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蓮は元々、性欲が強いほうだ。それを隠すために外では紳士的に振る舞っているが、真都の前では誤魔化せない。
ヒートが近づくと、触れ合える時間が格段に増える──その事実だけで胸が高鳴る。
もちろん、真都が辛くないように準備や配慮は欠かさない。
けれど、同時に「いっぱい抱きしめられる」「ずっとそばにいられる」ことへの期待も隠せなかった。
仕事帰りの電車の中でも、ふと真都の匂いや熱を思い出してしまい、つい口元が緩む。
《蓮・……早く会いてぇ……》
そんな独り言を飲み込みながら、蓮はまっすぐ帰宅する。
ヒートは真都の身体にとって大きな負担だと分かっている。
それでも、自分を求めてくれるその期間を、蓮は心から楽しみにしていた。
夜、ベッドの上で並んで横になりながら、真都がふと蓮を見つめた。
《真都・……蓮くんてさ、αだし……抱きたいって思わないの?》
一瞬、蓮は驚いたように目を瞬かせ、それから小さく笑った。
《蓮・思うよ?〔笑〕》
あっさり肯定したあと、指先で真都の髪を軽く梳きながら続ける。
《蓮・でもマイまだ20歳だし、将来もあるし、モデルだし?〔笑〕避妊具つけても100%はないし──なら俺が抱かれてるほうが安全じゃん?〔笑〕》
真都は少し目を細め、蓮の顔をじっと見つめる。
蓮はその視線から逃げず、ふっと照れたように笑みを深めた。
《蓮・……それに、好きだから……マイに抱かれるの》
その言葉に、真都の耳がわずかに赤くなる。
大きな手が蓮の頬に触れ、そっと額を合わせると──静かな呼吸の中、互いの温度だけが近づいていった。
朝の光がカーテン越しに差し込む。
ぼんやりと目を開けた蓮は、いつもよりさらに瞼が重く、タレ目が際立っていた。
普段は涼しげな眼差しも、寝起きだとふにゃりとした柔らかさを帯びている。
髪は少し乱れ、低い声で「……おはよ」と呟くその姿は、モデルのような整った顔立ちなのに妙に無防備だ。
真都はそんな蓮を見て、思わず口元を緩めた。
《真都・……蓮くん、今めちゃくちゃ可愛い♡》
《蓮・……寝起きだからだろ〔笑〕》
そう言いつつも、まだ半分眠そうな目で真都を見上げ、伸ばした手で無意識に腕を引き寄せていた。蓮の視線に気づいた真都が、にやりと笑って首を傾げる。
《真都・? 蓮くんなに?〔笑〕……凄い見てくる♡》
その瞬間、椅子から立ち上がり、蓮のほうへゆっくり歩いてくる。
大きな体で影を落としながら近づき、膝に手をついて覗き込むと──蓮は自然と目を細めた。
《蓮・ん?……頸の噛み跡、薄くなってるから付け直さないとなって》
真都は一瞬だけ目を丸くし、それから喉を鳴らすように笑う。
《真都・……付け直す、ね♡》
言い終えると同時に、蓮の首筋に腕を回し、ゆっくりと距離を詰めていく。
唇が触れる寸前、蓮は視線を逸らさずに、わずかに息を吸い込んだ。《蓮・ほら、後ろ向いて?〔笑〕》
優しく促され、真都は素直に背中を見せる。
長い首筋が露わになり、筋肉のラインがきれいに浮かび上がる。
《真都・……うん♡》
蓮が自分にマーキングしてくれる──その事実が、胸の奥までじんわりと嬉しい。
ほんの少し身をかがめて、蓮が唇を近づけるのを待った。
蓮の手が肩を支え、次の瞬間、首筋に温かく柔らかい唇が触れる。
軽く吸われるたびに、真都はくすぐったそうに目を細め、それでも逃げようとはしない。
やがて噛み跡が浮かび始めると、蓮は満足そうに微笑み、そっと舌で跡をなぞった。
《蓮・……これでまた、俺のだって分かるだろ》
《真都・……うん♡ もっと付けてもいいよ?》
蓮は苦笑しながらも、その提案を断る気はなかった。
買い物袋を整理していた真都の手が、ふと止まった。
