宮舘と渡辺のやり取りを目撃してしまってから、向井の心は落ち着かない。
個人の仕事の時は忘れていられるが、メンバーが揃うとどうしても二人を意識してしまう。
今日はバラエティ番組の特番の撮影だ。
普段、慣れている自分たちの冠番組とは勝手が違い、メンバー全員緊張気味だった。
初対面の共演者も多い。どんな流れになるのか想像もつかなかった。
収録中、こんなVTRが流れる。
有名なプロレスラーが、「闘魂注入」と称して、並んでいるファンに思いっ切りビンタをして、次々と気合を入れていくシーン。
ファンたちは殴られてもみんな笑顔でお礼を言って喜んでいる。
それを見てなんとなく出演しているタレントたちがざわつき始める。
この流れはもしかして…。
向井は深澤を思わず見るが、深澤は首を振る。
深澤も何も聞いていないようだ。
番組MCのベテラン芸人が、華々しく手を挙げた。
「それでは、ご本人の登場です!」
大袈裟な音楽とともに、先ほど映像で紹介されたプロレスラー本人がスタジオに登場した。
「では、みなさん並んでください!!」
共演者たちが嫌がる中、次々と気合を入れられるタレントが選ばれていく。
かなり強いビンタで、受けた芸人たちはみんな頬を抑え、顔をしかめている。あまりの痛みに涙ぐんでいるタレントもいる。
生で見るとなかなかの衝撃だ。
そしてまさかとは思ったが、自分たちの番も回って来た。
「それでは、渡辺くん、行きましょう!」
💙ええっ?俺?
渡辺は本気で怯えている。
顔が命のアイドル。デビューしてから大分経ち、今では体を張る仕事は減っていたが、今回だけは避けられそうにない。拒否してしまったら次の仕事に影響してしまうかもしれない。相手はかなり芸歴が上の大御所MCの指名なので、無下に断ることも難しい。
メンバーが引きながら渡辺を見守る中、渡辺は恐怖で顔が引き攣っている。
そんな渡辺を見兼ねて、向井が勢いよく名乗り出た。
🧡俺がやる!!!
💙康二…?
🧡俺に任せてや!しょっぴーは邪魔やから下がっとき!
本当はむっちゃ怖いけど、しょっぴーのためならこれくらい…!
向井は余裕の振りをして、渡辺に親指を立ててみせた。
🧡思いっきりやってくださいね!!
「それではお願いします!〇〇さん、向井康二にも気合を入れてください」
バッチーーーン!!!
向井の目には本当に火花が見えた。
細い向井の体はレスラーのビンタで思いっきり吹っ飛び、岩本が受け止めた。
スタジオのみんなが向井に注目するが、向井は頬をさすりながら、笑って立ち上がった。
🧡こんなん、なんてことないやん!
💙康二…血、出てる
渡辺に言われて、向井は鼻をこすってみた。鮮血が手にべっとりと付いている。
せっかく体を張ったのに、これでは放送されないかもしれん。
メンバーが心配そうにしている。スタジオも静まり返っている。
しかし、向井は血を拭い、立ち上がると、それすらも笑い飛ばした。
🧡ディレクターさん!こんだけ痛い思いしたんやから、ちゃんと放送してな!!!
向井の機転で、現場はどっと笑いに包まれた。
収録後。
救護室で手当てを受ける向井。
隣りには渡辺が付き添っていた。
💙康二、痛かったよな…ごめんな
🧡こんなん、なんてことないわ
胸を張ってみせるが、鼻には丸めた脱脂綿がぎゅうぎゅうに詰まっている。向井はそれが恥ずかしい。中を深く切ったせいで、忌まわしいことになかなか血も止まらない。
さっきまで目黒も付き添ってくれていたが、向井に気を利かせたのか先に帰って行った。
せっかくしょっぴーと二人きりなのに、ほんまにかっこ悪いわ…
向井は落ち込んでいるが、渡辺の方がなかなか向井のそばを離れようとしない。
ようやく血が止まり、さて帰ろうとなった時、渡辺が言った。
💙心配だから、家まで送る
向井は渡辺の申し出に内心飛び上がりそうなくらい嬉しかったが、それを悟られないよう唇を嚙みしめた。
🧡ええよ。もう遅いし。
💙でもそれじゃあ俺の気が済まないから
🧡…ありがとう…じゃ、お願いします…
帰りのタクシーの中でも、渡辺はずっと向井のことを心配していた。
ここまで優しくされると向井にはなんだかくすぐったい。でも、悪い気はしない。
永遠にこの時間が続けばいいのにという向井の願いもむなしく、タクシーはほどなくして向井の自宅に到着した。
思い切って渡辺に向井は声を掛ける。
🧡ちょっとウチに寄って行かへん?
💙でも、迷惑じゃない?
🧡しょっぴーならいつでも大歓迎や!
💙じゃあ、久しぶりだし、ちょっとだけ…
向井は嬉しくて仕方ない。久しぶりに家に来た渡辺に何が飲みたいか、空腹じゃないか、あれこれと世話を焼く。挙句の果てには座ってろと渡辺に怒られる。しかしそれすらも向井には嬉しい。
時間が経つにつれ、渡辺の緊張も少しずつ解けてきた。
夜も深まり、気が付いたら日付が変わろうとしている。
💙もうこんな時間か
渡辺が誰に言うともなく呟く。
🧡なあ、今夜泊って行かん?
💙でも明日康二は朝から仕事だろ?
渡辺に言われて改めて自分のスケジュールを確認すると、確かに向井には早朝から仕事が入っていた。
向井は渡辺がそれを知っていてくれていることが嬉しい。もしかして多少は興味を持ってもらえてるのかもしれない、と向井は思った。
🧡大丈夫や!俺、しょっぴーともっとおりたい!
渡辺の顔が赤くなる。
💙康二のそういうとこほんとに恥ずい…(笑)
渡辺の顔が赤くなる。向井がしつこくねだった結果、渡辺は泊まっていくことを了承した。
そしてその夜、二人は外が明るくなるまで楽しく話した。
あの撮影をきっかけに、向井と渡辺の距離が戻った。
向井はいつも渡辺の隣りに座り、時には寄りかかったり、抱き着いたりしている。
渡辺は嫌そうな顔をする時もあるが、だいたいは向井のさせるがままにしている。
今日は久しぶりに向井の家に目黒が遊びに来ている。
乾杯を済ませると、目黒は開口一番、向井を労う。
🖤良かったね
🧡ほんまに。痛い思いした甲斐あったわ
目黒が喜んでくれたので、向井も嬉しくなる。
宮舘のことは気になるが、あれ以降二人が変わった感じもしない。
🧡俺、決めたわ
🖤ん?
🧡しょっぴーに自分の気持ちを言う
🖤おお、ついに?
🧡今なら言える気がすんねん
🖤そうか、がんばれよ康二
🧡ありがとう!
向井の胸は弾んでいる。今なら渡辺も話を聞いてくれるかもしれない。
宮舘との決着がつく前に、自分のことも候補に入れて考えてほしいと向井は思っていた。
コメント
7件
いいぞ!脈ありや!(断定)笑
休憩所2更新してます!そちらもぜひ!!!🙇♂️