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#そのじん
笑う門には福来る
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#nmnm注意
nanana

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夜。
部屋の明かりだけが、静かに灯っていた。
仁人はベッドに腰を下ろしたまま、スマホを見つめていた。
画面には、見慣れたInstagramの文字。
その先にある、ライブ配信。
いつもなら。
何も考えずに押せるボタンだった。
けれど今日は。
指先が、動かなかった。
一度、息を吸う。
ゆっくり吐く。
それでも、心臓はうるさいままだった。
これを押したら。
もう後戻りはできない。
今まで二人で守ってきたものを。
自分の口で、明かすことになる。
勇斗はきっと怒る。
マネージャーにも怒られる。
メンバーだって驚くだろう。
明日から何が変わるのか。
仕事にどんな影響が出るのか。
ファンがどう受け止めるのか。
何一つ、分からない。
怖くないわけがなかった。
昨日まで。
その怖さに耐えられなくて。
勇斗から離れようとしていたくらいなのだから。
それでも。
もう。
勇斗一人に背負わせることだけはしたくなかった。
仁人は目を閉じる。
浮かんだのは、勇斗の顔だった。
――俺が頑張ればいい。
きっと。
今頃も、そんなことを考えている。
俳優として積み上げてきたものも。
M!LKも。
そして、仁人も。
どれ一つ手放さずに、守ろうとしている。
全部、自分が守ればいいと。
「……ほんと、ばか」
小さく笑った。
相談したら。
絶対に止められる。
『俺が何とかするから』
『仁人は何もしなくていいから』
そう言って。
また自分の前に立つ。
だから。
今日だけは、相談しない。
仁人はスマートフォンを握り直した。
「……ごめん、勇斗」
そして。
震える指先で、画面に触れた。
ライブ配信が始まった。
数秒もしないうちに、コメントが流れ始める。
『仁人くん!?』
『え、ライブ!?』
『急だ!』
『こんばんはー!』
『珍しい!どうしたの?』
その文字を見た瞬間。
仁人は反射的に笑った。
「こんばんは」
いつものように、小さく手を振る。
「急に始めてごめんね」
声は。
思っていたより普通に出た。
それだけで、少し安心する。
「みんな、今日も一日お疲れさま」
『お疲れさまー!』
『仁人くんもお疲れ!』
『今日は仕事?』
「今日はね」
流れていくコメントを目で追う。
「会議してた」
「結構長かったかな」
『お疲れさま😭』
『大変だったんだ』
『ご飯食べた?』
「食べた食べた」
仁人は少し笑った。
「俺、そんな心配される?」
『される笑』
『心配させてよ😂』
「なんだよ、それ」
思わず笑う。
いつもの配信。
いつものやり取り。
いつものファン。
ほんの数分前まで。
あれほど緊張していたことを忘れそうになる。
けれど。
忘れるわけにはいかなかった。
今日。
このライブを始めた理由。
仁人の笑顔が、少しずつ消えていった。
コメントを追っていた目が止まる。
「……」
言わなきゃ。
そのために始めた。
分かっているのに。
喉が動かなかった。
『仁人くん?』
『どうした?』
『なんかあった?』
『今日ちょっと緊張してる?』
仁人は目を瞬いた。
そして。
困ったように笑った。
「……分かる?」
『分かるよ笑』
『なんかいつもと違う』
『ソワソワしてる😂』
「まじか……」
小さく息を吐く。
隠せているつもりだった。
全然、隠せていなかったらしい。
仁人は一度、俯いた。
今なら。
まだ戻れる。
適当な話をして。
笑って。
