「ついに今年も、この季節がやってきたっ!」
「妖怪たちの魔力が増す、ハロウィーン!」
「警備を厳重に!わかったな!」
「はい!!」
少しも気を抜いていては、いけない。そう言う油断が命取りになる…誰に言われたんだっけ?
覚えてないや…うーん、朧とか、紅真だろうか…?わからない。
「…彩のところに行ってみるか」
一応、警備で。あいつ何しでかすかわかんないし。
まぁ、腐れ縁で、昔から犬猿の仲なんだよなぁ…
「あぁ、霜月。いらっしゃ〜い」
「何、これ…」
彩の屋敷に行くと、なんだろう…ジャック・オ・ランタンだっけ?ハロウィーンの飾りがあちこちに施されていた。
「えぇ?見てわからなーい?ハロウィーンよ」
「それはわかるんだけど…」
鞠までノリノリでやってるし…え?去年もそんなことしてたっけ…?
「ちょっと無くしものをしちゃってね…探してたら、こんなものが出てきたから。せっかくのハロウィーンだし、飾ってみたのよ」
彩が、三白眼を細め、にっこりと笑う。相変わらず、何考えてるか全然わかんない。
こーんなに油断も隙もありそうなのに、いざ氷漬けにしようと構えると、すぐに止められるんだよなぁ…
なんとも、不思議だ。
「何探してたんだ?」
「えーっとねぇ…ちょっと…霜月には言いにくいかな…?」
「は?」
「私の、長年の魔力を貯めた、水晶。もし致命傷を負った時に使おうと思ってたんだけど…」
「それは無くしちゃ駄目だろ。探すの手伝う」
「ありがと」
いや、今思いついたんだけど、こんな彩が、致命傷を負うことなんてあるんだろうか…
まあ昔はいろいろ今より物騒だったし、あったのかな?
「なーんて、嘘」
「は?」
「この通り、あるのよ?私がそんな大事なもの無くすわけないじゃない」
「はぁー!?」
「あはは、トリックアートリート。魔力をくれないと、いたずらしちゃうぞ?」
「はぁ…?まったく、なんなんだよ…」
「ふふ、もっと言ってもいいのよ?」
彩…災いの魔女の魔力の源とは、悪口…つまり、争いごとの火種である。
それにしても芝居上手いなあいつ…
「いたずらって?」
「さーぁ?でも、霜月が魔力くれたから許してあげる」
「…あっそ」
「呆れないでよ。あ、見回りにきたんでしょ?」
「そうだけど…」
「じゃあ私がとびきりの事件を起こしてあげましょうか?」
「…」
彩の瞳は深く、紅く…まるで吸い込まれそうだ。ずーっと見ているとクラクラしてくる。
そして、彩の整った顔立ちが、それをもっと引き立てる…
これまでにどれほどの男性が犠牲になったのだろう…いや、あいつは誘惑して喰らうなんて性格の悪いことをはしないと言っていた…本当だろうか?
「遠慮しとく」
「そ…ならいいや」
何が。
聞こうと思ったけれど、その言葉は、口に出さなかった。
急に悪寒がしたからだ。どうしよ、風邪でも引いたかな…
気づけば、鞠がいない。電気が消え、ジャック・オ・ランタンが光る。
「え…?」
後ろを振り向いた瞬間。
「わー!びっくりした?」
電気がつく。後ろに、彩が立っている。
「あっはは、びっくりしたー?霜月って、脅かし甲斐があるわぁ」
「びっくりした…何がしたいんだ、お前は…」
「なんだと思う?ふふふ」
「変だな」
彩が珍しくニコニコと笑っているから、逆に怖い。いつもの意地悪な瞳ではない。無邪気な、子供のような瞳。なんだか、そちらの方が彩に合っているような…というか、なんだか懐かしい気分になる。
「じゃあ、帰る。そうだ…これからしばらく、遠い場所…組織からの指令で行くんだ。だから…」
「僕がいない間に、騒ぎ起こすな、でしょ?」
「正解。じゃあ…」
「待って」
「?」
「これ。あげる。探してたら見つけたの。なんだか、霜月っぽいなーって」
「…?」
渡されたのは、氷の花?のようなものの形のチャーム。
なんだこれ…?
「はい、ばいばーい」
「?」
彩が豪快に扉を閉めた。あと少し、僕が出るのが遅かったら、挟まっていたかも…
「…ふぅ…あれも渡せたし、よかったぁ…」
真っ暗な部屋の中で、彩はそうつぶやいた。
「もうすぐここともお別れ、かぁ…あれ、私だと思って大切にしてねって、言った方がよかったかなぁ…もう会わないかもだし」
彩は、その三白眼を揺らし、寂しそうな表情をする。
いったい、何を考えているのだろうか…
「もうすぐ散る、私の命…もうすぐ長年の夢が叶うわぁ…」
「…」
やっぱり、この嫌な予感は消えない。なんなんだ、一体…!
彩が何かをするのか?僕がいない間に?わからない…
まあ、どうなったとしても、僕がなんとかしてみせる…!
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