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白山小梅
12
#借金
1,754
「す、すごい……。海外ドラマに入り込んだみたい」
道路沿いの家のほとんどがビルドインガレージになっており、外からは容易に入れないようになっている。
こんな建物が日本にもあるんだーーテレビでしか見たことのない景色に驚いていると、車がゆっくりと徐行して止まった。
「着きました。ここです」
以前に外観や、中古で買ったばかりの頃の写真を見せてもらったことがあった。その頃のガレージのシャッターは少し汚れが目立っていたが、今は色も塗り直されて綺麗になっている。
白い塀に、茶色のシャッター。どこかフレンチカントリーを思わせる色合いは、春香が好きなカラーだったこともあり胸が高鳴った。
瑠維はポケットからリモコンを取り出し、ボタンを押すと同時にシャッターがゆっくりと上に上がっていく。そこは車が二台ほど置けるスペースがあり、向かって左側の壁にあるドアから家に入れるようだった。
瑠維は車をバックで入れると、すぐにシャッターを閉めた。
その一連の動きを目の当たりにした春香は、初めての経験ばかりでつい興奮し、目を輝かせながら周りをキョロキョロと見回す。
「私、ビルドインガレージって初めて経験したからドキドキしちゃった」
「実は僕も初めてなんです。ちゃんと開くのか緊張しました」
「えっ、そうなの? 何度もやってるのかと思っちゃった」
二人は車から降りると、先ほど見えたドアまで歩く。
「前に来た時はまだ電気が通っていなかったので。今は電気もガスも水道もちゃんと使えるようになっていますよ」
「じゃあ今すぐにでも住めちゃうね」
「えぇ、いつでも大丈夫です」
ドアを開けると屋根がついた通路があり、そこを一メートルほど歩くと、今度は左側に扉が現れる。
「ちょっと面倒かもしれませんが、この左側のドアが第一のドアで、マンションのオートロックドアみたいなものですね」
「じゃあここはエントランス?」
右へ二メートルほど進むと玄関ドアがある。その玄関ドアの前のアプローチには両脇にに植物が植っていて、ちょっとした庭のような感じだった。
「まさにそうです。あの奥の扉が玄関でーー」
瑠維がそう言いかけた時だった。家の中から呼び鈴が鳴り響くのが聞こえたかと思うと、
「君島さん、いらっしゃいますかー?」
と外へと続く扉の向こう側から、突然声が聞こえたのだ。
まだ誰も住んでいない家なのに突然男性の声が響いたため、春香は驚いて体をビクッと震わせる。
部屋の中からテレビモニターなどで確認が出来れば安心なのだが、不意に話しかけられたり、今のようなドア越しの男性の声というだけでも未だに恐怖心を覚えてしまう。
もうそろそろ大丈夫だと思っていたんだけどなーー心に根を張った恐怖心はなかなか払拭することは出来ず、春香の心のトラウマになっていた。
その春香の様子に気付いた瑠維は、彼女をそっと抱き寄せ、頭を優しく撫でる。それからスマホで何かを確認すると、春香の額にキスをした。
「大丈夫です。リフォーム会社の方です。あの男ではないですから安心してください」
「あっ、うん……ありがとう」
瑠維が、通り側のドアを開けると、そこには四十代後半くらいのスーツ姿の男性が、寒そうに震えながらも笑顔で立っていた。
「お久しぶりです。時間通りの到着ですね」
「えぇ、もちろんです! 大切な引き渡しの日ですからね」
それから春香の存在に気付くと、表情がパッと更に明るくなる。
「あぁ、すみません! 初めまして。今回リフォームを承りました志賀と申します。もしかしてあなたは……」
首を傾げた春香に代わり、
「そうです。お付き合いしている大切な方です」
と瑠維が答えた。
"お付き合いしている大切な人"ーーその言葉が嬉しくて、先ほどまでの不安が消えて、逆に心がくすぐったくなる。
「やはりそうでしたか! なるほど。だから急にカラーの変更が入ったんですね」
「カラーの変更?」
「ええ。最初は白黒ベースと言われていたんですが、間に合うところがあれば変更したいといわれましてね。何か心境の変化があったのだろうと思っていたんですよ」
「……そうなの?」
瑠維の顔を見上げると、困ったように目を逸らして口元を手で覆った。
それはまるで春香が住むことを意識してリフォームをしていたということになる。そのことを知った春香は胸が熱くなり、彼を抱きしめたい衝動に駆られたが人前であることを意識してぐっと堪えた。
「では今日はリフォーム箇所の確認、点検作業と、その後に引き渡しとなりますので、早速中へ入りましょうか」
志賀に促され、三人は玄関ドアに向かって歩き出した。
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