そのまま配信を終わることだってできる。
そうすれば。
少なくとも今までと何も変わらない。
けれど。
それでは。
勇斗だけが前に立ったままだ。
自分はまた。
守られるだけになる。
仁人はゆっくり息を吸った。
一度、目を閉じる。
そして。
顔を上げた。
もう。
逃げない。
「……今日」
声が変わった。
少し硬い。
それでも。
真っすぐカメラを見る。
「急にライブ始めたのは」
一度、唇を結んだ。
「俺から、みんなに伝えたいことがあるからです」
コメントの流れが変わった。
『え?』
『なに?』
『急に怖い😭』
『大丈夫?』
仁人はもう。
コメントを追わなかった。
「昨日から」
ゆっくりと言葉を選ぶ。
「佐野の配信のことで、たくさん心配かけてると思います」
一度、息を吸った。
「昨日」
指先に力が入る。
「勇斗が電話してた相手」
心臓が。
大きく鳴った。
怖い。
それでも。
ここまで来た。
仁人は真っすぐカメラを見つめた。
「……俺です」
言った。
その瞬間。
時間が止まったような気がした。
コメントを見る余裕なんてなかった。
仁人は続ける。
「俺と」
一度だけ目を閉じる。
そして。
覚悟を決めた。
「佐野勇斗は、お付き合いしています」
口にした。
とうとう。
自分の口で。
誰にも言わずに守ってきた関係を。
公にした。
胸の奥が。
痛いほど鳴っている。
それでも。
まだ終われない。
「今回のこと」
少しだけ声が震えた。
「勇斗だけを責めないでほしいです」
仁人は真っすぐカメラを見る。
「配信を切り忘れたのは勇斗だけど」
「俺たちの関係を公表しないって決めてたのは、二人だから」
「勇斗一人の責任じゃありません」
一度、息を吐く。
「俺も、同じです」
それだけは。
どうしても伝えたかった。
勇斗だけが悪いわけじゃない。
勇斗だけが。
謝ることじゃない。
仁人は静かに頭を下げた。
「驚かせてしまって、ごめんなさい」
「今まで話してこなかったことも」
「こんな形で伝えることになったことも」
「本当に、ごめんなさい」
深く。
頭を下げる。
しばらく。
顔を上げられなかった。
怖かった。
何を言われるだろう。
どれだけの人が。
自分たちから離れていくだろう。
それも全部。
受け止めるつもりで始めた。
だから。
見なければいけない。
仁人はゆっくりと顔を上げた。
そして。
恐る恐る、コメント欄へ視線を向ける。
『びっくりした』
最初に目に入った言葉だった。
胸が強く鳴る。
『正直、めちゃくちゃびっくりしてる』
次。
『勇斗くんと仁人くんだったんだ……』
指先が冷たくなっていく。
けれど。
そのすぐあとだった。
『でも、話してくれてありがとう』
仁人の目が止まった。
『一人でこれ話すの怖かったよね』
『勇気出してくれてありがとう』
『勇斗くんだけを責めないでって言うためにライブしたの?』
『二人とも幸せでいてほしい』
『悪いことしたわけじゃないよ』
『仁人くん、大丈夫だよ』
次から次へと。
コメントが流れていく。
仁人は。
何も言えなかった。
もっと。
怖い言葉が並ぶと思っていた。
もちろん。
全員が同じように受け入れてくれるとは思っていない。
驚く人もいる。
すぐには受け入れられない人もいる。
離れていく人だって。
きっといる。
それでも。
今。
自分の目の前を流れていく言葉は。
思っていたより。
ずっと。
温かかった。
『これからも応援するよ』
『二人で幸せになって』
『仁人くん、話してくれてありがとう』
仁人は何度か瞬きをした。
「……え」
声が漏れた。
自分でも。
驚くほど小さな声だった。
『仁人くん?』
『大丈夫?』
『泣きそう?』
「……泣かないよ」
反射的に答えた。
その直後だった。
一粒。
頬を伝った。
仁人が固まる。
「……」
『泣いてるじゃん😭』
