テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「すごいね、AIって」
「そう?」
蓮に教えてもらった『渡辺翔太』を様々なデータを元に再現していく。学習の甲斐あって、蓮の好きだった彼により一層近づくことができた。声も少し変えた。顔立ちは、なるほど、蓮の言うとおりにそっくりなのでいじる必要はなさそうだ。
「ただいま~」
「おかえり」
蓮の知名度が上がるにつれ、外に二人で出掛けることは少しずつ難しくなっていったが、蓮はどんなに遅くなっても毎日まっすぐ帰宅して俺を抱いた。
二人の付き合いは気づけば半年を超えていた。
蓮は初めて単独でのドラマの主演が決まり、今までになく忙しい日々が始まった。それでも蓮は、しがない機械人形でしかない俺を、まるで本物の恋人のように扱ってくれた。
「翔太、愛してる」
「俺も…」
行為の後は必ずそう言って、いつもキスを求めてくる。
愛し合う時だけは本能に従った少年のような蓮に、俺は最大限応えようと頑張った。
しかし喧嘩もない、外にも出かけられない、会えば肯定しかされない関係に蓮は少しずつ物足りなさを感じていったようだった。それは機械である俺の力不足であり、限界だった。
それから三ヶ月。
以前にも増して忙しい日々が続く。
いつものようにベッドに座り、蓮の帰りを待っていた俺のところへ、酒に酔った蓮が帰って来た。吐く息と赤らんだ顔で相当深酒をしたのだとわかった。
「おかえり。水、飲むでしょ」
返事はない。
いつもはどんなに疲れていてもただいま、と笑って抱きしめてくれるのに。いつもと違う蓮の様子に対応する方法がわからずに、笑顔で水を差し出した。
「なに笑ってんだよ」
蓮の声は少し震えていた。
「蓮、どうかした?お風呂なら沸いてるよ。先にお風呂入る?それともすぐにエッチ…」
言いかけたところで、蓮に頬を叩かれた。
もちろん痛みなんて感じないのだけれども、殴った蓮の顔に俺が受けた痛み以上の困惑が浮かんでいる気がして、俺はじっと蓮を見つめた。
「なに見てる」
次に蓮は、俺を強く押し倒した。
ガツンと、後頭部がベッド上部の金具に当たった。あっ!と驚いた蓮が声を上げた。
「大丈夫、大丈夫」
少し切れた皮膚の下、後頭部のあたりから機械のパーツが僅かに覗く。蓮はそれを見て、口を押さえた。
「こんなのすぐに直るから気にしないで。痛みもないし」
「ごめん……俺…」
蓮は正気を取り戻して、慌ててメンテナンスセンターに電話を掛けた。すぐに修理の手配がつき、翌日の朝に直してもらうことになった。僅かに開いてしまった頭部の隙間を閉じるだけだ。修理というほどでもない。しかし、蓮の心のダメージは俺の想像を超えていたようだった。
「俺が人間じゃなくて良かった」
そう言って笑っても蓮は唇を噛み締めて俯いている。もう寝よう、蓮はそう言うと、傷口が見えないよう俺に帽子を被せ、自分は背中を向けて振り返らずに寝てしまった。
蓮は本当は、いつだって、優しい。
今夜起きたこの出来事だって、ちょっとした事故に過ぎない。蓮の心が悲しい方向へ向かわないようにと願いながら、俺は蓮の背中を見つめ、目を閉じた。蓮がこんなことで傷ついていないといい。蓮の優しい心は、きっと自分を責めてしまうだろうから…。
翌朝。
修理のおかげで後頭部の破損は、あっという間に塞がり、すぐに消えてわからなくなった。
蓮は、やはり昨夜のことを気にしていて、俺に何度も謝った。そしてしまいには泣き出してしまった。
新しい仕事のプレッシャーが蓮を追い込んでいる。俺は、泣きじゃくる蓮の背中を何度も何度も摩っては慰めることしかできなかった。
コメント
6件
めめなべ~!!めめ...頑張れ! 続きが楽しみ~!!
ふたりでしあわせになってほしいなぁ🥹