするの?」

「この前テレビでやってた、なんかアジアっぽいやつにしたいんだよね。壁とか床も変えたいな。少しずつやってみる」


私と礼子は、それぞれ家から必要なものを少しずつ運んできた。

ダイニングの壁と天井は、塗り替えて、簾や観葉植物を置いた。

キッチン用品や日用品は、必要なものだけを持ってきた。

水道やガス、電気を契約したので、もう住むこともできる。


ベランダには大きなサンシェードの下に、折り畳み式のハンモック。床にはスノコが敷かれた。

ちょっとしたリゾートみたいだ。


「礼子は、個室はどうするの?」

「私はね、勉強部屋にする。ここだと集中して勉強できそうなんだよね」

「そういえばやりたいことがみつかったって、言ってたよね?なに?」

「ソーシャルワーカー、とか民生委員みたいな仕事をやりたい。ばあさんの介護を経験して、わかったことがあるんだ。例えば手助けして欲しいこととか、話を聞いてくれるだけでいいとか。私みたいに介護で辛い思いをしてる人って、意外とたくさんいると思うんだよね、そんな人を少しでも手伝いたいと思うんだ」


礼子の目がキラキラしている。


「すごい!経験を活かせるってこと?」

「私には美和子がいたから助かった。でも、そんな人が身近にいない人のほうが多いような気がして。どうせなら、専門的な知識も身につけて、やろうかなって」

「礼子ならやれるよ、応援する!私も何かしたいなぁ、何がいいかなあ?」

「美和子ならなんでもできそう」

「そうかな?思いついたら即、実行するよ。だって、明日になったら今日より1日歳とっちゃうから」

「だね?今日が一番若いんだもんね」


この部屋は家族にも内緒。

だって秘密基地だから。


「これでよし!」

「いいねぇ!」


玄関ドアには【サロン・W】と表札を提げた。

足元にはサボテンの鉢植えが並べてある。


「サボテンは、悪いものを吸ってくれるらしいよ、だからこれが枯れなかったら悪い気が

なくなったってことみたい」

「ふーん、うちのサボテン、よく枯れてたんだけど何か悪いものがあったのかな?」

「美和子の場合、水のあげすぎじゃないの?」

「あ…遥那にもそれ言われたわ」




部屋を契約して2週間。

私の部屋には、ヨガマットと、ソファベッドを置いた。

少し運動して、スタイルいいって言われるのがとりあえずの目標。

だんだんと居心地のいい秘密基地らしくなってきた。









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