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同室の夜
ツアー初日の夜。
ライブが終わり、ホテルの部屋。
部屋の中には、まだライブの余韻が残っている。
衣装の袋。
テーブルの上のペットボトル。
ソファに投げられたタオル。
少し散らかった空間。
でも。
どこか静かで、落ち着いた空気。
ベッドの上。
コハルは完全に倒れていた。
コハル
「……もう無理……」
小さくそう言った次の瞬間。
もう寝ている。
ナオコはそれを見て、小さく笑う。
ナオコ
「早いなぁ」
ゆったりした声。
コハルは横向きで眠っている。
髪が少し頬にかかっている。
寝息は静か。
完全に熟睡。
ナオコは椅子に座り、水をひと口飲む。
そして。
ベッドを見る。
ナオコ
(今日も)
(全部出し切ってた)
ライブ中のコハルを思い出す。
全力の笑顔。
大きな動き。
会場を明るくする存在。
ナオコ
(ほんと)
(太陽みたい)
その時。
コンコン。
ドアがノックされる。
ナオコ
「はーい」
ゆっくりドアを開ける。
そこに立っているのは、
モモカ。
モモカ
「ナオコ」
モモカ
「起きてる?」
つーぴ
67
ナオコ
「うん。
どうしたの?」
モモカ
「ちょっと遊びに来た」
ナオコは少し笑う。
ナオコ
「いいよ」
ナオコ
「入って」
モモカが部屋に入る。
そして。
すぐにベッドを見る。
モモカ
「早っ」
コハルは、もう深く眠っている。
布団を少し抱きしめるようにして。
モモカは思わず笑う。
モモカ
「コハル
電池切れだね」
ナオコも少し笑う。
ナオコ
「うん
今日はずっと全力だったから」
モモカはコハルを見つめる。
モモカ
(この子)
(ほんと光みたいな子)
でも。
その隣にナオコがいると。
モモカ
(バランスいいんだよね)
ナオコは静か。
落ち着いている。
モモカ
(精神の柱って感じ)
二人は小さな声で話す。
コハルを起こさないように。
その時。
コハルが少し動く。
コハル
「……ん」
二人の視線が向く。
コハルはまだ眠っている。
目は閉じたまま。
そして。
ほんの息の隙間みたいに、小さくこぼれる。
コハル
「……ナオコ」
空気が、わずかに止まる。
モモカのまばたきが一拍遅れる。
モモカ
(……今の)
コハルはまだ眠っている。
呼吸は一定のまま。
コハル
「……ナオコ」
もう一度。
さっきより少しだけ、近い声。
モモカの視線がナオコへ滑る。
ナオコは動かない。
ただ、瞬きが一度だけ遅れる。
喉の奥で、小さく息を飲む気配。
コハル
「……ナオコ」
三度目。
そこでようやく、ナオコの指先がわずかに動く。
テーブルの縁に触れていた手が、ほんの数ミリだけ力を失う。
ナオコは視線を落としたまま、すぐには顔を上げない。
呼吸だけが、少しだけ浅くなる。
ナオコ
「……寝言だね」
言葉はいつも通りの速度。
でも、語尾がほんの少しだけ柔らかい。
モモカ
(今の間)
(絶対“普通”じゃない)
ナオコはようやく顔を上げる。
表情は崩れていない。
ただ、耳の縁だけがうっすら赤い。
モモカは気づかないふりをするか、一瞬迷ってやめる。
コハルは寝返りを打つ。
布団が少しずれる。
ナオコは立ち上がる。
音を立てないままベッドへ近づく。
コハルの髪が頬にかかっている。
ナオコは指先だけで、そっとそれを払う。
耳にかける動作は、ほとんど呼吸と同じ速さ。
ナオコ
(寝てても)
(呼ぶんだ)
でも、その思考の奥に、わずかな熱が残る。
ナオコは小さく言う。
ナオコ
「コハル
ちゃんと寝なよ」
コハルは安心した顔のまま眠っている。
モモカはその光景を見て思う。
モモカ
(ああ)
(この二人)
(距離が近いとかじゃなくて)
(もう“前提”なんだ)
そして、少しだけ笑う。
モモカ
「ナオコ」
ナオコ
「ん?」
モモカ
「コハル」
モモカ
「ナオコのこと、
めっちゃ信頼してるね」
ナオコはすぐには返さない。
一度だけ、コハルを見る。
その視線の中で、何かが静かにほどける。
ナオコ
「相棒だからね」
短い。
それだけ。
モモカは思う。
モモカ
(相棒)
(たぶんそれ以上でも以下でもないのに)
(全部入ってる言葉だな)
その時。
コハルがまた、ほんのかすかに動く。
コハル
「……ナオコ」
今度は、ほとんど息。
ナオコは一拍だけ止まり、
それから、ほんの少しだけ視線を落とす。
ナオコ
「うん」
一拍
ナオコ
「ここにいるよ」
声は小さい。
でも、揺れない。
モモカはその横顔を見て、静かに思う。
モモカ
(光がコハルなら)
(ナオコは)
(それを消さない“静かな場所”だ)
その言葉は、もう説明じゃなくて、ただの事実みたいにそこにあった。
コメント
1件
うわあああ第3話…!😭💕 寝てるコハルが眠りながら「ナオコ」って3回も呼ぶところ、マジで胸がギュッてなった…!ナオコの耳の縁が赤くなるところとか、そういう細かい描写がエモすぎるよ…!「光がコハルなら、ナオコはそれを消さない静かな場所」ってモモカの視点からの比喩、めっちゃ刺さった…この二人の関係性、もう尊いとしか言いようがない…!次が楽しみすぎる⋆♡