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「…ん…」
椎名は、目を覚ます。
「ふあぁああ……」
大きくあくびをし、重く感じる頭を奮い立たせ、立ち上がる。
相変わらず眠気の取れぬ椎名は、眠い目をこすりながらリビングで朝食を食べ、ゆっくりと支度をする。
朝は絶対に_頭がどこか遠くを見て、ぼうっとしている感覚になってしまうからか、やはり準備はゆっくりになってしまい、あぁ危ないと言って遅れそうになり、走る。
「ぜぇ…はぁ…。」
相も変わらず、椎名は疲れていた。
「りり〜…づがれだぁ…よぉ…」
「もう、椎名ちゃんったら…」
りりは昨日の疑問を、心のなかに隠すと、椎名に対しなるべく、いつもと同じように接した。
(…レイマリって人から、言わないでって言われてるから…)
(なら、言わない方が…いや、でも…)
りりは椎名の見えないところで、引っかかった魚の小骨みたいな違和感を、頑張って飲み込もうとしていた。
そうでもしないとおかしくなってしまいそうだからだ。
(…わかんないよ…)
りりは内心、頭を抱えていた。
今ここにいる椎名は椎名そのものだ、だからこそ夜現れた”レイマリ”という存在が、本当にいたのかすら全くわからない。
だが、椎名と同じ声から発せられたまったく違うトーンのそれがどうしても、悪夢みたいに頭に残っている。
【もしもし。】
それが、耳周りを飛ぶ虫の音のように反響している。
「………」
「どしたの?」
そんなりりに、1人の女子が話しかけてくる。
「あ、くるめちゃん…」
「りりちゃん、なんかすごい思い詰めてるよね…?大丈夫?」
くるめと呼ばれた女子は、同じクラスメイトで、普段は席も遠く、中野良かった時ほどの関わりはない。
「…いや!なんでもない!ちょっと疲れてるのかも!」
りりは精一杯わらってそう答える。
ぎこちないかもしれないが、察されてしまうのが怖くて仕方がなかった、先生に言われたら?レイマリに言われたことを破ってしまったら?
(…レイマリ…?さんのことが分からなさすぎるから、下手に言っちゃうと…)
言い聞かせる。
自分に言い聞かせて、目を逸らそうとする。
「…ふぅ、行こう、かな。」
くるめはいなくなっており、りり1人だけが残された休み時間の終わりが迫る。
「…!やっばい!!」
捻り出したみたいな声が思わず出て、早歩きをしながら教室へ帰っていく。
___
「…んぇ…すぅ、むにゃむにゃ…」
相も変わらず眠る椎名に、りりは苦笑する。
驚く程に”いつもの彼女”そのもので、体現するように眠りこくって、ギリギリ先生に聞こえないくらいの寝言を言っている。
寝たフリだとかそんなものではなく、ほんとうた彼女はすぐに眠ってしまうのだ。
いや、当たり前なのだろうか?
(レイマリって人が夜ずっと起きているなら、椎名ちゃんはそこまで寝ていないことになるよね)
(だったら”9時間寝た”とかは…気づいてないだけで、嘘の可能性がある、んだよね?)
「むにゃぁ…ふにゃふにゃ…うーん」
「おーい!!椎名ちゃ〜ん!!起きて〜!もうすぐ授業だよ〜!」
「はぁっ!!?」
ふと考える、この寝言ってりり以外の席の人からしたら迷惑なのでは?と。
だが他の人たちはスルースキルというものが以上な程高い…というか、たぶん諦めているのだろう。
「…もう、椎名ちゃんったら…」
りりはふぅ、と一息つき、教室のざわめきが止まることで先生が来たのだと気がついた。
「…はい、授業始めんぞー。」
若く、屈強身体をしている歴史の教師がいつもこの時間は授業をしている。
教師はもう既に目を閉ざそうとする椎名を見やって、眉をしかめた。
「おい椎名!!また寝そうになってんぞ!!百合山が起こしてんだろ多分〜!!?」
「すみませぇ〜ん!!」
椎名の身体はガクンと跳ね上がり、目を精一杯何度も擦って、無理やり目を覚ました。
「はぁ、さて、教科書59ページからだ、誰か丸読みして〜。」
___
(はぁ…)
りりは小さく溜息をつき、学校の終わりを示すチャイムを聞き届けると、隣で相も変わらず爆睡する椎名を揺すって起こす。
「んぇえっ」
素っ頓狂で情けない椎名の声を聞くといつもなら正直笑いが込み上げそうになる。
だが、なんだか今日はそんな気分にもなれず、ただ優しい目で椎名を見守っていた。
「ふふ、ほら帰るよ?」
「うわーん…ごめぇん、むにゃ…」
二度寝しそうな椎名を、りりは思いっきり揺する。
「ちょっとー!ほんとに帰るよ!!行っちゃうよ!?行っちゃうからね!?」
「ひぃいー!!ごめんな〜い!!!」
___
「ふぁあ…うーん、ねむい!」
「まぁわかるけど!椎名ちゃんの場合は寝すぎなんだよなぁ〜!!?」
「やっぱそうなの〜!? 」
「…はぁ」
りりはため息をつく。
なんというか、こう…これは心配なのだろうか?なんて考える。
「なんかあったら電話くらいしてよ?めんどくさいんだろうけど」
「ん〜?なんかやさしーね?」
眠そうにしながら、椎名は聞いた。
りりの頬が、この場を 照らしてくる夕日色になると、ちょっとだけ怒ったように話す。
「う、うるさい…。」
「…心配してんだからね…。」
「ふふ、りりらしー……」
…よく聞くと、声は眠る直前特有の、ぽやぽやした声だ。
「…ん…」
椎名は_ほんの数秒、なんでもない場所で静止する。
りりはそれに気が付き振り返る。
嫌な予感がほんの少しだけして、ひとしずくの冷や汗が流れる。
だが椎名は、りりの心配とは裏腹に、 ふぁあ、と大きく、空気を吐き出すようにあくびをするだけであった。
はっと気がつくと、ごめんと謝りながらすぐりりに追いつこうと走った。
(…本当に大丈夫なの…?)
りりは、本気でやばいのでは、と心配する。
椎名は、全くと言っていい程気にして_いや、少しは気にしていて欲しいと願うことにしよう。
(_椎名ちゃん…)
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