小学校の体育館からは、卒業式の練習をする騒がしい音が漏れ聞こえてきます。
3年生になった元貴にとって、大勢の拍手やピアノの音は、体調によっては耐え難い刺撃になることもありました。
「……もとき、今日は屋上にいよう。涼架さんが来るまで」
滉斗は、元貴の耳を自分の手で覆うようにして、静かな特別教室のバルコニーへと連れ出しました。3年生になり、滉斗の背は少し伸び、守る力も強くなっていました。
「ひろと……。りょうちゃん、行っちゃうんだね」
「ああ。でも、校舎が変わるだけだ。校庭を挟んで向かい側だろ」
「でも、お昼寝も、おやつも、一緒じゃないんだよ」
元貴の瞳に、少しだけ涙が溜まります。彼らにとって涼架は、ただの幼馴染ではなく、外の世界のノイズから守ってくれる、太陽のような存在でした。
そこへ、卒業生用の立派なコサージュを胸につけた涼架が、バタバタと駆け寄ってきました。
「二人とも! 探したよ〜!」
いつも通りのふわふわした笑顔。でも、その瞳は少し潤んでいます。
「涼架さん、卒業おめでとうございます」
滉斗が少し大人びた口調で言うと、涼架は「ありがとう」と二人の肩を抱き寄せました。
「あのね、二人にお願いがあるんだ」
涼架は元貴の耳当てを優しく整えながら、真剣な表情になりました。
「僕がいなくなると、ここの様子がすぐには見れなくなる。だから、滉斗。元貴のことをしっかり頼んだよ。……元貴、もし滉斗が無理して強がってたら、元貴が優しく包んであげてね」
「……うん。ぼく、ひろとの彼女だから、がんばる」
元貴が小さく頷くと、涼架は満足そうに笑いました。
卒業式の後、中庭にある大きな青林檎の木の下で、3人は並んで座りました。
「ねえ、これ。僕からのプレゼント」
涼架が二人に渡したのは、手作りの「お守り」でした。中には、3人で拾った綺麗な石と、涼架が書いた『いつでも呼んでね』という手紙が入っています。
「中学生になっても、高校生になっても、僕たちは一緒だよ。困ったら、ここで待ち合わせしよう」
涼架の優しい言葉に、元貴は滉斗の手をぎゅっと握りしめました。
校庭の向こう側に見える藍林檎学園の校舎は、今の二人には少し遠く見えるけれど、涼架がそこにいてくれるなら、何も怖くない。
「……りょうちゃん、待っててね。僕たちも、すぐ追いかけるから」
涼架が中学校へと進学し、二人の「守り、守られる」日々は、より二人だけの密やかな、けれど強い絆へと変わっていくのでした。
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