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少年は、二年もの間、この屋敷に閉じこもって暮らした。
外に出れば、自分の存在はすぐに魔界中に知れ渡ってしまう。だから、二度と外に出ることは許されなかった。
剣の稽古と読書、体力づくりの日々。孤独ではあったが、ヴェルサファーの存在がいつも支えだった。
しかし、時間は待ってくれない。
ついに、冥府仕官試験の日がやってきたのだ。
少年は深呼吸をひとつし、屋敷の扉に手をかける。
この一歩を踏み出すことで、守られてきた日々は終わりを告げるーー危険な世界が、少年を待っている。
ヴェルサファーは静かに少年を見つめ、声を震わせずに告げた。
「名前を持てーーお前の名前だ。誰にも奪われない、自分だけの名を。」
少年は目を丸くし、胸が熱くなるのを感じた。
ヴェルサファーが口を開く。
「アゼリオン・ルシオン。覚えておけ。お前はもう少年ではない。」
少年は、かすかに涙を浮かべながら、羽を封印するネックレスを首にかけた。
羽は胸の奥に沈み、外からはまるで存在しないかのように隠れる。だが、封印を解けば、いつでも空を舞える力が胸に眠っているーーその感触が、決意をさらに固くする。
「行け、アゼリオン。冥府で待っているものは、甘くはない。だが、お前なら乗り越えられるはずだ。」
少年は頷き、振り返らずに歩き出す。
屋敷を出た先には、灰色の霧と不気味な静寂が広がる魔界の道。
足音をたてず、風の匂いを確かめながら、少年は胸の奥で誓った。
真実を知る。
ヴェルサファーや自分を守るため、そして天使と悪魔の戦いの理由を、必ず明らかにする。
一歩一歩、少年は歩を進める。
封印された羽は、重くもなく、軽くもなく、未来への希望と覚悟を静かに支えていた。
アゼリオン・ルシオンーーこの名が、魔界の暗闇を切り裂く光となる日が、必ず来るのだと信じながら。