テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#恋愛
#長編
「そうだよ。シズクがいつの時代に生まれ変わるかわからない以上、世界情勢が不安定すぎるのは困りますからね」
「な、なるほど?」
「ですので、帝国の皇族に幾つかの術式をかけておいた。それとクレパルティ大国を三つに分けたのは、帝国側が一部領土を得たことで満足したと周囲に思わせるため。それと西の森の領土を広げたのは、帝国で奴隷にされた者たちの解放と居場所を提供するのが目的だったのです」
「そういえばエルフの一族は人族を怨んでいるって……もしかして、彼らが?」
「はい」
とっても良い笑顔だ。スケールが大きすぎる。
「残る領土は元々王都かつ技術職人の攻防のある区画と、林檎農園の割と豊かな土地に絞りました。北と西の入り口でもあるので貿易都市にすれば、滅びずに栄えると思っていましたからね」
エリオット様は真っ青な顔をしており、ジーナ王女は「うんうん!」と共感していた。今の流れでどの辺りに共感したのだろう。スケールが大きすぎることに慄けばいいのか、ルティらしいと言えばいいのか。
どこまでも基準が私なのだ。そしてどこまでも私のことを諦めないで、逃さずに、待ち望んでいたことが、重いし、ちょっぴり怖いと思ったけれど、「ルティだから」で片付けてしまえるのは、惚れた弱みだろう。でも最初に、この話を聞かなくてよかったかも。タイミングって大事だもの。
「前回は生活環境と周囲の悪意によって、邪魔されたことを学びました。お互いが思い合うための時間を捻出することも大事ですが、生活でも心労を掛けたくありませんでしたからね」
「……だから、一軒家を用意したの?」
ピクピクと耳が揺れた。尻尾も「そうそう」と嬉しそうに揺れる。
「ええ。……シズクに家事スキルがあったのは、嬉しい誤算でしたけれど」
「わかるわ。《片翼》のためって思うと、頑張っちゃうもの!」
《片翼》のため。前世では呪いのような言葉も、今は少し苦手だけれど、単に器として選ばれただけじゃないから、大丈夫。
(……大丈夫)
やっぱり大丈夫そうではないので、すすっ、とルティの尾に抱きついた。モフモフでフワフワ。怖い気持ちも薄らいでいく。今日はミントに似た香りに落ち着く。好き。
「シズクが自分から寄り添って……可愛い」
「いいなー。私もエリオットともっと仲良くしたいわ!」
「コホン。……初対面に近しい間からで、いきなりあの二人のような距離感には応えられそうにない」
「むーー」
「だが、努力はしよう」
「ふぁあああああ! 好き」
エリオット様はジーナ王女の髪を一房掴むとキスをした。サラッとできるところが、小慣れているというか、女性の扱い方に長けているように感じる。
(あれ? 私たちよりスキンシップやお互いのことわかっているのでは? そりゃあ私たちは恋愛初心者マークの二人同士だけれど)
ルティに視線を移した瞬間、頬に唇が触れた。
「!?」
「シズク」
(ひ、人前ぇええ……)
ちゅっ、ちゅっ、頬や額にキスをする。いや二人が羨ましいという感じで見ていたのではないのだけれど。どうしよう、話が進まない──と困っていたのだけれど、そんなことはなかった。
「とまあ、帝国はペルニーア小国、西の森フェアリーロズに干渉しない。それは末代まで変わらない契約だが、どうやら初代皇帝と同等の強欲な者がいたようですね。火種は早々に払うに限る」
「はぁい。……って、ルティ!」
キスで照れている場合ではなかった。武力行使はダメだと口を開いたが、ルティの落ち着いた顔を見て言葉が引っ込んだ。
(あれ? 思ったよりも冷静?)
