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雫石しま
大晦日の鍋パーティー大晦日の夕方、雪は止んで、村全体が静かな白に包まれていた。空はまだ薄暗く、遠くの山の稜線がぼんやり浮かんでいる。私はコートを羽織り、拓也さんと手を繋いで、北村さん家の広い納屋に向かった。
納屋の外には、雪だるまがいくつも並んでいて、赤い手袋の鼻やボタンの目が、蝋燭の灯りにキラキラ反射している。
中に入ると、薪ストーブの火がぱちぱち鳴り、土間に大きな鍋がいくつも並んでいた。村の人たちが集まって、鍋パーティーの準備をしていた。
「里奈ちゃん、来た来た! こっちこっち!」
田上のおばあちゃんが手を振って呼ぶ。隣には剛くんがいて、大きな鍋をかき混ぜながら、熊みたいな笑顔で迎えてくれる。
「伊藤さん! 座って座って! 今日は伊藤さんの歓迎会兼大晦日パーティーだよ!」
私は少し照れながら、拓也さんと並んで土間に座る。鍋からは、湯気が立ち上り、豚肉、鶏肉、白菜、豆腐、きのこ、里芋……村の人が持ち寄った具材がごろごろ入っている。豆腐は白山名物の固豆腐だ。
じいちゃんが「うちの里芋、甘いぞ!」って自慢げに鍋に追加していく。
「里奈ちゃん、まずはこれ食べて元気出して!」
田上のおばあちゃんが、熱々の鍋を椀に取り分けてくれる。麹味噌の汁は出汁が効いていて、優しい味。一口飲むと、身体の芯まで温かさが広がる。
「美味しい……! 美味しいです!」
みんなが笑って、「里奈ちゃんが元気になってよかった」「先生とラブラブで、幸せのお裾分けしてもらわなきゃ」ってからかい合う。私は頰を赤くして、拓也さんの袖をぎゅっと掴む。拓也さんが私の肩を抱き寄せて、耳元で囁く。
「みんな、里奈のこと大好きだよ……俺が一番好きだけどな」
「拓也さん!やめてください!もう!」
鍋が沸騰して、湯気が立ち上る中、剛くんが大きな声で言う。「じゃあ、今年の締めくくり! みんなで『今年一年、無病息災!』って乾杯しよう!」みんながコップを掲げる。お酒じゃなくて、子供たちはジュース、大人たちは熱燗やノンアルコール。私は拓也さんと目を合わせて、ビールのコップを合わせる。
「今年一年、無病息災!」
村全体の声が重なって、納屋に響く。雪の外では、遠くで除雪車のシャンシャンシャンが聞こえるけど、今はみんなの笑い声が上書きしてる。鍋を囲んで、話が弾む。
じいちゃんが「昔は大晦日、みんなで除雪して、納屋で鍋やって、朝まで歌ってたもんじゃ」って昔話を始めて、剛くんが「今は俺が除雪車回してるから、朝まで寝られるよ!」って笑う。
田上のおばあちゃんが私の左指の指輪をめざとく見つけて、「里奈ちゃん、来年は結婚式かな?」ってからかって、みんなが「いいねえ!」って盛り上がる。私は顔を赤くして、拓也さんの手をぎゅっと握る。拓也さんが私の耳元で、「来年は、みんなに祝ってもらおうか」って囁く。胸が熱くなって、涙がにじむけど、幸せな涙。
鍋が空になる頃、みんなで外に出る。雪は止んで、オリオン座がくっきり輝いている。剛くんたちが作った雪だるまの蝋燭が、みんなの温かさみたいに、ぽっとオレンジの灯りを灯して、村を見守る。
「来年も、みんなで鍋しようね!」
田上のおばあちゃんが言う。みんなが頷いて、笑い合う。私は拓也さんの手を握って、雪だるまの灯りを見つめた。今年の大晦日はオリオン座の下で、村の人たちと一緒に、笑顔で過ごす。
社畜の頃は、カウントダウンも一人でコンビニのチキン食べてた。
今は違う。温かい鍋、笑い声、雪だるまの灯り、拓也さんの手……全部が、私の新しい年越し。もう胸がいっぱいすぎて、涙が出そう。来年は、もっとみんなと、もっと拓也さんと、幸せを積み重ねていこう。
年越しそばが振る舞われ、除夜の鐘が鳴り響く。青年団が準備した、打ち上げ花火が澄み渡る冬空に、大きな華を咲かせた。子供たちは大喜びで、雪の田んぼを転がりまわる。
「里奈、今年は何に挑戦したい?」
「カフェを開きたい!」
拓也さんが私の手を握ったまま、静かに笑う。
「カフェか……いいね。里奈の淹れるコーヒー、クリニックの患者さんたちみんな癒されてるもんな」
私は頷いて、夜空を見上げる。
「WEBでも宣伝して、たくさんの人にこの村を知ってもらって、河内村をもっと賑やかにしたい!」
「それは、いい案だ」
オリオン座の三つ星が、まるで「がんばれ」って言ってるみたい。
「ネットセラピストの仕事も続けながら、縁側で小さなカフェをやりたいんです。村の人が集まって、コーヒー飲んで、雪見ながらおしゃべりして……みんなで作ったお菓子とか、出せたらいいなって」
剛くんが雪だるまの横から大声で言う。
「いいじゃん! 俺、看板作るよ! 木彫りで『里奈カフェ』って彫ってやる!」
田上のおばあちゃんがくすくす笑って、
「私、里奈ちゃんのコーヒー飲みに毎日通うわよ。飴玉も置いてね」
山下じいちゃんがスコップを肩に担いで、
「畑の野菜、全部持ってくからな。里奈カフェの食材は、村の自慢の野菜で決まりだ」
「あら、うちの卵も」
「牛乳はワシんとこに任せろ」
みんなの声が重なって、笑い声が雪の夜に響く。花火の残光が雪だるまの顔を照らして、オレンジの蝋燭と混ざって、温かい光になる。 拓也さんが私の耳元で囁く。
「里奈のカフェ、俺が一番の常連になるよ。朝イチでコーヒー淹れてくれて、夜は閉店後に二人で片付けて……それが俺の来年の夢」
私は拓也さんの胸に顔を寄せて、小さく頷く。
「……約束です。拓也さんの一番の常連席、確保します」
除夜の鐘が最後の音を響かせて、新しい年が始まる。雪の田んぼに、雪だるまの灯りと花火の残り香と、みんなの笑顔が残る。
私は拓也さんの手を握りしめて、心の中で誓う。来年は、カフェを開いて、ネットセラピストとしてもっとたくさんの人を癒して、村の人たちと一緒に、もっとたくさんの思い出を作って、拓也さんと、もっとたくさんの星を見上げて、幸せを、積み重ねていく。
オリオン座が、静かに見守ってる。だから大丈夫!
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