テラーノベル
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地下訓練施設の中央に、簡素な木製の人形が三体並べられていた。
どれも人間ほどの大きさで、胸元には赤い円が描かれている。
メバルはその前で剣を構えていた。
額には汗が浮かんでいる。
「今日は、私の剣術訓練だよね?」
「そうだ」
K-Tが答えた。
「じゃあ、レイちゃんは見てるだけ?」
「私も参加する」
レイが折りたたみ式の大剣を肩に担いだ。
メバルの顔から血の気が引く。
「参加って、まさか攻撃する側?」
「当然だ」
「木の人形を使うんじゃないの!?」
「動かない相手を斬っても、実戦の訓練にはならない」
K-Tは、紫色の鞘に収められた刀を腰に差している。
メバルはその刀をちらりと見た。
昨日の訓練で、K-Tが片手で刀を振るう姿を見た。動きは小さく、速く、無駄がなかった。
一方、レイの剣は重く、激しく、相手の逃げ道ごと断ち切るような迫力がある。
二人の戦い方は正反対だった。
「まず、私の攻撃を受け流せ」
レイが言う。
「受け止めるんじゃなくて?」
「受け止めれば、力の強い方が勝つ」
レイが大剣を展開する。
折りたたまれていた刃が伸び、巨大な武器へ変わった。
「受け流せば、力の差を消せる」
メバルは剣を両手で握った。
レイが踏み込む。
大剣が、正面から振り下ろされた。
メバルは剣を横に構え、真正面から受けた。
衝撃で両腕が跳ね上がる。
「重っ……!」
そのまま足が後ろへ滑り、背中から床へ倒れた。
「受け止めるな」
レイは大剣を引いた。
「今の攻撃を止めようとした」
「だって、避けたら斬られるよ!」
「避けるのではない。方向を変える」
レイはメバルの剣を持ち上げ、刃の角度を示した。
「攻撃が来たら、刃を斜めにする。相手の力を横へ逃がせ」
「角度を変えるだけ?」
「角度を変えるだけではない。足も動かせ」
レイは地面に靴先で線を引いた。
「ここで受け、ここへ移動する。身体と刃を同時に動かせ」
K-Takasaka
55
#K-Takasaka
K-Takasaka
141
K-Takasaka
132
#K-T
メバルは立ち上がった。
「もう一度、お願いします」
レイが頷く。
大剣が振り下ろされる。
メバルは刃を斜めに構え、横へ移動した。
大剣の力が剣の表面を滑り、斜め後ろへ抜ける。
しかし、レイは大剣を返し、柄でメバルの肩を打った。
メバルはその場に膝をつく。
「攻撃を受け流した後、止まるな」
レイが言った。
「相手の武器が外れた瞬間が、こちらの攻撃の時間だ」
「分かってるけど、身体が動かない!」
「分かっていない」
レイは淡々としていた。
少し離れた場所で、カキがメバルを見ている。
「メバル、頑張って!」
「応援するなら代わってよ!」
「私は銃担当だから!」
「それ、昨日取り上げられてたよね?」
カキは黙った。
K-Tがメバルの前へ歩いてきた。
「レイは力で攻撃してくる」
K-Tは腰の刀へ手を置いた。
「俺は、攻撃が来る前に位置を変える」
K-Tは木製の人形の前に立った。
人形の腕が機械音とともに動き、K-Tへ向かって振り下ろされる。
K-Tは、ほとんど動いていないように見えた。
しかし、木の腕はK-Tの肩をかすめ、空振りした。
K-Tは人形の横へ移動している。
刀は抜いていない。
「相手が動き出してから避けるのでは遅い」
K-Tが言う。
「相手の足、腰、重心を見ろ。攻撃の始まりは、武器ではなく身体に出る」
メバルは人形を見た。
「肩が動くんじゃないの?」
「肩は遅い」
「じゃあ、どこを見るの?」
「腰」
レイと同じ答えだった。
メバルは複雑な表情を浮かべた。
「二人とも腰を見るんだ……」
「肩は嘘をつく」
レイが言う。
「腰は嘘をつかない」
K-Tが続けた。
「二人で同じこと言うと、余計に難しく感じるよ!」
訓練は続いた。
メバルは何度もレイの大剣を受け流そうとした。
しかし、刃の角度を誤れば腕がしびれ、足が止まれば柄で打たれる。受け流した後に反撃しようとすると、今度はレイが大剣を折りたたみ、短い形へ変えて懐へ入り込んでくる。
「大剣なのに、急に短くなるのは反則じゃない?」
メバルが床を転がりながら言った。
「敵が武器の形を固定すると考える方が間違いだ」
レイは大剣を展開し直した。
「武器の形が変わるなら、間合いも変わる。長いと思った瞬間に遠ざかり、短いと思った瞬間に近づけ」
「そんなの、どうやって覚えるの?」
「何度も痛い目を見る」
「もう十分見てるよ!」
レイの刃が、メバルの剣を弾いた。
メバルの手から木剣が離れ、床を滑る。
レイは大剣を止めず、そのまま刃の側面でメバルの足元を狙った。
メバルは反射的に身体をひねり、床へ手をついた。
刃が頭上を通過する。
メバルは転がりながら木剣を拾い、レイの足元へ斬り込んだ。
レイは一歩下がった。
「今のは?」
メバルが息を切らしながら尋ねる。
「悪くない」
「それ、褒めてる?」