中から取り出されたのは、どう見ても「そっち系」の玩具。
《真都・……蓮くん、コレなに?……》
低く抑えた声に、わずかな拗ねが混じる。
蓮は「やべ」と一瞬だけ目を逸らし、それから気まずそうに笑った。
《蓮・あー……それ、まぁ……ヒート用の準備っていうか……》
《真都・俺以外に使うの?》
真都の眉がきゅっと下がり、瞳の奥に不満が見える。
蓮は慌てて両手を振った。
《蓮・ち、違う違う! マイ用じゃなくて……俺のだよ》
その答えに、真都は一瞬ぽかんとし──次の瞬間、耳まで真っ赤にした。
《真都・……は?……蓮くん……可愛いこと言わないでよ……》
口ではそう言いながらも、目元はほんのり緩み、嬉しそうに蓮を見つめていた。
蓮は視線を逸らしながら、少し言いづらそうに口を開いた。
《蓮・その……マイが疲れてるときとかに……》
しかしその説明が終わる前に、真都がじっと蓮を見つめて口を挟む。
《真都・……俺以外の入れるの? 蓮くんは俺のαなのに? 玩具使うの?》
声のトーンは低く、けれどその奥にあるのは明らかに嫉妬と拗ね。
長身の身体を少し前に傾け、蓮の膝に手をつき、逃げ場をなくすように覗き込む。
蓮は慌てて両手を振った。
《蓮・ち、違うって! マイが嫌なら絶対使わない! ……ただ、俺……マイ以外は欲しくないから……》
その言葉に、真都の眉間の皺が少しだけ緩む。
けれど、まだ口元は尖ったまま。
《真都・……じゃあ俺が全部してあげるから、玩具なんかいらない》
蓮は思わず苦笑し、真都の頬に手を添えた。
《蓮・……うん、分かったよ》
真都は手に持っていた玩具を、軽くペシッとテーブルの上に投げた。
その音がやけに鋭く響く。
《真都・……蓮くんは俺の》
低く静かな声。けれど、その奥にあるのはΩ特有の強い本能だ。
Ωは、自分以外の匂いがついた物を番であるαが使うことを、強く嫌う。
それは理屈じゃなく、種として刻まれた拒絶反応に近い。
ましてやそれが“中に入るもの”なら尚更だ。
蓮はその視線を正面から受け止め、すぐに両手を上げて降参のポーズをとった。
《蓮・……分かった。マイが嫌がることはしない》
真都はまだ頬をふくれさせながらも、蓮の膝に腰を下ろし、腕を首に回す。
《真都・……俺だけ見てて》
《蓮・……ああ、もちろん》
蓮の答えに、真都はやっと少しだけ機嫌を戻した。真都が膝の上で腕を組んだまま、少しだけ顔を背けている。
その横顔は相変わらず整っているのに、拗ねている分だけ子どもっぽく見えた。
蓮はそっと真都の顎に手を添え、視線を合わせるように顔を近づける。
《蓮・……ごめんな? マイのこと一番に考えてるよ》
そう言うと、唇が触れるか触れないかの距離で囁き、次の瞬間ゆっくりとキスを落とす。
最初は軽く触れるだけだったが、真都の腕が蓮の首をぎゅっと抱きしめた瞬間、蓮はさらに深く口づけた。
木蓮の香りと、真都特有の甘い体温が混ざり合う。
拗ねていた表情が、だんだんと溶けていくのを蓮は唇越しに感じた。
《真都・……ん、蓮くん……許してあげる》
その言葉に、蓮は小さく笑い、もう一度優しくキスを重ねた。キスの合間に真都が唇を離し、蓮をじっと見つめる。
瞳の奥には、まだほんの少しだけ拗ねの名残がある。
《真都・……蓮くんは俺のが1番好きだよね?》
問いかけというより、確かめるような響き。
蓮はためらいもなく笑みを浮かべ、真っ直ぐに答える。
《蓮・勿論。マイのデカいの、1番好き》
そのストレートすぎる言葉に、真都は一瞬目を瞬かせ、それから喉を震わせて笑った。
《真都・……そんな真顔で言わないでよ、恥ずかしいじゃん♡》
けれど、蓮の膝に乗ったままの体は、明らかにその言葉を喜んでいる。
真都はもう一度蓮の首に腕を回し、嬉しそうに頬をすり寄せた。