『仁人くん泣いてる』
『可愛い😭』
「……最悪」
慌てて手の甲で拭う。
泣くつもりなんてなかった。
ちゃんと話して。
ちゃんと謝って。
ちゃんと受け止める。
そのつもりだった。
なのに。
もう一粒。
また、こぼれた。
張りつめていたものが。
切れたわけではなかった。
ただ。
少しだけ。
ほどけた。
怖くて仕方なかった場所に。
思っていたよりずっと温かく迎えてもらえた。
それが。
ただ、嬉しかった。
「……ごめん」
仁人は目元を拭いながら笑う。
「泣くつもりじゃなかったんだけど」
『安心したんだね😭』
『よかった』
『仁人くん可愛い』
『こんなの見たら応援するしかないよ』
「可愛くないって」
少し眉を寄せる。
けれど。
目元は赤い。
声も少し掠れている。
まるで説得力がなかった。
『いや可愛い笑』
『勇斗くんずるいな』
仁人が首を傾げる。
「……何が?」
『こんな仁人くん知ってたんでしょ?笑』
『勇斗くんだけずるい😂』
『普段からこんな感じなのかな』
『勇斗くんにめっちゃ大事にされてそう』
「いや、なんでそうなるんだよ」
少し呆れたように笑う。
その反応に。
コメント欄がさらに盛り上がった。
『待って、仁人くん可愛いすぎる。これお嫁さんポジションじゃない?笑』
「……は?」
さっきまで泣いていた仁人の顔が、一瞬で変わった。
『分かるwww』
『絶対仁人くんがお嫁さん側😂』
『勇斗くんに守られてそう』
『でも今日は勇斗くん守るために一人で配信したんだよ😭』
『そこがまた可愛い』
「ちょっと待って」
仁人が画面へ少し近づく。
「俺、別に嫁じゃないから」
『即否定www』
『そこ大事なんだ😂』
「大事だろ」
そして。
その時だった。
流れていたコメントの中に。
一つの言葉が現れた。
『……あれ?』
仁人は何となく目で追う。
『待って』
『私、今すごいことに気づいた』
「……何?」
嫌な予感がした。
『仁人くん、“じん”って呼んでいいの嫁になる人だけって言ってたよね?』
「……」
仁人の動きが止まった。
『あ!!!!』
『そうじゃんwww』
『言ってた!』
『待って待って』
『でも勇斗くんって……』
コメント欄が一瞬で加速する。
そして。
『あ! なら“じん”って呼べるの勇斗くんだけ!?』
仁人が黙った。
『えええええ!!!』
『まじ!?』
『勇斗くんだけ!?😂』
『恋人特権!?』
『私たちはダメなのに!?笑』
『勇斗くんずるい!!』
「……お前ら」
仁人は額へ手を当てた。
「そういうことだけ、よく覚えてんな」
『否定しないwww』
『じゃあ本当に勇斗くんは“じん”って呼べるの?』
『呼ばせてるの!?』
「……」
『また黙った😂』
『答え出てる笑』
「……まあ」
仁人は視線を逸らした。
言うか迷って。
結局、小さく答える。
「付き合ってるから」
コメント欄が爆発した。
『きゃーーー!!!』
『付き合ってるから!?!?』
『さらっと言ったwww』
『恋人はいいんだ😂』
『勇斗くんだけ“じん”って呼べるの強い』
『勇斗くんずるすぎる!!』
「だから」
仁人は思わず笑った。
「何がずるいんだよ」
『じゃあ私もじんって呼ぶ!』
「ダメ」
間髪入れずに返した。
『早いwww』
『即答😂』
『私たちはダメなの!?』
「ダメに決まってんじゃん」
『勇斗くんはいいのに?』
「勇斗は……」
そこまで言って。
仁人が止まる。
『勇斗は???』
『続きどうぞ笑』
『特別だから?』
「……うるさい」
目を逸らす。
今度は。
泣いたからではない。
ほんの少し。
耳が赤くなっていた。
『可愛いwww』
『勇斗くんずるい😂』
『思ってたより勇斗くんに甘い笑』
『これは恋人特権だ』
『“じん”は勇斗くん専用ね、了解😂』
「そういう言い方すんなって」
『じゃあ、じん!』
「ダメ!」
