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第5話「地獄の1年」
「いい、紺くん? 『蜜ノ呼吸』はね、水の呼吸の流麗さと、恋の呼吸の速度としなりを合わせた、とっても欲張りな呼吸なの☆」
緋蜜さんの屋敷での修行は、まさに言葉通りの「地獄」だった。
「はい、もっと足腰落として! 関節を鞭みたいにしならせるのよ!」
「ぐ、うあああああ!!」
最初の三ヶ月は、体が引きちぎれるような柔軟訓練と、四方八方から飛んでくるハチミツ入りの水風船を躱す反射神経の訓練。
いじめられていた頃の筋肉は一度すべて破壊され、蜜の呼吸を扱うための「しなやかで強靭な肉体」へと作り変えられていった。
半年が経つ頃には、木刀を持たされ、高い木々の間を飛び回る。
「ほらほら、後ろがガラ空きよ☆」
背後から容赦なく襲いかかる緋蜜さんの斬撃を、俺は必死に躱し、食らいついた。
その過酷な日々の間も、俺の髪には、あの村を出る日に蜜流が結んでくれた鈴付きのリボンがずっと揺れていた。
ボロボロになり、泥にまみれても、この鈴の音だけが「英雄になる」という俺の原動力を繋ぎ止めてくれていた。
(負けるか……! 俺は、あいつらの頭が上がらねぇ英雄になるんだ……!)
呼吸の基本を体に叩き込み、俺は一つ、また一つと、緋蜜さんの技を自分のものにしていった。
水の流麗さで滑らかに首を落とす、基本の技。
――壱ノ型:蜜水流・注ぎ(みつすいりゅう・そそぎ)。
不規則かつ高速に四方八方へ斬撃を繰り出す。
――弐ノ型:甘露の波飛沫(かんろのなみしぶき)。
粘り気のある円の軌道で、敵の攻撃をすべて無効化する。
――参ノ型:清流・蜜の渦(せいりゅう・みつのうず)。
上空からアクロバティックに獲物を包み込む。
――肆ノ型:恋慕の溺泉(れんぼのできせん)。
切られた鬼が心地よさの中で消滅する、慈悲の技。
――伍ノ型:とろける甘雨(とろけるかんう)。
六角形を描くように、寸分の隙もない強固な連撃を放つ。
――陸ノ型:六角の蜜房(ろっかくのみつぼう)。
極限の一点集中で、目にも留まらぬ速さで突き抜く。
――漆ノ型:女王の毒針(じょおうのどくばり)。
そして、修行の最終日。
俺の目の前には、現役の柱である緋蜜さんが真剣な表情で立っていた。
1年間の集大成。俺はすべての力を足に込め、地を蹴った。水が激流となるように四方から攻め立て、恋の呼吸の速度で無数の残像を生み出す。
――捌ノ型:万華鏡・蜂群崩し(まんげきょう・ほうぐんくずし)!!
まるで蜂の群れが敵を囲い込むように、全方位から一瞬で切り刻む最大の大技が、ついに緋蜜さんの衣服の「リボン」を綺麗に捉え、切り裂いた。
「……ふふっ、お見事☆」
緋蜜さんは、自分の切られたリボンを見て、心底嬉しそうに微笑んだ。
「完璧よ、紺くん。1年でここまで私の型を修めるなんてね。……さぁ、行きなさい」
1年が経ち、俺の年齢は12歳になっていた。
体は一回り大きくなり、目つきは鋭く、だけど心には確固たる自信が宿っている。
「行ってきます、緋蜜さん」
目指すは、鬼殺隊の最終試験――藤襲山(ふじかさねやま)。
髪の後ろでチリン、と小さく守り神のように鈴が鳴った。
12歳の蜂須賀紺、いよいよ最終選別へ挑む。
第五話完
コメント
3件
うわ、第5話読み終わりました!「蜜ノ呼吸」の型がひとつひとつ丁寧に紹介されていて、特に「伍ノ型:とろける甘雨」の慈悲の設定がすごく好きです。♡♡♡の技に優しさを込めるって、緋蜜さんの人柄が出てるなあと。それに鈴付きリボンがずっと主人公の心の支えになってる描写、胸が熱くなりました。12歳でここまで成長した紺くん、最終選別がどうなるか本当に気になります!
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