テラーノベル
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珠李
176
HARUKA
2,207
第2章:黄昏(クレプスコ)の戦線、空白(ヴァルポ)の盾【其の一:硝煙の咆哮】「撃て! 撃て! 弾幕を絶やすな!!」前線倉庫の装甲隔壁が魔獣の爪によって紙のように引き裂かれ、夜の暴風が室内に吹き荒れていた。防衛部隊の小隊長が絶叫し、兵士たちが一斉に魔導アサルトライフルを連射する。マズルフラッシュが暗闇を断続的に照らし、空になった薬莢がチリンチリンと冷たいコンクリートの床に跳ねる。だが、敵は帝国の通常兵器が想定している「生物」ではなかった。深淵(アビス)の泥を捏ね上げて作られたような異形の魔獣たちは、心臓を撃ち抜かれようとも、頭部を吹き飛ばされようとも、黒い体液を撒き散らしながら突撃を止めない。「ひ、ひぃっ……! 来るな、来ないでくれ!!」若き通信兵が恐怖に耐えかねて銃を放り出し、頭を抱えてうずくまる。「おい、しっかりしろ! まだ防衛線は崩壊しちゃいない!」その通信兵の襟首を掴み、強引に引きずり起こしたのはレノヴォだった。レノヴォは泥と硝煙で顔を黒く汚しながらも、背嚢から予備の弾倉を取り出し、怯える通信兵の手に無理やり握らせた。「ヴァルポ! 右の銃座の冷却液が切れる! 予備のタンクを持ってこい!」「了解(サー)、兄貴! すぐ行きます!」ヴァルポは自分より一回りも大きい鉄製の冷却タンクを抱え、銃弾が飛び交う通路をすばしっこく駆け抜ける。その動きは、恐怖に腰を抜かしている他の兵士たちよりも遥かに迅速だった。レノヴォとヴァルポ――階級は最底辺の二等兵。普段は上官にこき使われ、不条理な軍隊社会のトカゲの尻尾として扱われている2人。しかし、この地獄のような戦場において、彼らは不思議と「生き残るための正解」を本能的に選び続けていた。「レノヴォ二等兵! 前方から特級サイズの魔獣が接近中だ! 重機関銃班が全滅して、もう抑えがきかない!」偵察から戻った先任軍曹が、年下の、それも下っ端であるレノヴォに向かって思わず「報告」を上げていた。本来ならあり得ない光景だった。軍隊における命令系統の無視は重罪。しかし、パニックに陥った現場の兵士たちは、無意識のうちに感じ取っていた。この泥まみれの二等兵には、どれほどの絶望の淵にあっても、決して折れずに周囲を導く「新たなる王」のカリスマがあることを。「……みんな、俺の言う通りに動いてくれ。あと3分持ちこたえれば、中央から必ず最強の『援軍』が来る。それまで、絶対に誰も死なせない!」レノヴォが黄金のオーラを無自覚に滲ませながら叫んだ瞬間、絶望に染まっていた兵士たちの瞳に、鉄のような規律と闘志が蘇った。
コメント
1件
読ませていただきました…! もう冒頭から硝煙と鉄の匂いが立ち込めてくるような、緊迫感に満ちた戦闘シーンで一気に引き込まれました。特に、恐怖に震える通信兵の襟首を掴んで立ち直らせるレノヴォの行動がすごく熱くて…階級は最底辺なのに、自然と周りが彼を頼るようになる流れ、本当に好きです。ヴァルポとの連携も息が合っていて、この二人にこれからもずっと生き残ってほしいと心から思いました。重厚な世界観と、人間の芯の強さが描かれた素晴らしいエピソードでした…!