テラーノベル
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朝ごはんのあと、リビングにはゆっくりした時間が流れていた。
なつは食器を洗い、すちはソファでスマホをいじり、らんは窓際にもたれて外を見ている。
いるまは、どうしていいかわからず、椅子に座ったまま動けずにいた。
ここにいていいのか。
まだ、少しだけ不安になる。
「いるまくん」
こさめが、小さく呼んだ。
「今日さ」
「……?」
「一緒に買い物、行かない?」
少し遠慮がちな声。
断られるかもしれないと思っている顔。
「……買い物?」
「うん。食材、なくなりそうだから」
本当は、理由なんてどうでもいいのかもしれない。
ただ、一緒にいたいだけ。
そう思ってしまった。
「……いいよ」
答えると、こさめの顔がぱっと明るくなった。
「ほんと?」
「ああ」
それだけで、胸が少し温かくなる。
その様子を、らんが見ていた。
「……」
何も言わない。
でも、その視線だけが、残った。
――外。
並んで歩く。
少しだけ距離をあけて。
近すぎないように。
でも、離れすぎないように。
「……」
こさめが、ちらっと見てくる。
「どうした」
「……なんでもない」
そう言って笑う。
その笑顔に、少しだけ緊張が混じっているのがわかった。
「……なあ」
いるまが、口を開いた。
「ここ、来てよかった?」
こさめが止まる。
驚いた顔。
「どうして?」
「……いや」
うまく説明できない。
でも。
「……俺」
言葉が詰まる。
「……壊れてるから」
こさめの目が、揺れた。
「……」
少しの沈黙。
そして。
こさめは、ゆっくり首を振った。
「壊れてないよ」
「……」
「壊れてたとしても」
一歩、近づく。
「一緒にいる」
まっすぐな目。
逃げ場なんて、なかった。
「……どうして」
思わず聞いていた。
こさめは、少しだけ困ったように笑った。
「……好きだから」
心臓が、大きく鳴った。
言葉が出ない。
怖い。
でも。
嬉しい。
「……」
いるまは、視線を逸らした。
「……ずるい」
小さく呟く。
こさめが、少しだけ笑った。
そのとき。
遠くから。
「……」
誰かが見ていた。
電柱の影。
らんだった。
何も言わず。
ただ、二人を見ていた。
その表情は――
笑っていなかった。
その日の夜だった。
リビングには、いるまとらんの二人だけが残っていた。
他のメンバーはそれぞれの部屋に戻っている。テレビもついていない。ただ、時計の音だけがやけに大きく聞こえていた。
「……なあ」
先に口を開いたのは、らんだった。
いるまは少しだけ肩を揺らす。
「……なに」
らんは、壁にもたれたまま、いるまを見ないで言った。
「こさめと、付き合ってんの」
一瞬、呼吸が止まる。
「……付き合って、ない」
正直に答えた。
まだ、ちゃんと答えていないから。
「……ふーん」
らんが小さく笑った。
でも、その笑いは冷たかった。
「じゃあさ」
らんが顔を上げる。
まっすぐ、いるまを見る。
「なんで、あんな顔させてんの」
「……は?」
意味がわからなかった。
「こさめ」
らんの声が、低くなる。
「ずっとお前見てる」
胸が、ざわつく。
「お前の一言で笑って、お前の一言で不安そうな顔して」
らんが一歩、近づく。
「……あいつ、そんなやつじゃなかった」
「……」
「もっと、ちゃんと笑ってた」
その言葉が、胸に刺さる。
「お前が、変えたんだよ」
責めるような声。
いるまの手が、小さく震える。
「……俺は」
言葉が出ない。
「中途半端な気持ちなら」
らんの目が揺れた。
「期待させんなよ」
その瞬間。
「……っ」
ガタンッ
音がした。
二人が振り返る。
そこに立っていたのは――
こさめだった。
「……こさめ」
顔が青い。
手が震えている。
聞いていた。
全部。
「……ごめん」
小さな声。
「聞くつもりじゃ、なかった」
でも、目から涙がこぼれていた。
「……こさめ」
いるまが名前を呼ぶ。
こさめが、一歩下がる。
「……だいじょうぶ」
全然、大丈夫じゃない顔で、笑った。
「だいじょうぶ、だから」
また一歩、下がる。
「……困らせて、ごめん」
胸が、締めつけられる。
「……ちが」
否定しようとした。
でも。
言葉が出なかった。
自分の気持ちが、まだ怖くて。
はっきり言えなくて。
その沈黙が。
答えになってしまった。
こさめの顔が、崩れる。
「……あ」
涙が、止まらない。
「……そっか」
笑おうとして。
失敗する。
「……そっかぁ……」
声が震える。
「……ごめん……」
ぽろぽろと涙が落ちる。
「……好きになって、ごめん……」
その言葉で。
いるまの心臓が、大きく痛んだ。
「……こさめ」
手を伸ばした。
でも。
こさめは、逃げた。
「ごめん……!」
走っていく。
階段を駆け上がる音。
ドアが閉まる音。
静寂。
残されたのは、いるまとらん。
「……っ」
いるまの手が、宙に残ったまま止まっていた。
らんが、小さく呟く。
「……追えよ」
「……」
「追えよ!!」
らんが怒鳴った。
「好きなんだろ!?」
その言葉に。
いるまの目が見開かれる。
「違うのかよ!!」
らんの声が震えていた。
怒りじゃない。
悲しみだった。
「……泣かせたままでいいのかよ……」
その言葉で。
いるまの足が、動いた。
階段へ向かって、走り出す。
胸が苦しい。
怖い。
でも。
それ以上に。
こさめを、一人にしたくなかった。
コメント
3件
はっはっ꒰՞⊃>⸝⸝⸝⸝<⊂՞꒱՞՞
らんらんが優しすぎて泣く…続き楽しみすぎる!