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思えばあれから、蓮との関係性が少しずつ変わったように思う。蓮は俺を持て余し始めた。俺は変わらず蓮に接していたけれど、蓮が俺を抱く回数も徐々に減っていった。
「蓮……?」
もう俺に飽きたの、とは流石に聞けなかった。
俺たちは道具でしかない。主人に捨てられたらそれまでだ。強要はできない。二人一緒にいても黙っている時間が増えた。
そんなある日、蓮は俺をクローゼットの中に隠した。
俺たち進化系ラブドールは、厄介なことに、一度起動したら役目を終える日まで電源を切ることが出来ない。体内にある自家発電で常に動き続けるし、目を閉じて省電力モードになることはあっても、活動を停止することはない。
それに気づいた蓮が、俺にスイッチがないことに少し慌てながら、仕方なしにクローゼットに隠したのだった。
「ここで静かにしていてくれる?」
「……うん」
命令とあれば、俺はそのようにする。
省電力モードに切り替え、体育座りをして、洋服の中で座っていた。
すると、蓮の部屋に蓮以外の人の気配がした。
「いらっしゃい、阿部ちゃん」
「お邪魔します」
声が聞こえた。初めて聞く、しかしとても優しい声だった。
二人は仲良く仕事の話やプライベートの話をして、初めはぎこちないながらも、最後の方にはとても楽しそうに話が弾んでいた。
二時間もしないうちに、そろそろ帰るね、という相手の声がして、その人は帰って行った。
少し間があってから、クローゼットの扉が開く。蓮は俺の腕を引いて、
「ごめんね、狭かったろ?」
と、気遣うように言った。
「平気だよ」
笑う時に回路が混線でもしたのか、うまく口角が上がらなくて、少々苦労したけれども、蓮は俺にキスを落とすと、いつものように優しく愛し始めた。その日の蓮の愛撫はいつも以上に優しくて、とても大切にされていると錯覚してしまうような、そんな温かい時間だった。
行為を終え、シャワーを浴びに行った蓮を待っていると、携帯にメッセージの着信があった。風呂上がりの蓮がそれに気づき、ふっ、と頬を緩ませた。
俺の中で何かが壊れていく感覚がこの日から始まる。
同時に一時的に消去されていたメモリが蘇ったが、俺はそれを意図的に見ないようにした。
「蓮、もう一度、俺を抱いて」
「どうしたの?」
蓮は少し驚き、明日早いから今日はもう寝ようと優しく髪を撫で、その後は結局抱き合うだけで蓮は眠った。
蓮にできた新しい友人の名は、阿部亮平といった。蓮が初めてクイズ番組に出演した時に、レギュラー出演していた彼と出会ったのだろう。留守番をしている時に、テレビで共演している彼らを見た。
–蓮は急速に彼に惹かれていったのだと思う。
フリーのアナウンサーとして、ニュース番組でコメンテーターをしたり、クイズ番組に出演している阿部さんは、その優しい印象そのままにプライベートでは蓮を包み込み、事あるごとに彼を癒していった。二人の仲が深まるにつれ、蓮は帰りが遅くなり、俺を顧みなくなっていった。
俺はじきにその役目を終えようとしていた。
コメント
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初コメ失礼します ́- これからは表立って応援させていただきます🫶🏻 続きが気になりすぎる作品を生み出せるまきぴよさんはやり天才…😏💗
おお?ええ? なになに!? 続きが気になります!