「……シズク。ペルニーア小国の林檎で作ったアップルパイが食べたいのですが、作ってくれますか?」
ルティは悪戯っぽくウインクをした。上手くできていなかったのが、すっごく可愛い。
「ルティ、それって……」
「少し早いですが、初旅行がてら小国を救ってしまいましょう(冬の間、あの男がこの空間に居続けることに比べれば、そのほうが手っ取り早い)」
「大賢者様。よ、よろしいのですか?」
エリオット様は驚いていたが内心嬉しそうだ。
「ああ、森の大賢者としても帝国の増長は見逃せない。……何より私とシズクの仲を──《片翼》との絆を利用しようと目論んだ魔女は、絶対に許さない」
「あ。それは私も♪ キッチリと始末しないと」
「「ふふふふふ」」
(怖っ)
ルティとジーナ様の意見が一致したようだけれど、この二人だけだと暴走しそうだと直感で思った。エリオット様も同じ危機を覚えたらしく、目が合うと無言でうなずき合った。初めて《片翼》の片割れ同士として仲間ができたようで嬉しくなる。前世で《片翼》と出会うことはなかった。改めてブリジットの世界はとても狭い箱庭だったのだ。
その後、エリオット様とルティは手早く計画を詰めていった。
「年の暮れに国を挙げて《聖夜の鐘祭》が執り行われる。これを使いましょう」
「それはいいですね」
その日にルティと私たちが乗り込んで短期決戦で挑むと教えてもらい、何故か私とジーナ王女のドレス選びに話が飛んだ。
(なんで!?)
魔導具のベルを使って商人を呼び出すほどだ。でも力の入れ具合が間違っているような気がしたが、空気を読める私は黙っていた。黙っていましたとも。
***
「いやーー、素材が良いからでしょうな! お二人ともどれもお似合いです」
今回訪れた商人は七三の髪型にキチッとしたスーツ姿の男性だ。手をモミモミしているところが、なんともヨイショする商売人らしい。
私はAの形のラインドレスで、ウエストラインが高い位置にあり、縦のラインを強調させるシンプルかつ清楚な雰囲気で、スカートの広がり方も素晴らしい。スカートにはレースがふんだんにつかわれており、宝石もついて──かなり高価だというのだけは察した。そしてなぜ白なのでしょう。なぜでしょう。
(これって結婚式的なドレスじゃ?)
「シズク、好きです。付き合ってください」
「ルティ、落ち着いてください。そして私たちはもう付き合っています」
「そうだった。……結婚しましょう」
とろんとした顔で言われると私まで熱が伝わって熱くなる。
「結婚を前提に付き合っているので、結婚の約束もしていますよ」
「そうでした……。私のシズク」
これ以上ないほど嬉しそうにする姿に、自分も口元が緩む。ちょっと恥ずかしいけれど、ルティの耳元で「…………私も好きです」と答えた。
「──ふ!?」
私だってルティのことが好きなのだ。ルティほど積極的ではないかもしれないけれど、気持ちを言葉して伝えていこうと決めたのだ。前世のようにすれ違わないように。
「い、い、いま……なんて」
「…………好きですよ、ルティ」
「……っ、あああああああ」
そう勇気を出してみた結果、思いのほか刺激が強かったのかルティは乙女のように恥じらっている。普段、色々私にするくせに私からする時に、その顔は狡い。
(わああ……色香がすごい……ん?)
「エリオット、ど、どうかな?」
「背の高い君ならマーメイドドレスがよく似合っている。特に腰のラインも出ていて、色合いも綺麗だ。このまま式を挙げてしまいたい」
「きゃーーー♪ ダーリンたら」
エリオット様とジーナ王女は、キャッキャウフフと幸せそうにドレス選びをしている。なんというか私とルティとは違った雰囲気だな、とほのぼのした気分だ。ちなみに王子は呪いの効果が無力化したとはいえ、私に接触するのはあまり良くないということで、住みこみで魔法研究倉庫の片付けの依頼を受けている。
私が傍にいなければ、自分大好きナルシストと自惚れ屋状態は出ていないこと。魔法大好きなカシミロ殿下は、毎日楽しいとエリオット様に話していたとか。本人は喜んでいるのでホッと胸をなで下ろした。
あと呪いの解除は魔女を殺──灰にしたほうが早いらしい。「穏便に」と言ってみたけれど、ルティ様は「うん、穏便に滅ぼしますね」と返答が返ってきた。違うそうじゃない。
もうじき今年が終わる。
本当に色んなことがあった年だったと思い返しながら、私の中では二十年ぶりの祖国に少しだけワクワクしていた。それをルティはちょっと勘違いしていたけれど、それを知るのはもう少し先。
コメント
1件
いやー、今回も良かったわ! まさかドレス選びでルティがあんなに可愛い乙女顔するとは思わんかった…ずるい、反則だっての(笑) エリオット&ジーナのベテラン感あるイチャイチャと、初心なシズク&ルティの対比がたまらん。 「私も好きです」でルティがぶっ飛ぶところ、脳内再生余裕だから助かる。 次は旅行兼小国救済か…この二人のケンカ売り方がもう笑うわ。次回も楽しみにしてる🔥