「白極さん! ふざけるのもいい加減にしないと許しませんよっ!!」
「ひっ、ひぎゃあああああっ!」
私が急に起き上がり大声を出した事で、相手は驚き身体をのけぞらせて悲鳴を上げる。そこまでは私の思い通りだった、はずなのだけど……あれれ?
「……えっ、あれ?」
聞こえてきた悲鳴は甲高い女性のそれで、私の予想していた白極さんのものではなかったのだ。ベッド脇のチェストに置いた照明のスイッチを手探りで探し当てると、それを押して灯りを点ける。
眩しさに一瞬目を細めた後、目の前の人物を確認する。しっかりと足があるのでやはり霊ではなさそう。
「……い、いやあああああっ! なんなの、この女!? 私聞いてませんよ、樹生様」
いやあああ! って……それって寝込みを襲われた私が出すべき悲鳴なんじゃないの? それに樹生様って言うからには、やはり彼女は白極さんの関係者のようだ。
変な人には変な人ばかりが集まってくるという話は、やはり本当の事なんだと思った。とりあえず、自分の事は別なんだと考える事にしておいたけれど。
「……で、貴女は誰ですか? あと、すみませんがさっさと私の上からどいてもらえません?」
勝手に一人で取り乱している女性になるべく冷静に話しかけてみる。火に油を注ぐ様な事にならなければいいな、と思いながら。
「アンタこそ誰よ⁉ ここは樹生様の秘書だけが許された部屋のはず、どうして女なんかがこの場所に!」
ヒステリックに叫ぶ女性はこっちの言葉などまるで聞いてないようで、私の肩を掴むとガクガクと前後に揺らしてくる。こういう時に反抗すると逆効果のなので、とりあえず好きにやらせておいてみた。
「どういう事ですか、樹生様! 女なんて面倒だから傍にはおかないっていつも言ってたのに!」
んん? 私は彼女の言葉に首を傾げる。
つまり、今までの白極さんの秘書は全て男性だったという事なのだろうか? ならば今回はどうして私が選ばれたのか、確かに白極さんの性格的に面倒な事は嫌いそうなのに。
「えっと、多分私に女を感じないからじゃないですかね……?」
なんて白極さんからさんざん言われたことを思い出して伝えてみると、彼女はしげしげと私の容姿を観察し……
「本当だわ、アンタみたいな貧相な女を樹生様が相手にするわけないわよね?」
なんて素直に納得するのは失礼じゃないですか? それも白極さんと同じように貧相な女って……私のどこが貧相だって言うのよ?
「……ったく、うるせえな。毎回毎回、こんな夜中に隣でバタバタ騒がれる俺の身にもなれよ」
「……へ?」
声のした方に顔を向けると、いつの間にこの部屋に入って来たのか黒のパジャマ姿の白極さんがいる。真っ白ばかり好んでいると思っていたら、夜着は黒なんですね……
「樹生様、これはどういうことですか? 新しい秘書がこんな女だなんて……遥翔も何も言わなかったし、樹生様を信じて今までは黙っていたのに」
「お前の黙っているとは、夜中に忍び込んで散々相手をビビらせてここから追い出す事を言うのか? 遥香はどんな奴が来てもどうせ気に入らないんだし、根性ありそうなコイツを選んでみた」
えっと話がよく分からないんで、私に理解出来るように説明してもらえると嬉しいんですけどね。今の話からすると、どうやら霊というのはこの女性の悪戯の事だったみたいで……
白極さんの前の奴隷の方が辞めたのは、この人の所為だったという事なのかしら? いや、なんとなく白極さんにも原因があるような気がする。
「でも……こんな男に縁の無さそうな貧相な女を隣の部屋に置いては、樹生様に何をするか分からないじゃないですか!」
「何もしませんよ、こんな人相手になんて! 冗談じゃないっ!!」
あまりの言われように、聞き役に徹していた私も思わず反論してしまう。白極さんに選ぶ権利があるように、私だって襲う相手くらい選ばせてよ。
……襲ったことも、襲われたことも今まで一度も無いけれど。
きっとこの女性は白極さんに好意を持っているのだろうけれど、あまりにも言動がメチャクチャで。やはりこれも白極さんが絡んでいるのだと思うと、本当にたまったもんじゃない。
「それに! ここは私に与えられた部屋ですよね、どうしてこんな夜中に平気な顔して入って来てるんですか貴方達は?」
これなら大人しくすすり泣いているような霊の方がずっとマシな気がする。深夜に騒ぎ立てる意味不明な女性と、当然という顔で独身女性の部屋に入る男……あまりに酷すぎないですか?
「どうしてって、うるせえからだろ? 隣でギャアギャアと騒ぐお前らが悪い」
「隣……?」
そう言えば、白極さんはさっきも同じような事を言っていた気がする。でもこの人はいつの間にこの部屋に入って来た? と彼の後ろを見ると、鍵のかかっていた謎の扉が開いていて……
「まさか、その扉って……?」
「ああ、俺の部屋に繋がってる。鍵をかけれるのは俺の部屋からだけで、凪弦から襲われる心配はない。便利だろ?」
だから襲いませんって、白極さんなんて。普通は逆のはずなのに、遥香という女性は「さすがです、樹生様」と喜んでいる。本当に阿保らしい、早く出て行ってくれないだろうか?
こうして勝手に部屋に出入りされていては、安らげるはずの時間さえストレスにしか感じない。永美さんもこれを知っていたはず、明日思いきり愚痴を聞いてもらおう。
「私は便利さを欠片も感じませんけどね。ところでこの女性は誰なんです、もしかして白極さんの彼女さんですか?」
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