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終わってほしく無い😭💦 まだ 読みたいです。
終わって欲しくないです😭
終わっちゃうの!?続き早く見たいけど終わって欲しくない…🥺🥺💛💜
連日続いた仕事に区切りがついたのは、昨日のこと。
今日はやっと訪れた貴重な休日だが、朝からやらなければならないことがたくさんあった。
「照〜、このダンボールの中、あと少ししか入ってないから出して畳んじゃうね」
食器や壊れやすいもの、洋服をしまった後で、まだ見慣れないリビングに設置した本棚に、雑誌を並べていると、入り口からひょこっと顔を出したふっかが、そう声を掛けてきた。
俺は「ありがと」と言いながら、ふっかが手渡してくれた大容量のプロテインの袋を受け取った。
俺とふっかは基本的に仕事のスケジュールが合うので、二人の予定を調整することは簡単だが、ありがたいことに、丸一日自由が効く休みがなかなか訪れなかった。
だから、二人で住もうと決めてから今日の引っ越しを迎えるまでに、結構な時間が経ってしまっていた。
二人でまったりと過ごせそうな家を探すところから始まって、入居審査の結果を待ちながら、今住んでいるお互いの家を出るための手続きを進めてきた。
仕事の合間にこれらを進めるのは、なかなかに骨が折れた。だからこそ、目黒が同じように阿部との新居探しと手続きをしながら、仕事をしていたことを本当にすごいと思った。
疲れた顔など一つも見せずに、毎日カメラの前に立っていたあいつを、心から尊敬する。
最も、あいつの場合は、それ以上に阿部と一緒に暮らせることへの喜びから、毎日アドレナリンが出っ放しで、全身麻痺していただけのようにも思えたが。
しかし、どちらにせよ、阿部が絡んだ時のあいつの行動力と熱意には感服した。
畳んでも畳んでも、まだ開いていない段ボールがそこかしこに点在している。
それを見ては少しため息が出るが、次に開けた箱の中のものを見て、俺の顔は途端に綻んでいった。
プラスティックで出来た小さなお家を箱から出して、本棚の一角に収納した。自立するうさぎや、くまの人形たちも掬い上げて、そのお家に帰してあげる。
今日から始まる自分自身の生活に合わせて、心機一転のつもりで 昨日までの状態から少し配置を変えようと思い立った。この間新しく仲間入りした四匹のうさぎと、ずっとうちにいた五匹のくまが暮らす場所のレイアウトを考え始めた。
バランスを見ながら、微調整を繰り返していると、後ろから声を掛けられた。
「照〜、夜になっちゃうよー?」
「ん?」
「うさぎさん達には、照が落ち着いてからゆっくり過ごしてもらったら?」
「ん、確かに」
ふっかの声に振り返って辺りを見回してみると、まだ部屋の中は、ほとんどと言っていいほどに足の踏み場が無かった。
結構片付いてきたと思っていたのだが、それはどうやら気のせいだったようだ。
「うん、そうする」
「終わったらうまいもん食いに行こうぜー」
ふっかの助言通り、動物さん達には、片付けが終わるまでは、りんごの木のお家の前で立っていてもらうことにして、俺は、次のダンボールの封を開けた。
お昼頃になって、やっとリビングの床が見えてきた。
ふっかは濁音だらけのため息を吐きながら、二つのダンボールの隙間に寝転がった。
俺も、ずっと動かし続けていた体からふっと力を抜いて、その場に座り込んだ。
「っぁ“あ“ぁぁ〜…、づがれ“たぁ“…」
「やっと、座れるくらいにはなってきたね…」
「一回休憩しよー…ちょっともう、動けない…」
「そうだね、お昼どうする?」
「なんか頼もっか」
「そうだね」
スマホを開いて、食べたいものをふっかと話し合いながら、アプリで出前を頼んだ。
20分くらい経って、インターフォンの音が鳴った。
この家に入ってから初めて聞くその音は、とても新鮮だった。
引っ越し屋さんが先ほど置いてくれた背の低い机の上に、お弁当の容器を並べて食べ進める。
明日も一応休みだけれど、今日はせっかくの広い部屋で、この疲れ切った体をゆったりと落ち着けたかったので、できるところまでやりたいという気持ちはある。
そうまったりとはしていられないな、と思いながら、ご飯を食べ終わった後はどこから手を付けようかと考える。
明日は足りないものを買いに行きたいなとも思って、俺はふっかに聞いてみた。
「ねぇふっか」
「ぁう?」
ふっかがラーメンを口に入れたタイミングで話しかけてしまったためか、変な声が聞こえてくる。
ふっかは容器に顔を近づけた状態で、目だけで俺の方を見てくれる。
「明日買い物行こうよ。食材とか、足りないものとか買いに行きたい」
「あー、何時から?」
「何時でもいいけど、なんか予定あるの?」
「明日10時にちょっとだけ社長に呼ばれちゃったのよ。そんなに長くかかんないとは思うから、その後だったら大丈夫」
「そうだったんだ、俺も行く」
「…え?」
「ん?」
ふっかはラーメンを飲み込んで、少しの間があってから、困惑したような声を上げた。俺もどうしたのかと首を傾げた。
そんな俺をまじまじと見ながら、ふっかは箸を持った手をひらひらと振った。
「え、いやいいよ」
「いや、なんで。俺も一緒に行くよ」
「いやいや、俺が「なんで?」って聞きたいわ」
「心配だから?」
「いや、事務所行くだけなんだけど…?」
「事務所に変な人乱入してきたらどうすんの」
「ないだろ…そんなワイドショーみたいなこと…」
「わかんないじゃん。とにかく、俺も一緒に行く。」
「へいへい、わぁーったよ。ったく、お前はほんとに…」
「ん?なに?」
「過保護っつーか、束縛激しいっつーか、なんつーか、そんな感じだなーって」
「え」
ふっかの言葉に、今度は俺が困惑する番だった。
え、俺って束縛激しいの?