即答。
コメント欄に笑いが溢れた。
『そこは絶対ダメなんだwww』
『分かりました仁人くん😂』
『勇斗くんだけの特権にしときます笑』
「……それでいい」
言ってから。
仁人は少しだけ照れくさそうに笑った。
『今の顔可愛い!』
『勇斗くん本当にずるい笑』
「もういいって!」
仁人も笑う。
ついさっきまで。
この画面を見ることさえ怖かった。
勇斗との関係を話した瞬間。
今までのすべてが変わってしまうと思っていた。
それなのに。
今は。
勇斗との呼び方ひとつで。
いつものようにファンと言い合っている。
そのことが。
何より。
仁人を安心させた。
何も変わらないわけじゃない。
これから変わっていくことも、きっとある。
それでも。
自分たちのことを知ったあとも。
こうして笑ってくれる人がいる。
幸せになってと。
言ってくれる人がいる。
それだけで。
怖くて仕方なかった未来に。
少しだけ。
光が差したような気がした。
仁人は流れていくコメントを見つめる。
『二人とも幸せになってね』
『これからも応援するよ』
『勇斗くんと仁人くんだから嬉しい』
『勇斗くん、仁人くん泣かせたら許さないからね!笑』
「それは本人に言って」
笑って返す。
そして。
少しだけ表情を緩めた。
「……ありがとう」
今度は。
泣いたことを誤魔化さなかった。
「ほんとに、ありがとうございます」
深く頭を下げる。
顔を上げるまでに。
少し時間がかかった。
「正直」
照れくさそうに笑う。
「こんなふうに受け入れてもらえると思ってなかったから」
一度、息を吐く。
「すごく……安心しました」
その言葉は。
今日一番。
素直な言葉だった。
「俺は」
真っすぐカメラを見る。
「勇斗と出会えたことを、後悔したことはないです」
少しだけ笑う。
「これからも、それは変わらないと思います」
『幸せになってね!』
『二人とも応援する!』
『勇斗くんにも伝えて!』
『じん、幸せになってね!』
「だからダメだって!」
最後まで。
そこだけは絶対に許さなかった。
コメント欄に笑いが溢れる。
仁人も。
とうとう声を出して笑った。
「もう……」
目元を一度拭う。
「じゃあ、そろそろ終わります」
小さく手を振る。
「急だったのに来てくれて、ありがとうございました」
「おやすみ」
画面へ指を伸ばす。
けれど。
最後にもう一度だけ止まった。
「……ほんとに、ありがとう」
今度こそ。
ライブ配信を終了した。
画面が暗くなる。
途端に。
部屋へ静寂が戻ってきた。
仁人はしばらく。
スマートフォンを握ったまま動かなかった。
怖かった。
本当に。
怖かった。
それでも。
受け入れてもらえた。
笑ってもらえた。
これまでと同じように。
仁人として。
話してもらえた。
胸の奥にあった重いものが。
少しだけ軽くなっていた。
仁人はスマートフォンを胸元へ引き寄せる。
目を閉じた。
「……勇斗」
小さく名前を呼ぶ。
怒るだろうな。
絶対に。
それでも。
仁人は少しだけ笑った。
「これで……少しは守れたかな」
勇斗一人に。
背負わせなくて済んだ。
今は。
それだけで十分だった。
コメント
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よく頑張ったよ、よっすぃー。 泣きそう。。。😭😭😭
ああ、もう……泣ける話でした。仁人が一人で配信を決意して、震える指で話し始めるシーン、本当に胸が締めつけられました。勇斗だけに背負わせたくないって気持ちが痛いほど伝わってきて……それでいてファンからの温かいコメントに涙ぐむ仁人の姿には、私ももらい泣きしそうになりました。 「じん」呼びの特権とか、ファンとのやりとりの軽妙さも好きです。緊張と安心がゆっくり入れ替わる流れが、とても丁寧で美しかった。