「それじゃ仕掛けを落とす。水中での動きをよく見ていてくれ」
マシューさんがそう言うと同時に、ドラムが逆回転し、ローラーの先から仕掛けが海へと落ちて行った。
仕掛けは一番下に大きな重りがあり、その上4mのところまでは何もなし。
その上に糸が自由に回るような金具がついていて、そこから上は70cmごとに疑似餌がついている。
疑似餌はだいたい中指くらいの長さと太さで、上側が金具で糸に繋がっていて、下側は6方向に出ている上向きの針でカラマロを引っ掛けるという構造だ。
そんな疑似餌が大量についている長い長い仕掛けを、一番上の疑似餌が80mくらい下になるまで落とした後。
マシューさんはドラムを操作し、仕掛けを上下に不規則に動かし始めた。
これがマシューさんが言った『よく見ていてくれ』の動きだろうか。
見るとその動きに吸い寄せられるかのように、カラマロが仕掛けに近づいてくる。
仕掛けに群れが近づいて、何匹かが仕掛けの疑似餌にくっつく。
ただ針に返しが無いので、引っかかったと思っても、仕掛けを下に動かすと外れてしまう。
そんな感じで何匹も仕掛けにくっついては離れていくのを、本当にこれで大丈夫なのだろうかと思いつつ見ている。
出来るだけ多くのカラマロを釣り上げられるタイミングを見計らっているのだろうとは思うけれど。
そんな感じでカラマロの多数が警戒感なく仕掛けにくっついたところで、ドラムが回り始めた。
おおむね1分に60mくらいの速さで、仕掛けは上へと巻き上げられていく。
巻き上げ始めた時の動きで、あわてて疑似餌を食べようとしてひっかかったカラマロも結構多い。
おおむね疑似餌の3割くらいには、カラマロが引っかかっている。
「これ以上速く巻き上げると、カラマロが千切れて外れちまう。2数える間にドラム1回転というのが基本だ」
なんて説明をしている間にも、仕掛けは上へと巻き上げられていって。
そしてついに、カラマロが海上まで出てきた。
仕掛けと一緒にローラー部分を回って、そして仕掛けが船に向けて斜め下向きになったところで針から外れ、カラマロ受け台に落ちて、そのまま手前へと飛んで、セットしてある海水入りの桶に落ちる。
1秒に5~6匹はカラマロが上がって、そして桶に入っていく。
なるほど、これが趣味の釣りではなく、プロの漁というものか。
もちろん他の船や漁師は、ここまで魔道具を使っていないだろうけれど。
疑似餌がついている部分が完全に巻き上げられて、大量のカラマロが桶に入った。
そして巻き上げられた仕掛けは再び海へと落ちていき、そして隣のカラマロ釣り魔道具のドラムが巻き上げを開始する。
「こんな感じだ。疑似餌は150本ついている。だから1回につき、だいたい40匹から70匹くらいだな、釣れるのは。これをだいたい10回繰り返す形だ。
あと、獲れたカラマロのうち、沖漬けによさそうなのはさっきのタレ入りのバケツに入れて、他は後部の冷凍貯蔵庫に入れておく。これはだいたい3回巻き上げた時にやればいい。
以上だ。わからないことはあるか」
細かい部分、たとえばカラマロをおびき寄せる上下の動きなどは、完全には理解できてはいない。
それでも一通りの釣り方については、ほぼ理解したと思う。
しかし聞きたいことは、他にある。
カラマロなんて食べるのは初めてだから、出来る限りいい状態で持ち帰りたい。
となると『生きたまま収納魔法』を使うのがベストだ。
マシューさんは魔道具修理の腕も知っている。
今更言っても問題ないだろう。
なので聞いてみる。
「俺は生物を生きたまま、時間停止状態で収納できる魔法を持っています。今回はそれを使っていいですか」
「そんな収納魔法があるのか!」
思いきりそう聞かれてしまった。
確かに常識外れの魔法だろうとは理解しているけれど。
「ええ。その気になれば中に人を入れて運ぶことも可能です。もし必要なら、収納の中で冷凍することも、何なら調理することも可能です」
「……何というか、魔道具修理以上にとんでもない魔法だな。でもわかった。もちろん使ってくれ。ただ市場に出すのは冷凍の方が使い勝手がいいから、儂が獲った分は冷凍にする」
なるほど。
冷凍なら魔法が使えない人でも、かなり長い間、新鮮なまま保存できる。
そういう利便性も、市場に出す場合は必要ということか。
「わかりました。それでは反対側で釣ってみます」
ということで船尾を通って反対側に行って、操作用の取っ手を握る。
2つあるカラマロ釣り魔道具のドラムが回転し、仕掛けを海中へと落とし始めた。
先ほどのマシューさんの操作だと、一番上の疑似餌が80mくらい下になるように落としていた。
取り合えず最初は、同じ深さでいいだろう。
疑似餌を落としていくと、すっとカラマロが近づく。
どうやら動いているものを餌として追うという習性があるようだ。
なら一度完全に落とした後の、上下に動かす動きがやっぱりポイントだろう。
そう思いつつ、まずは仕掛けが予定の深さまで落ちるのを待つ。






