テラーノベル
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振り返ると、派手な装飾品を身につけた見知らぬ他国の貴族が、私の行く手を塞ぐように立っていた。
「……あ、ええ。夫に御用ですか?夫はすぐに戻りますので」
「いいや、君に用があってね。あんな氷のような男より、私の方が君を愉しませてあげられる自信があるんだけど、どうかな?」
男は馴れ馴れしく距離を詰めると、私の腰に手を回そうとしてきた。
指先がドレスの薄い生地越しに触れそうになり、ゾワリと鳥肌が立つ。
「や、やめてください……っ」
恐怖で足がすくみ、声が震える。
その瞬間───
「俺の妻に、何の用だ」
凍てつくような冷気を帯びた声が、男の言葉を遮った。
気づいたときには、シュタルク様の逞しい体が、私と男の間に壁のように割り込んでいた。
彼は私の肩を、痛いくらいに強く引き寄せる。
「……っ、シュタルク、公爵……」
「貴殿の国では、他人の妻を無作法に口説くのが作法なのか? ならば、我が国との親交のあり方も考え直さねばならないな」
シュタルク様の瞳には、今まで見たこともないような昏い怒りが宿っていた。
その凄まじい威圧感に、男は顔を真っ青にして「し、失礼した!」と逃げるように去っていく。
嵐が去った後のような静寂の中、私はシュタルク様の胸の中で震えていた。
「大丈夫か、メリッサ。……怪我はないな?」
私を覗き込むシュタルク様の手は、まだ少し震えている。
守ってくれた。それが嬉しくて、私はギュッと彼の服の裾を掴んだ。
「は、はい…!ありがとうございます、シュタルク様。……でも、ごめんなさい。お手を煩わせてしまって」
「別に謝ることはない。君を守るのは夫として当然のことだ」
そう言いながらも、シュタルク様の目はまだ鋭いままだ。彼は何かを考え込んでいるようだった。
(やっぱり……シュタルク様にはまだ何か心の奥底に秘めたものがあるような……)
そう思いつつも、今はただ彼の温もりに感謝した。
◆◇◆◇
その後も王宮での宴は続き、様々な貴族たちとの交流があった。
しかし、先ほどの出来事以来、シュタルク様は常に私を隣に置き、他の誰にも近づけさせなかった。
「あの……シュタルク様?」
「なんだ?」
「私、もう少しお腹が空いてしまって……またパイ包みを頂いてもいいでしょうか?」
恐る恐る尋ねると、シュタルク様は一瞬だけ呆れたように私を見たあと、「仕方ないな」と柔らかい表情を見せてくれた。
私は嬉しさを抑えきれずニコニコしながら再びシュタルク様とともにテーブルに向かう。
そしてまたもや沢山の美味しい料理に目移りしながら幸せなひと時を過ごしていた。
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