テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
86
六話 デート あれから一ヶ月。特に恋の進展はなかった。他に変わったことと言えば、優華と少し距離ができたこと。でもそれは心の距離ではなく、物理的な距離。優華は前よりも素直になって、食欲も増えている。友達もそれに安堵していた。
夜ご飯を食べたあと、疲れた身体でのそのそとベッドに寝転がる。優華たちとメッセージをしている途中、なんとなく遠山くんのページを開いてしまった。最後のメッセージは一ヶ月前。そろそろメッセージを送ってみたいけど、忙しいかもしれないし、そもそも私からメッセージが来ること自体嫌かもしれない。でも、踏み出してみなければ何も変わらない。何度もも打っては消してを繰り返して、やっとのことで勇気を振り絞れた。
「――今度、遠山くんが空いてる時でいいから一緒に遊ばない?」
学校ではお互いに友達と喋っているから、一緒に喋る時はないし、たまに目が合う程度。だから、遠山くんと会う時間をなるべく増やしたかった。彼が何を言うのか見当がつかなくて、しばらくは目が開けられなかった。
「わかった。」
その四文字が見えた時、私はもう何も考えられなかった。胸が飛び跳ねるほど思いっきり飛び跳ねた。ベッドの上で足がバタバタと暴れて、声にならない鳴き声を上げた。下から聞こえる母の声も私には届いていない。熱くなってしまった私はどうやら今夜は眠れそうにない。
「なぁ、遊ぶ時の服ってどんなのがいいと思う?」
「「え?」」
「え?え?え?なにいきなり、え?なに?」
「彼岸はいつも服なんて気にしないのに!?着れればいいでしょとか言ってたのに!?!?」
「……聞く人を間違えた。」
「え、誰と誰と?」
「別に。お前には関係ない。」
「相手によって合わせる服って変わるじゃん!相手に合わせるのが一番っしょ!俺たちも準備手伝うよ?」
「別に良いから!!そもそも服聞いただけだろうが!お前たちの準備なんてろくなもんじゃねぇだろ!!!」
「人聞き悪〜」
(こいつらに相談したのがバカだった……それにしても、澄川さんと出かける服どうしようかな。)
まだいつ行くかも決まってないのに緊張している。俺はよほど彼女と出かけるのが楽しみなようだ。自分でも驚くほど、なぜ早とちりしそうになるのか。それは、多分俺の澄川さんへの気持ちが変わったからだろう。今、彼女は何を考えているんだろうか。楽しみにしてくれているだろうか。
嫌な憶測が音を立てるが俺は鍵をする。この考えはきっと杞憂だと、信じることしか出来ない。
「そうだ〜!ちょっと耳貸せよ!彼岸!」
「なんなんだよ…………」
涼介が肩に腕を回してきて、首が痛くなりそうだ。俺にだけ聞こえるように小声で話す涼介の声が耳にあたる。
(この間、澄川さんが一人で廊下を歩いてたから話しかけてみたんだよ。中々恋愛に進展がないみたいでさ?可哀想だろ〜?)
(……)
(そこで、優しい俺は慈悲の心で澄川さんを誘ってみたんだ。)
(は?……どういうこと?)
(前に、俺の母さんがチケット取ってくれたんだよね。六人分。だからみんなで――遊園地行こうぜ!)
「……はぁっ!?」
「うぉっ!?!?」
あまりの発言にびっくりした俺は涼介の腕を振り払って勢いよく立ってしまった。同時に大きな声を出したせいで教室にいたクラスメイトたちがこちらを振り向く。
「なんだよいきなり大声出してー。何喋ってんだよ!」
「わ、悪い……」
(……いやいや、いきなり遊園地とかは早すぎだろ!!そういうのはもっと仲良くなってから……)
(ふーん?でもさぁ、お前が仲良くなるの待ってたら年老いて死んじゃうよ……まぁでも思ったぜ?確かに、テーマパークは早いかもなって。……でもチケットあるんだもん。一石二鳥じゃん?)
(……大体、六人分って……誰誘うんだよ?)
(それは心配しないで!美琴ちゃんと彼岸と、優華ちゃんと、俺と、あとは〜執宇治とかどう?)
