「ごちゃごちゃと小賢しい!」
奴と決着をつける。そう思っていたらサンフィアが先に動いていた。彼女は幻影を使う者であると同時に槍を使うエルフ族。おれが動くよりも素早く、奴の喉元に矛先を向けている。
「ふむ、エルフの槍か。しかしわれに当たるとでも?」
「ほざくな、人間!」
槍を向けられているにもかかわらず、ウルティモは目立った動きは見せない。それに対し、サンフィアは今にも槍を突き刺す勢いを見せている。
「好戦的なエルフだがそれが気に入って近くに置いているのかね、アック・イスティ?」
「誤解しているようだが、彼女はあんたのような得体の知れない敵に対して槍を向けている」
「…………ふん」
「それは失礼した。ならば退場願おう」
「あんたの相手はおれだろう?」
「なに、すぐに勝負はつく」
ウルティモにはサンフィアの槍が向けられたままで、おれも奴に対して至近距離な状況にある。この状況で後れを取るとは思えない。
だがその認識は一瞬にして覆されることに。
ウルティモはあっという間にサンフィアの背後に回っていた。そのことに気付くと同時に、おれと彼女は体が揺れるめまいのような感じを受けた。
離れた所にいるルティとシーニャ、それにフィーサは異常状態では無いように見える。
「な、何だ、これは……うぅぅっ! お、おのれっ!!」
ふらふらになりながらもサンフィアは槍をぶん回しているが、奴には全く当たる気配が無い。おれのめまいはすぐに回復したが、彼女だけはその状態が継続している。
「アック・イスティ君。エルフの彼女はイデアベルクから……で違いないか?」
「――何? どういう意味だ?」
「理解した。では先に帰ってもらうとしよう。そうでなければ、君との勝負に水を差しそうなのでね」
奴が言ったことが理解出来ないでいる。だがおれはその意味をすぐに知ることに。幻影を相手にしているサンフィアに対し、奴は黒い球体のようなものを出現させた。
見たところ重力魔法にも見えるものだ。
「な、何だ、これは――!」
そうこうしているうちに、サンフィアの周りは黒い球体にすっぽりと覆われだす。
彼女の意識は正常に戻るも――
「――ウルティモ!! やめろ!」
「なに、死にはしない。しかし残念ながらここから消えることになる」
「ア、アック! おい、こ――……」
……なっ!?
「サンフィア!! ――バ、バカな……消えたのか?」
球体に覆われたサンフィアはあっという間に行方をくらましていた。少なくとも彼女の気配は辺りからは全く感じられない。
「ふむ。どうやら成功したとみえる」
「ウルティモ! 彼女はどこにやった?」
「死んではいないと言ったはずだが?」
「……まさか、イデアベルクに飛ばしたとでもいうのか?」
「そのまさかと言えるな。せっかく来てくれた所を悪いが、役不足は否めないのでね」
だからイデアベルクなのかと聞いたのか。
「異空間魔法を使う奴だったわけか……どうりで妙な感じがすると思った」
「少し違うな。それはともかくとして、われと君との戦いを邪魔するとなればそこで眺めている彼女たちも同じものを喰らうことになるが?」
明らかに挑発しているうえ、邪魔する者には容赦しないと言いたげだ。確かにシーニャたちはすぐにでも襲い掛かりそうな気配ではあるが。
「近くで見学させるのも駄目ってわけか?」
「退屈させるのも良くないな。ならば、精霊竜を出したドワーフだけ許可しよう」
ちっ、シーニャとフィーサを別にされたか。剣が通用する相手ではないにしても、フィーサを使えないのは厄介だ。だからといって落ち込んでいるルティを傍に置くのも別の意味で心配すぎるが。
どのみち奴からすれば、要注意にもならないということなのだろう。ルティは魔法が使えないし今は仕方が無い――か。
「それでいい。だが戦う場所は、あんたらがいた場所にさせてもらう」
「良かろう。リフレクトを使ったとはいえ、残っている魔導士は数が少ない。残りはここで相手をさせてもらうとする。われが構えるまでに話をつけておくといいだろう」
そう言うと、ウルティモは”アジト”のある所に戻って行った。
シーニャたちに話をする時間を与えられたということになるが、奴の真意が不明すぎる。奴の後ろ姿を黙って眺めていると、ルティたちが駆け寄って来た。
「アック! 勝ったのだ? エルフはどこへ行ったのだ?」
「アック様、アック様! サンフィアさんは~? そ、それにわたしの精霊竜さんはどこに~」
「イスティさまが苦手そうな相手だよね~」
「……奴との勝負はこれからだ。それと、サンフィアは恐らくイデアベルクにいる。どうやったか知らないが、奴の魔法で強制的に帰された」
「えぇぇぇぇぇ!?」
おれの言葉にフィーサだけは驚きを見せなかったが、ルティとシーニャは驚きの声を上げた。
サンフィアは戦力的には申し分無かったが、ここでは分が悪かったと言わざるを得ない。
「イスティさまはどうするの?」
「奴と決着をつけるよ」
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