テラーノベル
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あれから数年。
藍林檎学園の真新しい制服に身を包んだ元貴は、校門の前で立ち止まっていました。
中等部の制服は、小学校の時よりもカチッとしていて、少しだけ背筋が伸びる心地がします。けれど、入学式の喧騒や、飛び交う祝辞、吹奏楽部の演奏……。元貴にとって、新しい環境は「音」の暴力でもありました。
「……もとき、大丈夫か。カバン、俺が持つよ」
13歳になった滉斗は、声変わりが始まりかけた少し低い声で言いました。
彼は自分のカバンを肩にかけ、空いた方の手で自然に元貴の手を握ります。もう「手をつなぐのは恥ずかしい」なんて年頃かもしれませんが、彼らにとってそれは、言葉よりも確実な「命綱」でした。
「おーい! 入学おめでとう!!」
寮の中等部棟の入り口で、二人の到着を今か今かと待ち構えていたのは、高等部4年生になった涼架でした。
高等部の制服を着た涼架は、中学生の二人から見ると、ぐっと大人びて見えます。
「あ、りょうちゃん! ……あ、今は『涼架さん』って呼んだほうがいいのかな」
元貴が少し遠慮がちに言うと、涼架は耐えきれないというように二人をまとめて抱きしめました。
「何言ってるの! 『りょうちゃん』でいいに決まってるでしょ。……うわぁ、二人とも制服似合ってる! 滉斗なんて、もう僕と背が変わらないんじゃない?」
「……涼架さんが止まってるだけですよ」
「こら、生意気! でも、こうしてまた毎日会えるね」
涼架は、不安そうな元貴を気遣い、一番静かな「共用ホール」の奥まった席へと二人を案内しました。
「ここは中等部も高等部も使えるから。元貴、もし教室がうるさくてしんどくなったら、いつでもここに来て。僕、空き時間はだいたいここにいるようにするからさ」
涼架のその言葉に、元貴の強張っていた肩がようやく解けました。
「……ありがとう、涼ちゃん」
「元貴は俺が守る。でも、俺が授業で離れる時は、涼架さん……よろしくお願いします」
滉斗が真剣な顔で頭を下げると、涼架は優しく微笑んで、二人の頭を撫でました。
「任せて。……さて、中等部入学のお祝いに、購買で一番人気の『青林檎サンド』、僕が奢っちゃおうかな!」
これから、家ではなく「寮」での生活が始まります。
夜、寂しくなったらどうしよう、音が怖かったらどうしよう。そんな不安も、隣にいる滉斗の体温と、少し先を歩いて導いてくれる涼架の明るい声があれば、乗り越えられる気がしました。
「ひろと。……僕、この学校で頑張ってみるね」
「ああ。俺がずっと、隣にいる」
桜の花びらが舞う中、三人の「藍林檎学園」での新しい物語が、静かに、けれど力強く幕を開けたのでした。
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コメント
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続きが楽しみです!