自分では気が付かなかった。
だって、好きな人のことは常に把握していたいし、どこにいるのかとか、何をしているのかとか、誰と一緒なのかとか、全部知っておきたい。
いつどこで、何が起きるかわからない。
ふっかはすごくモテるから、ふっかが俺のことを好きでいてくれていても、俺以外の誰かに掻っ攫われてしまうかもしれないと思うと、そんなのは絶対に嫌だった。
だから、自分の体の自由が効く限り、できるだけふっかのそばにいたかった。
そうすることで、少しでもふっかを守れるのなら、俺はいつだってそうしていたかった。
俺としては、純粋にふっかを守りたくて発した言葉だったのだが、これはふっかにとっては鬱陶しいものなのだろうか。
少しだけ不安になる。
ふっかはケロッとした顔で、またラーメンを啜り始めていたが、本当は俺のこういう性格を嫌だと思っていたらどうしよう。
「んじゃあ、明日は朝事務所行って、社長の話が終わったら一緒に買い物行こ。昼飯も食いに行こうぜ、明日は何食う?」
「うーん…」
「照?ひかるー?どうした?」
「むー…」
「おーい?」
「…こんな俺、やだ…?」
「………はい?」
明日の予定を話し合っていたら、照が急に静かになった。
事務所に行く用事があると伝えると、「俺も行く」と言い張るので、俺が折れて了承した後くらいからだろうか。
今日はやっと迎えられた引っ越しの日で、朝から二人して動きっぱなしだったし、なんなら照は昨日までずっと仕事だったのだ。
ただでさえ疲れているんだから、家でゆっくりしていて欲しくて、その申し出を断ったのだが、照は聞く耳を持たなかった。
休みなく動き回って、照が過労で体を壊してしまうことは避けたかったし、 これでも、俺は照とあいつらのマネージャーなのだ。
こいつらの健康だって守りたい。そんな思いで発した俺の言葉は、もっと大きくて強い照の意志に押し負けてしまった。
こいつ、ほんと心配性だな。
と思いつつ、満更でもない。
大切にしてくれてんだな、俺も照に守られてんだな、と改めて感じ入っては照れ臭くて、誤魔化すように顔をくしゃくしゃにした。
仕方なく一緒に行く方向で話を落ち着かせて、俺はまたラーメンを一筋箸で取って啜った。
チャーシューを掴みながら、明日のスケジュールのまとめをするように照に伝えると、照は急に唸り出した。
何度か呼びかけても反応が無いので、じっと照の反応を待った。
少しの間を開けて、突然照が俺の方を見る。
照は、眉を下げながら小さく口を開いて言った。
「こんな俺、やだ…?」と。
質問の意図が分からなくて、俺は咄嗟に「はい?」とだけ返した。
さっきまで、「絶対に!一緒に!行く!!」と言わんばかりに強く主張するような瞳で俺を見ていたのに、今の照は、そよ風が吹いただけで泣いてしまうんじゃないか?ってくらいに弱った目をしていた。
「こんな俺」って、「どんな俺」?
…あ、もしかして束縛激しいって言ったこと、気にしてんのかな?
ああは言ったが、嫌だとは思っていない。
多分相手が照だからそう思えるんだろうが、前々から過保護で過干渉な奴だと感じていた照を、今更そんなことで嫌になったりしない。
箸を容器の上に置いて、照に向き直る。
急にしおらしくなってしまったヒーローを慰めるために、俺は照の頭の上へ手を伸ばした。
あの日、照がそうしてくれたように。
いっぱいいっぱいの俺を、落ち着かせてくれた時みたいに。
ふわふわの髪ごとその頭を優しく撫でて、照に伝えた。
「んなことないよ、守ってくれてありがと」
少しは安心できたのか、照はにんまりと笑ってくれた。
テーブルの上に、食べかけのラーメンとチョコレートソースのかかったパンケーキ、一週間後に迫ったパーティーの招待状が並ぶ。
そのカードの右端には、少し色褪せた赤紫色の薔薇の花びらが散っていた。
To Be Continued………………
(Next.End)