テラーノベル
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「早く、早くなのだ!!」
シーニャの声には必死さがあった。おれが急いで向かうと、そこには巨大な水の塊があり、ルティはその水塊の中に閉じ込められていた。おれと同様にルティにも水耐性があるのにだ。それにもかかわらず全く抵抗出来ていないのは、恐らくスライムによる封じだろう。
「ルティ! ルティ、おれだ。アックだ!」
おれは間近で叫んでルティに呼び掛けた。しかし彼女から返事は無い。
命に別状は無さそうだが……。
「この水、変なのだ。全然流れていないのだ。シーニャ、爪で掻き出そうとした! でもこぼれてこないのだ。ウニャ」
「これは……普通の水じゃない。助け出すには――」
凍らせてしまえば危ないし、炎で蒸発させようとするのはあまりにもリスクが高い。
「フフッフフフ! それがそんなにも大事? そんなのよりも……稲妻を味わってみない?」
スライムの女を放置していたが、しびれを切らしたのか背後から声が聞こえ、同時に雷による攻撃をしてきた。
「そうか、雷も使えるんだったな。だがおれには無意味な攻撃だったけどな」
「あらそう? あなたは確かに属性の加護があって、耐えられるんでしょうね。だけど、獣は?」
「獣?」
「そこにいる、心が弱くて臆病な弱い獣!」
シーニャのことか?
振り向くとダメージを受けてはいないが、音と光に驚いた状態にあった。シーニャに預けていた杖が地面に転がっている。恐らく痺れとショックを受けたに違いない。
シーニャを操ったのは間違いなくこいつだろう。
「お前の狙いは何だ? 何故おれや彼女たちを狙う?」
「狙い? フフ、興味を持った。それだけ。欲したものは近くに置いておきたい。……あなたもそうでしょう?」
「それだけか? それだけで危険な目に遭わせるというのか?」
「あなたは人間のくせに、全てを手に入れた稀な人間。あなたを手に入れる為にはどんなやり方でもやる……ただそれだけのこと。獣もドワーフも邪魔なだけ」
闇というだけあって陰湿な奴だ。
「――なるほど。おれの力が欲しいわけか。それなら奪えばいい。その前に、あの娘を解放しろ! 彼女を解放しなければ……」
「あぁ、怖い怖い~。残念だけどスライムの塊を解くことはあたしにも出来ないわね。あの中は、異空間みたいなもの。魔法でどうこう出来るものじゃ――ッグゲゲゲ!?」
無駄口を叩く奴に容赦は無用だ。おれは通用するしないに関係無く氷の針を無数に作り出し、全て突き刺した。そのまま間髪入れず、強力な炎属性を浴びせてやった。
「ウギュルギュ……ククッ、普通のスライムなら炎が有効でも、あたしは闇神! 人間ごとき魔法にやられるわけないだろう?」
「その割には痛がっていたようだが?」
「クフフ……!」
「――!」
クラティアは自身の形状を自在に変化、体の一部を使って鋭い触手を伸ばす。スライムならではの攻撃なのだろう。だが避けられない攻撃では無い。触手攻撃を見る限り、ダメージを負わせるというよりは洗脳する攻撃に近い。
恐らくここに迷い込んで来たシーニャは、触手に捕まり操られた。それはともかく、ここで時間を費やすとルティが危険な状態に陥る。ずっと押し黙っているフィーサを使って斬るより他の手段は無い。
「フフ、光の剣をお使いになる?」
「そうだと言ったら?」
「最初から気付いていたし、その剣の人格が隙を突こうとしていたのも気付いていたけど、その剣ではあたしは斬れないの。残念なことですわね」
「そうなのか? フィーサ」
「……ごめんなさいなの」
弱みがあるのは誤りでは無さそうだ。仮に魔法を付与させたとしてもフィーサでは斬ることが出来ない。だが、一瞬でもひるませられれば別の攻撃手段で終わらせられそうだが。
「クク、フフフ……諦めて、あたしのモノになったらいい!」
「これをくれてやろう! 受け取れ!!」
おれは迷う暇なく、ガチャで得た物を使用した。
「あら、何をくれる――ウジュウゥゥ!?」
「光属性結晶だ。たらふく喰え!」
フィーサによる攻撃が効かないとしても光の結晶であれば一瞬でも時間稼ぎにはなる。その効果はすぐに表れた。一時的にだが奴の触手が引っ込み、動きが止んだ。その僅かな隙を利用し転がっている杖を手にした。
そして、
「よぐもおぉ!! ごぉのぉぉぉ、人間がぁぁぁ!!」
「うっ!?」
「クク、フフフ……捕まえた。アック様を捕まえた……これであなたも闇に屈す――」
バニッシュメントスタッフを手にしたおれに、伸びてきた触手が手足に掴みかかる。触手から体内に闇の力が流れ込んでくるようだ。
だが、
「闇攻撃をしているようだが、おれには効かないぞ? 闇ダメージは全部吸収するからな」
「そ、そんなあぁぁぁぁ……!?」
「近付いて来てくれたお礼に、”罰”を与えてやるぞ。ほれ」
触手によってクラティアとの距離はほぼ至近。どちらも逃げようのない近さだ。それを生かしバニッシュメントスタッフを軽く振り下ろし、クラティアの体に当ててやる。
「カッ……ク、クカカカ……」
杖に触れた途端、クラティアのスライムとしての形が崩れ始めた。崩れた液体は黒く濁った水路に流されて行く。
「お、終わった……なの?」