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カフェの朝。
まだ空気がひんやりしている中、環奈はいつもより早く店に着いた。
「おはようございます、松村さん。」
「おはよう、環奈さん。」
しかし、優一郎の顔にはどこか影があった。
いつもの穏やかな笑顔が少しだけ消えている。
「……大丈夫ですか?」
「うん、ちょっと考え事をしてて。」
環奈は胸がざわついた。
いつも頼もしい彼のその“迷い”が、どうしても気になった。
***
その日の午後。
環奈はカフェの片付け中に、小さなミスをしてしまう。
「ごめんなさい、優一郎さん。コーヒーの注文を間違えちゃって……。」
優一郎は深呼吸をして、優しく笑った。
「大丈夫、誰にでも失敗はあるよ。でも、焦らず落ち着いていこう。」
その声に、環奈の胸は熱くなった。
「ありがとうございます。……私、もっとしっかりしなきゃ。」
「環奈さんは十分頑張ってるよ。」
でも彼のその言葉の裏に、どこか寂しさが隠れているのを感じた。
***
閉店後、二人きりの店内。
優一郎がぽつりと言った。
「実は、転職を考えているんだ。」
「え……?」
環奈は驚きで声が出なかった。
「今の仕事は自分に合っているか分からなくて……。新しい環境で、自分を試してみたいと思って。」
環奈はその言葉を受けて、胸が締めつけられるようだった。
(彼が新しい場所へ行くなんて……)
「環奈さんと、もっと一緒にいられなくなるかもしれないんだ。」
その瞬間、環奈の心に強い想いが湧き上がった。
「私……その前に、伝えたいことがあります。」
「何?」
環奈は深呼吸をし、言葉を選んだ。
「私、優一郎さんのことが好きです。」
静かな店内に、彼女の声だけが響いた。
「……環奈さん。」
優一郎の目がじっと環奈を見つめる。
「ありがとう。僕も、環奈さんが特別だと思ってた。」
二人の間に、言葉にできなかった想いが、ようやく形を持ち始めた。
***
翌朝、カフェの窓から差し込む光が二人を優しく包み込んだ。
不安もあるけれど、
それでもこの瞬間が、何よりも大切だった。
つづく
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