(あと一人は?)
(女子側が連れてくるっしょ!)
伊江 執宇治落ち着いていて温厚なやつ。男女平等の距離感だし、絶叫系のアトラクションも好きなやつだから今回誘ってみた。同じサッカー部で俺たちの親友。頼りになるやつだし、みんなをまとめるのも上手い真面目くんだ。女子からは女たらしというあだ名がついている。
「ヤバいヤバいヤバい。ヤバいよマジで!!!」
「また〜?いつもヤバいじゃん。」
「今回はガチでヤバいの!」
「なに?また好きぴ?」
悶える私に呆れている友達はリップを塗りながら話を聞いてくれた。
「そうなの!!実は……神崎くんが誘ってくれて、遠山くんたちと遊園地行くことになって……!」
「「えぇ!?」」
「早くない!?そういうのって付き合ってからぐらいなんじゃないの!?!?」
「そうだよね?!?!でも折角誘ってくれたし、もちろん了承してしまって……で、チケットが六人分あるらしくて男女三三で行こうって話しで、私と優華ともう一人誰か行きたい人いる!?!?」
「え?私も行くの?」
「うん!」
「じゃあ私行きたーい!」
「オッケー!」
涼介くんを中心に、色々決まっていく中で、みんなが空いてる日を見つけてついに遊園地に行くことになった。正直、そろそろ私の心臓が爆発しそう。本当にこんなにすんなり進んでしまっていいのかな、最近幸せ続きで本当に怖くなってくる。今日は神崎くんのお父さんの車で遊園地まで送ってもらう。ほぼみんな初対面なので、車の中で各々自己紹介し合ってみる。ほぼ話したことない人と遊園地ってハードル高すぎると思うんだけど、綾香はオッケーしてくれたんだよね。
少し申し訳ない気持ちもありながら私は感謝を優先することにした。別の友達はそんなのほぼ合コンじゃんって言ってたけど。
大森 綾香、私のもう一人の親友。ゲームが大好きで、おちゃらけてて明るい性格。いつもポジティブで、突拍子もないことを口にするけど、本当は空気とか皆のこととか考えてくれている。誰とでもすぐ仲良くなれる性格だから、今日は来てもらって正解だった。
明るくて積極的な性格の綾香と神崎くんのおかげで、車内は明るく楽しい雰囲気になっていた。遊園地についたらもっと楽しいのかと、今日の風景を想像してきっと幸せな未来に笑いそうになる。
ふと横を見てみると、遠山くんがいる。社内の席は神崎くんが配置した。緊張が止まらなくて、耳が熱くなる。遠山くんは今日を楽しみにしてくれていただろうか。涼介くんや執宇治くんがいるからかいつもよりも柔らかい表情だ。でも、何を考えているのかあまりわからない。何を思っているのだろう。彼の全てが知りたくなる。こんな距離にいるのに私は声一つかけられない。片思いすればするほど気づいてくる、彼は本当に手の届かない存在なんだな。
澄川さんは、綺麗な人だ。誰よりも、綺麗な人だ。彼女は何を考えているのだろう。何を思っているのだろう。一見、表情豊かな彼女の思考は手に取るようにわかりやすいのかもしれない。でも、彼女はきっと出していない顔と言葉があると思う。彼女は目を離せば静かにふっと消えてしまいそうだ。だから、もう一人にしたくない。君はもう忘れてしまったかもしれないけど、俺が覚えているから、だからどうか、俺以外の人を選んで欲しい。
「遊園地〜到〜っ着〜っ!!!」
「「いぇ〜いっ!!」」
「じゃあ今日は〜遊び尽くしていきましょ〜〜う!!」
「「いぇ〜いっ!!!」」
楽しい。友達と遊園地なんて中学生以来だ。
全力で楽しむ人々の声の中に私たちは足を踏み入れていく。どんどん楽しい想像が膨らんでいって、気分は最高潮。人混みが苦手な優華は私にひっついてくる、いつもなら。でも今日は綾香の方に行ったようで、少し寂しい。この間のこともあってか、私と遠山くんのことを気にしているようだった。
まずはみんなで遊園地に来た記念にお揃いのカチューシャを買った。一気に遊園地感が出て気分が上がる。
「最初は何乗る?」
「ジェットコースターじゃない?」
「え!?私ジェットコースターは苦手で……」
