暗い部屋で1人酒を片手に流るるテレビを見つめる。
「東京では、怪獣が出現し防衛隊のうち3番隊が本怪獣を討伐しました。」
可愛らしいアナウンサーの良く響く声が部屋に行き渡り耳を過ぎ去る。
転生しても、ミナは相変わらず強いままで。カッコよくて。3番隊隊長という肩書きを背負っていた。
勿論その横には保科副隊長がいる。
床に置いた酒缶を眺める。
「俺は、今も昔も何やってんだろ…」
「ミナの隣に俺なんかが立つなんて身分違いも甚だしい…」
溢したその言葉を掻き消すかのようにテレビは未だ3番隊のことで盛り上がっている。
「えー、隊長である亜白ミナさんは年齢僅か27歳と驚愕の若さであの強大な怪獣と闘っているそうです!!」
そーいや俺って今、何歳だ?
女になっていた方が衝撃で年齢を確認すらもしていなかった…
とことん俺は無能なのかと、少し自分に自己嫌悪しつつも財布の中から免許証を取り出した。
「に、じゅう…きゅう。だと…」
「えっ、若くね!?」
どうりで顔に乾燥が無くもっちりとしていたわけだ…
「俺元々32だよね…ってことは」
「ひー、ふー…みー」
指折り数えっていっても驚愕を隠せない。
「4歳年下ァ!?」
再度免許証を睨めば、証明写真に目が映る。そこには相変わらず目つきが少し悪く見えるような三白眼のに変わりはなかった。
けれど、見れば見るほど疑う。目や鼻と、顔のパーツは上手いこと綺麗に置かれている。
つまり言ってしまえば俺は…
可愛い美少女になってしまったということだ
「なんでっ、俺こんなに可愛いんだよッ!!」
「中身はただのマジもんのおっさんなんだぞ!?」
自分でおっさんという事に苦しみを少し感じるもそんなことはどうだって良い。
「今回も俺、彼女できねーじゃねーか!!」
ミナの隣に立つ事を目標としていたけれど、それは別に俺だって彼女が欲しかった!!」
『俺だけ若返ってるし…』
『本当になんなんだよ!この世界はっ!!』
俺の虚しい叫びは誰の耳に届くことはなく、ただ空に消えていった。
雀が遠くで鳴く中モンスイ事務所の軽い扉を開ける。昨日の衝撃のせいか上手く眠りに付けずそれ故に寝不足である。
「ふぁ〜あ」
「おはざーっす」
噛み殺すこともなくそのまま欠伸を一つ落とし、挨拶をする。
「おぉ、カフカ。今日ははえーな」
そう言いながら徳さんはバインダー片手に暖簾の奥から現れた。
『今日は、』というフレーズに片眉を上げようかと思ったけどここは穏便にしていきたいから、聞き流す事にした。
「ウッス!!」
「あーそうそう、彼今日からバイトの子」
「バイト?」
ってことは…
そう思うと同時に徳さんが入ってきた暖簾をくぐる様に頭を少し下げながら入ってきた銀髪が見えた。
「市川レノです…」
やっぱり市川だ!
カフカは見覚えのある後輩に内心喜びつつも顔は初めましてかの様に微笑んでいる。
「初めまして、俺は日比野カフカ。よろしくな!!」
「はぁ…」
少し驚いたのかの様に呟く市川。
「でも嬉しいなぁ、俺後輩がほとんど居なかったからさー」
「だから市川が来てくれて嬉しい。」
「ありがとな」
そう続け様に言うと気まずそうに少し目を逸らし、口どもりながらも話す。
「あっ、いえっ。別に俺は…」
そんな市川の耳元へ一歩近づく
「知ってる、怪獣の知識を深めるための踏み台だろ?」
「でもここで言ったら給料下がっちゃうかもだし、秘密…」
驚いた顔のままでいる市川から離れてニッコリ笑いながら「ねっ」と言ってみる。
「ーーーッ!!」
何も言わずに静かになった市川を横目で見ながら前回を思い出すけど、市川のこのバイト意味なかったんだよなー。っと少しあわれんでしまう…
それにしてもこの世界の市川もイケメンだよなぁ…とまるで女子の様な感想を残しながら手を差し出す。
「これからよろしくな!市川」
「…はい、よろしくお願いします///」
まるで子供の様に手をぎゅっと市川は握ってきた。その様子につい笑みが溢れてしまう。
「ヒヒッ」
ーー解体中ーー
「あの日比野先輩って」
「なんだ?」
「もともと、防衛隊目指してたって聞いたんですけど…」
防衛隊その言葉に動かしてた手がピクリと止まった。
「あぁ…そうだなぁ」
「うん、目指してた」
「…諦めちゃったんですか?」
そんなわけない。
俺はまだ、ミナの隣に立ててない。
このままじゃ俺は怪獣化する…
でも
でも
でも…!
「諦めたくは…ねぇな」
握りしめる拳は力が籠り血が少し滲んだ。
俯いた俺の肩を掴み上を向かせられる。
「じゃあなりましょう!」
「防衛隊員に!!」
「俺と一緒に!!」
「そうだなぁ…」
落ちた言葉は夕日に照らされていた、だから後ろから現れたそいつに気付くのが遅れてしまった。
「ーーーっ」
瞬時に体温が上がり冷汗が体に走る。
くっそ、忘れてた…
前回も見た、瓦礫の中で身を潜めていたそいつ。
頭部は肥大化し、眼球であろうその器官は視線が乱れ交差し、どこを見ているのか知り得ない。
市川を庇う様に、少し前ににじり寄ると地面の砂利が微かになった。
その音を聴き逃すことなく怪獣は乱れた視線を俺へと向けた。
未だ俺の指先は震えている。でもやらねばならない。
せめてミナ達が来るまで…
俺が時間を稼ぐ!
腰元のナイフに手を添えて、握る。市川を端に蹴り飛ばし己を鼓舞するように、これからすることに怖気付く自分を叱咤するように叫んだ。
「にっ!げろ!!」
「いちかわぁ!!!!」
蹴ったことは生きてたら謝るから今は走って逃げてくれ。頼むから。
市川は入隊後解放戦力が右肩上がりになっていく、将来有望な人間だから、ここで死ぬには惜しい…だからここは市川の死場所じゃねぇ!
手元にナイフを握り直しながら飛びかかる。
この手のタイプの怪獣は手足が多く大きい分知性がそこまで発達していない。
だから
「まず、てで攻撃しようとっするっ!!」
上半身を逸らすことで、怪獣の攻撃を寸前のところで躱わす。確実に今のは確保か上半身を千切る勢いだった。
あれを避けていなければ今頃俺は胴体が半分になり壁に叩きつけられていたんだろう。考えるだけで背筋が凍る。
さっきの一手が避けられると別の手で踏み潰そうとするけど
「真下に下ろ、すっだけ!」
そのまま振り下ろされた手の関節を狙い何度か斬撃を入れて叩き切るッ!!
「硬ってぇ〜!?」
骨が大きくやはり傷は浅い。
防衛隊の武器でもないただのナイフじゃ刃も通り辛いのか…
その腕を蹴り距離を取る。
チャッ、と握りしめたナイフが鳴る
「フー…」
細く吐く息で不安を掻き消そうと、眉間に皺を寄せた。
「かかって来い…」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「かかってこい…」
そう言った先輩はナイフを握りしめて、眼前の怪獣に構えた。
黒いその髪が風によって少し揺れ動き、夕日に輝いた。
俺は不謹慎にもその背中が、
美しいと思ってしまった…
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