テラーノベル
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ゴトリ、という音がクローゼットから聞こえる。そこには、昨晩と同じようにうつ伏せの死体が転がっていた。
「───っ」
条件反射のように飛び起きると、そろそろ肌寒い季節にも関わらず、私は驚くほど大量の汗をかいて目を覚ました。
「またこの夢……」
そう、またこの夢。最近毎晩のようにして見るのは、クローゼットからうつ伏せの死体が出てくる夢だ。質感が生々しすぎて、夢から覚めても暫くはクローゼットを開けることができない程だった。
僅かな睡眠時間であろうと、その死体は容赦なく入り込んでくる。この間はたった七分程の転寝から姿を現したので、机に突っ伏した状態で起きたときは背後のクローゼットが本当に恐ろしかった。
だが、死体について分かったこともある。それはまず女であること。首に縄のような痕と引っかき傷があり、セミロングの髪にボーイッシュな格好、手の甲にホクロがあり、私と似たような背丈。全体的に私に似ている、ということだ。
そんなまさかね、そう思いながら、その予感を完全に拭い去ることができない。私に似ている。気のせいと言い切るには材料が足りなかった。仮に自分だとして、それはただの夢なのだから、何も問題はないはずだ。
*
───いつの間に眠ってしまったのか。呻くようにして起き上がると、いつもの自室が視界に広がっている。何だか眠くて仕方がない。もう一度眠ってしまおうかと思った矢先、ゴトリ、という音が左端のクローゼットから聞こえてきた。
その何度も聞き慣れた音に、私の肌は一瞬で粟立つ。先程目が覚めたのは、目覚めたつもりになっていただけなのか? これは、どっちの世界なんだ。
恐る恐る音のした方に顔を向けると、首に痕のついた、私によく似た人間が転がっていた。
喉の奥で唾を飲み込む音が、目の奥にまで響いている。私の目は瞬きを忘れ、浅い呼吸が胸郭を小刻みに動かしていた。そのデッサン人形のように転がっている状態が、これはただの人形なのでは? という、ふざけた思考にいきつこうとしている。
顔を確認する勇気はとてもじゃないが出てこない。だが、顔を見ないことには自分の中の予感を拭い去ることもできない。私は半ば泣き出しそうになりながら、殆ど勢いに任せて死体の肩を掴んでひっくり返していた。
「おねえちゃん」
やばい。そう思う間もなく、私の視界はぐるぅんと反転してしまった。私は首に縄がかかった状態で、もう一人のわたしを見下ろしている。いや、それは正しい言い方ではない。私が殺したはずの片割れを見下ろしていたのだ。
「おねえちゃんは酷い人だなあ」
片割れは、心の底から楽しそうな表情でくすくすと嗤っていた。瞳の奥に愉悦と嘲、憎しみを湛えながら、息も絶え絶えな私を楽しそうに見つめている。
「惜しかったね、おねえちゃん。でもわたしがそうだったように、多分おねえちゃんももう死ぬよ」
そんなはずはないと叫びだしたかったが、喉に食い込んだ縄のせいで、風が抜けるような音しか出てこない。少しずつ霞んでいく視界に、死が目前であることを否応なしに突きつけられる。
「わたしね。おねえちゃんに殺されて、凄く悲しくて、凄く憎かった」
耳障りな声が霞む視界にへばりつく。首と縄の間に指を入れようと藻掻くが、指に力が入らず、首を掻きむしることしかできなかった。首から、ぽつぽつと血が滲み出す。
「だからね。わたし死ぬ間際に祈ったの。どうか、どうかおねえちゃんをわたしと同じ目に合わせてって! あはは!」
私は思わず絶句した。今まで見たこともない片割れの表情に、私の過去の行動は間違っていなかったのだと思い知らされる。
「まさか入れ替わるとは思っていなかったけど、これで解決だね。可哀想なおねえちゃん。それじゃあ、ばいばい」
片割れは恍惚の表情を浮かべながら、不自然に歪めた瞳をこちらに向ける。その表情は能面の笑顔を見ているようで、心底気持ちが悪かった。
踵を返す片割れの後ろ姿を刺すように睨みつけながら、こいつは跡形もなく消さないとだめなんだと、過去の自分を悔やんだ。私は祈ることしかできない。
──どうか、どうか妹を殺す日にもう一度戻して下さい、と。
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#短編
水底 ずい
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コメント
1件
「またこの夢」から始まるループ感と、姉妹の立場が入れ替わるラストの展開、本当にゾッとしました……。特に「おねえちゃんは酷い人だなあ」という台詞が、妹の憎しみと愉悦が混ざっていて恐ろしかったです。自分に似た死体=自分自身だったという伏線の回収も鮮やかで、最後の「♡♡♡日にもう一度戻して」という祈りが切実に響きました。続きがすごく気になります!