「あれは?あれあれ、舟に乗って回るヤツ!!」
「最初に行くの?」
「別にどれから行ってもいいでしょ!!最初はみんなで回りたいじゃーん!」
「その後に別れて行動するか。」
「優華は絶叫系無理だもんね〜」
「澄川さんと大森さんはいけるんだ?俺と執宇治も行けるよ〜」
「え!?遠山くん好きそうなのに!?」
「え、そう?」
「……」
アトラクションが大好きな私は、つい楽しみすぎていて、遠山くんへの恋心よりも楽しさが覆いかぶさってきた。絶叫系が好きな執宇治くんとも一緒にジェットコースターに乗って仲を深められたと思う。
執宇治くんは優しくて、小さなことまで気遣いが凄い。好きなものの前では目を輝かせてよく喋るし、笑顔で溢れる、そんな人。執宇治くんは私や遠山くんの関係、優華のことも、かなり心配していたらしい。人想いな優しい人だ。
「「……」」
絶叫系が無理な俺と奈須川さんは、みんなより一足先に二人でお土産ショップに来た。初めて喋ってたのがあんなこともあって、お互いに気まづく、あまり会話が続かない。俺もあまり自分から話したいという欲はないが、話づらい空気は嫌だ。
奈須川さんについて、ずっと前から気になっていたことがある。聞きたいことを聞ける雰囲気ではないが、こういうのは一度思い切ってしまえば後は楽なはずだ。それか、もっと悪化するかもしれない。
「……あ、奈須川さん。」
「……美琴に何か買うの?」
「え!?え、いや、澄川さんは一緒に来てるし……」
「……美琴は家族や友達のお土産ばっかで、あんまり自分あてのものは買わないと思うから。あなたが買ってプレゼントしてあげたら?って思っただけ。」
「……そういうのは奈須川さんがいいんじゃないの?俺、女の子の好みとかわかんないし。澄川さんのことも、まだ全然知らないし。」
「……誰だって最初はそうでしょう。美琴はあなたからのプレゼントならなんでも喜ぶと思うけど。」
「……いや、澄川さんにだけプレゼントするのは……」
「なに?……好きな人にはプレゼントするものでしょ?」
「え!?えっ、なんで!?」
「え?バレてないと思ってたの?あなた美琴のこと好きなんでしょ?」
「……そんなに……わかりやすい……?」
「…………まぁ。」
異性へのプレゼントなんて買ったことがない。なにが好きなのか、なにが似合うのかさえわからない。意味のわからないものを押し付けるよりは何もしない方が良いと思っていた。彼女の言葉を聞くまでは。何度も選んでは奈須川さんにダメだしされ、やっとのことで出したのは可愛いマグカップ。
「……これ、どう思う?」
「いいんじゃない?美琴が好きそう。」
「じゃあ買ってくる。……あの、後でちょっと話したいことがあるんだ。二人で。」
「……まだ合流時間まで余裕があるから焦らなくていいよ。」
大体の人は昼食の時間で、レジは思っていたより混んでいなかった。店員さんがラッピングしている過程を、どうやって彼女に渡すか考えながら眺めていた。俺の顔が相当険しかったのか、店員さんはかなり急いでラッピングしていた。購入し終えて店の外にでる。二人だけで話すために、飲み物だけを頼み店外にある椅子に腰掛けると、彼女は買ったキーホルダーを眺めている。
「……この間、俺は澄川さんに近づいちゃダメなタイプって言ってたけど、どういう意味?」
「……そのまんまの意味。……あなたも気づいているんじゃない?」
「……奈須川さんって、みえる人?」
長い沈黙の後、彼女が小さくため息をついて呆れたように話し始めた。
「……人のオーラみたいなものがぼんやりとぐらいしか見えないんだけどね。あなたを初めて見たときにすぐにわかった。あなたのオーラは、全部が黒い。」
「…………ハハッ、だよね。」
「……でも、美琴は白いのよ。白いというかほぼ半透明。普通そんな人なんていないん人なんていないんだけど。白くて綺麗な人ほど脆くて壊れやすいの。あなたみたいな真っ黒な人が近づけば真っ黒に染まっていく。私はあの子が壊れていく様なんて絶対に見たくない。」
