陽は傾き、空がオレンジ色に染め上げられる。
少年は剣を盗んだ。初めての品物だ。
今度は大人は追いかけてこない。それもそのはず、店主はおじいさんだったからだ。盗むところも、見てやいない。
小柄な身体に不釣り合いなその剣は、引きずらないと持ち運べない。
いつもなら軽やかに駆け抜けられる坂道を、重い足取りで登っていく。
その背中には、業の重圧がだんだんとのしかかっていった。
あの金持ちの屋敷に着き、重厚な門を押し開く。なんだ、誰でも入れるじゃないかと思った。
が、玄関には1人の番人がいた。しかしうつむいていて、足音を消して歩み寄る少年には気づいていない。
少年は剣を振りかざした。番人は顔を上げ、驚いた顔をする。懐から銃を取り出した。
その刹那、少年が剣を思い切り振り下ろす。番人は声もなく倒れた。
血で濡れた剣を持ち、屋内に入る。
あの少女がいるところを探していると、一つの部屋から大きな男が出てきた。
少年は心を決め、大声を上げながら突進していった。怒りと憎しみを込めて切っ先を払い、家主らしき男を倒す。
その部屋に入ると、大きなベッドの上に少女は座っていた。
突然の闖入者に、悲しげな微笑みを向ける。
ああ、もう彼女の魂は壊されて抜かれてしまったのかもしれない。少年は思った。
少女を救いたい。
でもこうするしか術はない。
残る僅かな力を振り絞って、ぎらりと光る剣先を少女に――。
いつもの通りまで戻ってきたが、泣くことは出来なかった。
ただ、夕食の食料を盗んでいないことを思い出した。
根源のわからない胸の痛みなら、少年も感じているのに。
お話は、ここで終わり。ある時代のある場所の物語。
終わり