ルティが火の精霊竜を顕現させたことは正直言って予想外だった。しかも本人は無自覚のまま敵一帯を爆発させたのだから、驚くしかない。
「はうぅ……せっかく魔法が撃てると思っていたのに~」
ルティは自分自身で魔法を出せなかったことにショックを受けたようだ。精霊竜のブレスによって黒煙が立ち込めているが、奴らがどうなったか。
まずは炎が消えるまで待つか、それとも――?
そう思っていると、フィーサが声を上げる。
「イスティさま! 向かって来るよっ!!」
「――むっ!?」
「油断しすぎだ、たわけめ!!」
フィーサとサンフィアは、おれよりも少し早く奴らの動きに感づいていた。黒煙に紛れて聞こえて来たのは数人の声だ。
――突撃!
――精霊術者を捕らえろ!!
――カミラとブラッドはオレに続け!
――ベイジルはドワーフ女を捕らえろ!!
どうやら無傷の戦闘魔導士がなりふり構わず突っ込んで来るようだ。その中でも真っ先にルティをめがけて来る奴もいる。
「――ふん、雑魚め」
「吹っ飛んじゃえ~!!」
おれたちの方にも突っ込んで来たがサンフィアとフィーサがすぐに迎え撃つ。どうやらおれに攻撃をして来る奴はいないようだ。そうなればルティの所が気になるところだが。
ルティを気にし過ぎていたせいか、目の前に土煙が巻き上がっていたことに今気付いた。近くのサンフィアとフィーサは間近にいるが、ルティとシーニャのまるで姿が見えない。
「ちっ……、ルティ! 逃げろっ!!」
落ち込んでいるはずの彼女のことだ、敵が接近しても防ぎきれないはず。
「イヤアァァァァ!! 何ですか!? 誰なんですかぁぁ!! はーなーしーて!!」
案の定、敵はすでにルティに接触済みだ。これはまずいことになるな――などと嫌な予感がしたが、どうやら杞憂に終わるかもしれない。
突っ込んで来た連中のほとんどは、ルティの方に向かっていた。しかしそこに虎娘がいたことには奴らも失念していたのだから。
「う、うわぁぁぁ!! 虎人族め、近づくなぁぁぁ!!」
――ベイジル! いったんここから退け!
――わ、分かった。
ルティを捕らえることに失敗したのか、二人ほど向こう側に戻って行く。ルティでは咄嗟の素早さには欠けるが、シーニャであれば問題無い。
「ウウゥッ! シーニャがいることを忘れてもらっては困るのだ!!」
「はへぇぇぇ……シーニャあああ!!」
土煙の薄れた所を見ると、シーニャが一人の魔導士を足で踏みつけ倒している。他の魔導士の姿は既に無く、早々に撃退されたようだ。
「シーニャ、ルティ!! 無事か?」
シーニャは問題無いと思われるが、心配なのはルティだな。
「ウニャッ! シーニャ、強い! 人間、弱いのだ!!」
「はぇぇぇ……びっくりしましたぁぁぁ……」
「男の意識は?」
「死んでないのだ。シーニャ、普通に攻撃しただけなのだ。勝手に倒れて寝ているだけなのだ」
「なるほど。向かって来た魔導士の中でも弱い奴なんだろうな」
奴らは名前で呼び合っていたが、あっさりと仲間を見捨てていった。サンフィアたちも同時に魔導士を撃退し、見事に追い払ったようだ。
倒れている男に話を聞くしか無い――そう思いながら男に近づいた時だ。
「ウニャッ!? 人間が消えたのだ!! アック、人間どこなのだ?」
シーニャの足に踏まれていた男の姿がいつの間にか消えていた。彼女も突然のことで驚いている。さっきの急襲は油断をしていたが、捕まえていた男を動かした正体はすぐに捉えていた。
どうやったかは不明としつつも、格好が派手な男はすぐ目の前に立っている。
「――またあんたか? ウルティモ」
「アック・イスティ。力無き者の気配には疎そうにしているようだが、われの存在に気付くとは実に面白い!」
姿無き所にこの男あり、だな。
「その男をどうするつもりだ?」
「仲間を見捨てることはしないのでね。連れ戻しに来たというわけだ」
「ふん、よく言う。それよりも、精霊竜の爆発からどうやって――」
「あぁ、『リフレクト《反射》』をさせてもらった。そして悪いが、精霊竜は捕らえさせてもらった」
「……なるほどな。だから無傷だったわけか」
他の魔導士はルティを捕らえに来ていたが、コイツは精霊竜を捕まえたという。
そうなるとルティの力はどうなるんだ?
「われはあらゆる属性魔法と精霊……いや、攻撃を受け付けない。精霊竜を取り返すのであればわれと戦うことになるが、どうするかね?」
「あいにくと精霊竜はそこにいる娘の精霊なんでね。必要のないあんたに渡すわけにはいかないな」
「……ならばそうするとしよう。かかって来るのは何人でも構わぬ。われにかかって来るがいい」
「――おれだけで十分だ!」
神出鬼没に現れては消える妙な男だ。そうだとしても、やるしかないだろう。
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