「判断が遅かった」
「やっぱり褒めてない!」
レイが再び攻撃する。
今度はメバルの正面ではなく、左肩を狙った。
メバルは腰の動きを見る。
大剣の軌道を予測し、刃を斜めに合わせた。
衝突の瞬間、足を横へ滑らせる。
大剣が流れた。
メバルはそのまま一歩踏み込み、レイの胴へ木剣を振り抜いた。
レイは大剣を折りたたみ、短い柄で木剣を受けた。
メバルの攻撃が止まる。
しかし、完全には弾かれなかった。
レイは、わずかに後ろへ下がった。
「……当たった?」
メバルが目を見開く。
「当たってはいない」
レイは答えた。
「だが、今までで一番近い」
メバルは嬉しそうに笑った。
「それって、かなり褒めてるよね?」
「評価だ」
「もうそれ、褒め言葉として使ってるでしょ!」
レイの口元が、ほんのわずかに動いた。
笑ったようにも見えたが、すぐに元の無表情へ戻る。
次の訓練は、複数の敵を相手にするものだった。
射撃場から運び込まれた小型ロボットが、メバルの周囲を取り囲む。
ロボットの腕には、訓練用の棒が取り付けられていた。
「三方向から攻撃する」
K-Tが説明する。
「全員を倒す必要はない。仲間を守る位置へ移動しろ」
メバルの背後には、カキとミステーが立っていた。
「私が二人を守るの?」
「守る剣を覚える」
レイが言った。
ロボットが一斉に動く。
正面から一体。
右から一体。
左から一体。
メバルは正面のロボットへ向かった。
棒を剣で受け流す。
しかし、右側のロボットがカキへ近づいた。
「しまった!」
メバルは慌てて振り返った。
その瞬間、左側のロボットの棒が背中へ当たる。
「痛い!」
メバルが倒れ込む。
「全員を見ようとするな」
レイが言う。
「守る対象を背に置き、敵を一方向へまとめろ」
K-Tが続けた。
「仲間の前に立つだけでは、仲間を守ったことにならない。敵の進む方向を変えろ」
メバルは立ち上がった。
今度は、カキとミステーを背中側へ置き、三体のロボットを正面に集める。
正面の攻撃を受け流し、右のロボットの腕を左へ流す。
右のロボットが中央のロボットと衝突した。
左のロボットが間合いへ入る。
メバルは剣を横に振り、棒を弾いた。
そのまま一歩前へ出て、三体の間へ割り込む。
ロボットたちの動きが一瞬止まった。
「今!」
K-Tが言った。
メバルは正面のロボットの胸へ木剣を叩き込んだ。
ロボットが停止する。
続けて右側のロボットの腕を払い、左側のロボットを足で押し返した。
完璧ではない。
しかし、カキとミステーには攻撃が届かなかった。
訓練終了の音が鳴る。
メバルは肩で息をしながら、剣を下ろした。
「今度は、守れた?」
「仲間を傷つけなかった」
K-Tが答える。
「それは大事なことだよね?」
「重要だ」
レイも頷いた。
「仲間を守る剣としては、悪くない」
メバルは目を輝かせた。
「今、悪くないって言った!」
「聞き間違いだ」
「絶対言った!」
カキとマサカゲが笑う。
そのとき、訓練施設の照明が一瞬だけ消えた。
壁面の監視モニターが、誰にも操作されていないのに点灯する。
画面には、メバルの訓練映像が映し出されていた。
次に、K-Tとレイが戦う過去の映像へ切り替わる。
若いK-Tが刀を抜き、レイの大剣を受け流す。
しかし、その映像には、現在の訓練には存在しない人物の影が映っていた。
長いコートを着た誰かが、遠くから二人を見ている。
「アオノ、あの映像を止められるか?」
K-Tが尋ねる。
「試みる」
アオノが端末を操作する。
画面の人物が、一瞬だけこちらを向いた。
顔は見えない。
ただ、長いコートの右袖だけが、不自然に揺れていた。
次の瞬間、画面は暗転する。
『記憶データ、補正中』
アオノが表示を読み上げた。
「過去の映像に、後から追加された部分がある」
「誰かが記録を改ざんしているの?」
メバルが尋ねる。
K-Tは答えず、紫色の鞘へ刀を戻した。
「今日の訓練は終わりだ」
「えっ、もう?」
カキが驚く。
「明日はさらに厳しくする」
レイが言った。
メバルは木剣を握り直した。
身体は痛く、腕も上がらない。
それでも、先ほどレイから受けた言葉が胸に残っていた。
仲間を守る剣。
その言葉だけは、忘れたくなかった。
施設の奥では、誰もいないはずの監視装置が、再び小さく作動した。
画面に新たな記録が表示される。
『対象:メバル』
『予測動作:未登録』
『修正対象:K-Tの記憶』
そして最後に、一行だけ追加された。
『未来の戦闘記録との照合を開始』
コメント
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いやあ、第5話、めちゃくちゃ熱かったですね!メバルが「受け流す」技術を体得していく過程が丁寧で、最後の「仲間を守る剣」という締めにグッときました。でも何より、あの不気味な映像と『未来の戦闘記録との照合』という表示……この世界の記憶や記録って、誰かが操作できるものなんですかね?設定の奥行きがますます気になります。続きが待ち遠しいです!