テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
バンコクから国内線に揺られて約1時間。
春菜と佐久間は、タイ北部の古都、チェンマイへとやってきた。
街のあちこちが色鮮やかな提灯で飾られ、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような賑わいを見せている。
「うわ、すっげぇ……! バンコクとはまた全然雰囲気が違うなぁ!」
佐久間は、動きやすいTシャツにキャップ、黒縁メガネという軽装ながらも、チェンマイの穏やかで歴史ある街並みに大興奮。
予約していた特設会場行きのシャトルバスに乗り込み、2人は夕方の会場へと向かった。
郊外の広大な特設会場に到着すると、そこはすでに世界中から集まった人々の熱気で満ち溢れていた。
会場内にはお祭りの屋台がずらりと並び、パッタイやカオソーイ、甘いココナッツのお菓子などの香ばしい匂いが立ち込めている。
人混みの中でも、佐久間はさりげなく春菜の腰に手を添え、他の人とぶつからないように常にエスコートしている。
彼のそんなさりげない優しさに、春菜の胸の奥はじんわりと温かくなっていた。
やがて日が完全に落ち、あたりが深い闇に包まれると、厳かな僧侶の読経が会場に響き渡った。
無数の蝋燭の火が揺らめき、静寂の中にスピリチュアルな空気が満ちていく。
いつもは賑やかな佐久間も、この時ばかりは真剣な表情で、静かにステージを見つめていた。
「みなさん、ランタンの準備をしてください」というアナウンスが流れる。
スタッフから配られたのは、大人の背丈ほどもある、白い不織布でできた大きなランタンだった。
「うわ、デカいね! これ、2人で持ってなきゃダメなやつだ」
佐久間がランタンの端を持ち、春菜が反対側を支える。
佐久間が慎重に、ランタンの底にある固形燃料に火を灯した。
シュッとマッチが擦られ、パチパチとオレンジ色の炎が宿る。
暖められた空気がランタンの中に溜まり、ゆっくりと、2人の手の中でランタンが膨らみ、空へと浮かび上がろうとする強い力を宿し始めた。
「熱い空気が溜まるまで、ここで少し抑えるんだって」
「おぉ、すごい引っ張られる……! 生きてるみたいだ」
ランタンを挟んで、至近距離で見つめ合う2人。
「ねぇ、大介知ってる?」
春菜が揺らめく炎を見つめながら、口を開く。
「コムローイには、『天にいる仏様や神様に願い事を届け、厄を手放す』っていう意味があるんだって。ランタンに願い事を書いて飛ばすと、願い事が叶うらしいよ 」
下から照らすオレンジ色の温かい炎が春菜の顔を優しく照らす。
その横顔を、佐久間は愛おしそうに見つめた。
「へぇ、じゃあ俺達も書くか。えーっと、ペンは…」
「はい、持ってきたよ」
209
#番外編
コンソメパン
246
#ご本人様には関係ありません
コンソメパン
13,089
#ゆり組
むん。
390
ポーチからマジックを取り出し、佐久間に手渡す。
「さすが!さんきゅ」
交代しながらランタンに願い事を書きだした。
書き終えたあと、2人でお互いの願い事を覗き込む。
「…あ」
「ふふっ」
2人で顔を見合せ、笑いだした。
【これから先もずっと、大介の隣にいられますように】
【春菜とずっと一緒にいられますように】
「一緒だね」
「ホントだね」
そのとき、スピーカーからカウントダウンの声が響き渡った。
会場全体の数千人の観客が、一斉にランタンを天へと掲げる。
「春菜、準備はいい?」
「うん 。せーの、で一緒に放そうね」
ーーースリー、ツー、ワン……ーーー
「せーのっ!」
2人の手が離れた瞬間。
手の中にあったランタンが、ふわっと夜空に向かって真っ直ぐに昇っていった。
それと同時に、視界のすべてが、息を呑むほどのオレンジ色の光で埋め尽くされた。
数千、数万ものランタンが、川の流れのように、星の瞬きのように、ゆっくりと夜空を昇っていく。
どこまでも、どこまでも、天井の見えない夜空がオレンジ色の光の海に染まっていく。
「……すごい……綺麗……」
あまりの絶景に、涙が出そうになる。
夢中で空を見上げていた彼女の肩を、佐久間がそっと抱き寄せた。
「綺麗だね、春菜」
彼の声は、これまで聞いたどの声よりも優しくて、甘く、熱を帯びていた。
春菜が佐久間を見ると、彼はランタンの光に照らされながら、愛おしくて堪らないといった表情で彼女を見つめていた。
「俺さ、春菜とここに来られて、本当に良かった」
佐久間の手が春菜の頬に優しく触れ、親指でそっと撫でる。
その手に春菜は自らの手を重ね、甘えるように頬を擦り寄せた。
「……私も。大介と来れてよかった。ありがとう、連れてきてくれて」
春菜がそう紡いだ瞬間、大介の唇が優しく、彼女の唇に重なった。
無数の光が夜空を舞う異国の地で。
周りの歓声も、お祭りの音も、すべてが遠くへ消え去り、ただ佐久間の温かい唇の感触と、彼が春菜を抱きしめる腕の強さだけが、世界のすべてになった。
深く、深く、お互いの体温を確かめ合うようなキス。
唇が離れたとき、佐久間は少し赤くなった顔で春菜を見つめ、彼女の手をぎゅっと握り締めた。
「……また、来ようね」
「うん、約束ね」
二人の交わした小さな約束を包み込むように、無数のランタンがどこまでも高く、夜空の彼方へと舞い上がり続けていた。
コメント
1件
うわああ……これ、めっちゃ良かった…! チェンマイのランタン祭り、最高のロケーションすぎる。二人で願い事を書いて「一緒だね」って笑い合うところ、もう完全に運命感じたわ。最後のキスシーンも、無数のランタンが舞う中の演出が美しすぎて、こっちまで胸が熱くなった。るるさん、この甘酸っぱい空気感の描写、マジで神ってる🔥 次も楽しみにしてる!