テラーノベル
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夜通しの愛を何度も重ね、季節がわずかに移ろい始めた頃。しのぶは自分の体に訪れた、微かな、けれど確かな変化を感じ取っていました。朝の光が差し込む洗面所で、彼女は震える手で一本の検査薬を握りしめていました。薬剤が染み込み、白い窓にゆっくりと、けれど鮮明な二本筋の陽性反応が浮かび上がります。
「……ああ、本当に」
しのぶは、まだ平坦な自分のお腹にそっと手を当てました。そこには、あの日から何度も彼が注ぎ込み続けた熱い愛の結晶が、静かに息づき始めていたのです。
居間では、いつものように甲斐甲斐しく朝食の準備を終えた童磨が、しのぶが戻ってくるのを待っていました。
「しのぶちゃん、どうしたんだい? 顔色が少し……」
心配そうに駆け寄ろうとする童磨の前に、しのぶは隠していた検査薬をそっと差し出しました。何が起きたのか理解するのに、数秒。いつも余裕を崩さない童磨の瞳が、驚愕で見開かれます。
「これ……って、つまり……僕たちの?」
「ええ。あなたのせいで、私はすっかり骨抜きにされただけでなく、お母さんにまでされてしまったみたいです」
しのぶがいたずらっぽく、けれど慈愛に満ちた微笑みを浮かべると、童磨の目から大粒の涙が溢れ出しました。感情が欠落していたはずの男が、初めて「父」としての、震えるような喜びを知った瞬間でした。
「嬉しい……っ、しのぶちゃん、ありがとう! 僕、君とこの子を、命に代えても守り抜くよ!」
童磨はしのぶを壊れ物を扱うように抱きしめ、まだ見ぬ我が子が宿るお腹に、何度も何度も愛おしそうに口づけを落としました。
「これからは、家事をもっと完璧にするね。君は指一本動かさなくていい。僕が、世界で一番幸せなママにしてあげるから」
「ふふ、そんなに張り切らなくても大丈夫ですよ。でも……今日からは、少しだけ優しく愛してくださいね?」
しのぶは彼の首に腕を回し、幸せの涙で濡れた彼の頬を優しく拭いました。
かつては殺し合った二人の間に、新しく芽生えた小さな命。その温かな希望を抱きしめながら、二人はこれまで以上に深く、穏やかな愛の海へと漕ぎ出していくのでした。