「……俺もわかってるんだ。離れなきゃいけないって。……でも、澄川さんのこと振ったヤツが言うのもあれだけど、やっぱりもう少し、彼女といたいって思っちゃうんだ。……奈須川さん、俺は死神なんだ。」
彼女は特に驚くことはなく、納得したような表情も見せた。俺はホッとし胸を撫で下ろした。もちろんこの話をするときはものすごく緊張するが、澄川さんのときよりも柔らかく言えた気がする。
「……そう。……でも、美琴のことが好きなんでしょ?……それなら、美琴のためにも早く言った方がいい。でも、もし言うなら、これからどうやって美琴といるの?美琴がもし貴方みたいに黒くなったとき、美琴がどうなるかわかってる?」
「……どうしたらいいか、俺にはわからない。」
わからないというよりも、理解したくない。
「……この間学年集会があったでしょ。そのときに見たんだけど、私たちの隣のクラスのC組にあなたぐらい黒い人がいたの。あなたの仲間?」
「え?……俺と同じ死神がいるってこと?」
「え?知らない人?名前は影宮 暁人。貴方も聞いたことあると思うけど。金髪にピアスをしてる陽キャ。遊び人って噂もある。」
「確か、涼介が仲良かったっけ。なんかあの二人似てるなって印象があるから、覚えてる。」
「一緒にそういう、死神のこととかしたことはないの?」
「いや、知らなかった。」
死神の俺が死神に気づけなかった。気配を消すのが上手いということなら、俺よりも先輩ということになる。
「……そう。応気をつけた方が良いかもね。」
「……気をつけるよ。奈須川さんもね。」
楽しいことがあれば辛いことがある。メリットがあればデメリットがある。どうやら私は大事なことを忘れていたのかもしれない。私はすぐに迷ってしまう人だということ。
皆で合流場所に向かっていると、ついお腹がすいて横目でお店のメニューを見ていたら皆の姿はもうなかった。今日が楽しみすぎたせいか、夜にあまり眠れず、寝坊してしまったためスマホの充電が充分じゃなく、バッテリーがない。この広さの遊園地で、この人混みの中、低身長の私をみんなが探せるわけがない。とりあえず、地図を頼りに優華が行っているはずのお土産ショップに向かうことにした。時間的にもういないと思うけど。最後の希望を捨ててはいけない、そう自分に言い聞かせた。何もしないよりはマシだと思ったから。
「え!?澄川さんがいない!?!?」
「……綾香、見てなかったの?美琴はすぐ迷子になるって知ってるでしょ……」
「ごめん……涼介くんと次に乗るアトラクションの話してたら盛り上がっちゃって……」
「……遠山くん、美琴を探しに行こう。」
「あ!ちょっと待って!それも大事だけど!二人とも忘れてない?今日のルール!」
「は?今それどころじゃないだろ。連絡も繋がらないんだぞ?」
「まぁまぁ、まず聞いて!今日のルール!今日はお互いに親交を深めるために遊びに来てるんだから、敬語はなしで、みんな下の名前で呼んでいこう!って話したよね?!」
「なんでこのメンバーで親交を深めるの?」
「「……」」
「……ごめん。忘れてた。早く美琴を探しに行こう、涼介くん。」
「……も〜ちゃんとしてよね!」
「……いた。見つけた。」
「え!?どこ!?どこにいるの!?」
そういえば、昔から私は迷いやすい人だった。
小さい頃、ある夢を見たことがある。どこかで迷っていた私に、誰かが手を伸ばしてくれた夢。小さい頃のことだったからあれが現実だったのか、夢だったのかは覚えていない。もう帰れないんじゃないかって泣いていた私の前にまるで天使が現れたみたいだった。その人の手を掴んだ後からの記憶はないけれど、どこかで見たことがあるような人だったのは覚えている。今でもたまに見るその夢の続きを、見てみたいと望む自分がいる。
あぁ、現実でも、天使みたいに私に手を差し伸べてくれる人がいたらな。
「美琴!」
「え?」
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!