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#独占欲
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彼女の手首を掴んでいるのは、いかにもこなれたファッションの、チャラそうな男だった。
「……すみれ、怒ってるのはわかるけどさ。あの時は客との付き合いっていうか、断れなくてさ。……美容師だって人気商売なんだよ。でも、俺が本気なのはやっぱりお前だけなんだよ」
(……出た。浮気男の言い訳テンプレ。マジで耳が腐る……)
俺は、浮気症だった父親の影響で、こういう反吐が出るような言い訳は聞き飽きていた。
小森は、俯いたまま震えている。彼女のような「善意の塊」のような人間は、こういう「君だけが特別」という甘い言葉に付け込まれ、何度も許してきてしまったんだろう。
(……あーあ。優しい人ほどああいうクソ男に利用される。俺の母さんも、そうやってボロボロになった……)
俺は深いため息をつくと、わざと大きな足音を立てて、二人の前に姿を現した。
「……俺の彼女に、何か用っすかね?」
俺は、目が一切笑っていない「営業スマイル」を浮かべた。そして男の手を、ゴミを払うような動作で力任せに振り払った。
「……勝手にベタベタ触るの、やめてもらっていいっすか? 俺、結構嫉妬深いんで」
「……か、彼女?」
男がたじろいだ。小森も驚きのあまりか、固まっている。
「そう。俺の彼女。……何か文句、あります?」
俺は一歩、男との距離を詰める。そして男の腕を、グイッと握り込んだ。
「……っ! 離せ! 何なんだお前……!」
「……さ、部外者は大人しく帰ってください。これ以上騒ぐなら、すぐそこのビルの警備員を呼びますよ? なんなら、警察も呼びます?」
「……チッ。すみれ、また連絡する」
「二度としないでくださいっ!」
小森の拒絶に背中を押されたように、男は逃げるように去っていった。
「……大丈夫ですか? 勝手に彼氏を名乗ったのは悪かったけど、ああいうタイプには、これが一番効くかなって……」
「……っ、ありがとうございます! めちゃくちゃ助かりました……。元カレ、本当にしつこくてっ!」
「じゃ、これからは気を付けて。俺は午後のアポがあるんで、これで」
「待ってください!」
「え?」
「王子谷さん、あの……っ! もし、もし彼女さんがいらっしゃらなければ……!」
小森は俺の袖を掴み、くりくりした大きな瞳で真っ直ぐに俺を見上げた。
「よければ、私の『偽装彼氏』になってくれませんか?」
「……は?」