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「ええぇ? サンフィアさん、いなくなっちゃったんですか!?」
「どこに行ったのか分からないが、そのようだ……」
ミルシェの話を聞く限りでは、途中までは文句を言いながらもついて来ていたようだ。辺りは霧深いが、魔物はいなく何かが起こったとは考えにくい。ましてどこかに隠れるような所があるわけでも無い。
「アックさま、どうされます?」
「フニャウゥ~……フニャ~」
シーニャはひたすらおれにくっついて甘えっぱなしなので、無理に意見は聞かないでおくとして。やはりここは一番近くにいたミルシェの意見を聞いて判断する。
村の入り口が目の前に見えているし、村に進んでみるという手もある。ルティなら何か知っていそうだし、まずはルティに駄目もとで聞いてみるか。
「ルティ! この辺のことはお前が詳しい。何か手がかりになるものは無いのか?」
「はぇ? 詳しくは無いですよー? あ! でも、もしかしたら……」
「……何か思い当たるものが?」
それにしても村の入り口にまで来ているのに誰も出迎えないな。認められた者しか入れないという掟があるからなのか?
そうだとしたら厄介な村だ。
「あ! もしかしたらなんですけど~、サンフィアさんって武器を手にしていませんでしたか?」
ネーヴェル村は武器を手にしてはいけない――だったな。だがその話ならイデアベルクでしていたし、ミルシェもしつこく注意していたはず。
そう思ってミルシェの顔を見ると、呆れた表情を見せている。
「それは無いですわよ。あたしは、確かに槍を取り上げましたもの」
「それもそうだな」
その場面を見たわけじゃないが、ミルシェは厳しい女性だ。たとえ相手が誰であろうと厳しく言い放ってくれる。
「――ですけれど、さすがに”内側”に隠し持っていたとしたら、そこまでは分からないことですわね」
「他にも武器を隠し持っていたと?」
「ええ。それだと分かりかねますわ。アックさまだって、そこまで分からないのでは?」
「……そこまではな」
護身用に短剣でも忍ばせていた、あるいはエルフの部下たちに持たせられていたか。そうだとしても、突如いなくなるなんてこの村は何かあるな。
ミルシェと悩みながら話をしていると、気付かないうちに霧が晴れていたようだ。そしてミルシェとサンフィアがいた辺りには、サンフィアが着ていたエルフの布服だけが見えている。
「布服だけ!? ま、まさか……」
「期待させておいて残念ですけれど、サンフィアは脱がされたわけではありませんわね」
「へ?」
「エルフは用心深い種族ですから、何着か持ってきていたのでは?」
どうやら裸にされたわけでは無く、ストックの布服らしい。別に期待していた訳じゃなかったが。
「なるほど」
「それはともかく、彼女は何者かに連れ去られたのでは?」
「そう考えるべきだろうな……」
状況が良く掴めないが、霧に紛れて複数の何者かが彼女をどこかに連れて行った……そう考えるべきだろう。
「アック様、アック様! とりあえず、村に行きませんかっ?」
「サンフィアのことはどうするんだ?」
「心配は心配ですが~……実は、ここは時間が経つとまた霧が濃くなっちゃうんですよ~」
「何? そうなると何かあるのか? 村はすぐそこだぞ?」
「大変なことが起きちゃうんですよ~! 《アックさん》」
ルティの言葉に半信半疑だったが、確かに晴れていた霧がまた出だしている。それもさっきよりも濃い感じで。
「ウニャ、アック! ドワーフの言うとおりにするのだ! 毛が逆立ってるのだ。何か起きそうなのだ」
「シーニャも何か感じているのか」
「ウニャッ!」
さっきまでおれにくっついていたシーニャだったが、嫌な気配でも感じ取ったのか耳をぴくぴくさせている。サンフィアのこともあるが、村が歓迎しているうちに入るしか無さそうだ。
「アック様、その前に魔石を~……」
「ん? 魔石を何だって?」
「魔石も危ない目に遭わせるかもなので、わたしが預かりますよ~!」
こんなことを言うのは初めてだ。ドワーフの村で何が待ち受けているか分からないし、ルティだから預けておくか。いつもなら人に渡したり預けたりしないのだが、両手を差し出すルティの手に魔石を乗せた。
だがこれが間違いだった。
「はいっ、頂きましたよ、アックさん!」
「――え? あ、おいっ!! 待てっっ!!」
「追いかけて来てくださいね! ルティちゃんもそこで待っていますよ!」
「――ちぃっ!! なんてこった!」
霧が再び出た時点と、シーニャが気付いた時点で気付くべきだった。ルティの雰囲気も何となく変わっていたし、あの話し方と雰囲気は間違いなくリリーナさんだと。
「アックさま。ルティはともかく、魔石を取り戻さなければなりませんわ!」
「あぁ、くそっ! 完全に油断した」
魔石をごっそり渡してしまうとは。ルティもそうだし、恐らくサンフィアも捕まっているはずだ。
何か起きるとは思っていたが、まずは魔石を取り返さなければ。