実験農場やインセクトハイブの件がすっぱ抜かれ、俺の名前が再びニュースや新聞に載りましたが、私は元気です。
先日のダンジョンでの醜態を教訓に修行の一つもしようと思ったのですが……
さて、本日私は〇×県警本部に黄泉大毘売命の淡姫ちゃんを連れてやって来ています。
エインセル、志子ちゃん、ジャンヌちゃんが働いているのを見て我慢が出来なくなったのか、昨夜人のベットの上で
仕事が欲しいと駄々を捏ね、暴れまくって訴えてきた結果、ベッドに一緒に入り、彼女を抱きしめながら彼女にできる事を精査して、
明け方まで一睡もできずに考え続けた結果、ここに来る事にしたのだ。
夜が明ける頃には志子ちゃん・ジャンヌちゃん・宇受乃さんまで人のベッドに潜り込み、何故か俺の忍耐力の耐久テストの様相を呈していたが、キニシナイ。
入り口前でボーッと立っていても仕方がないので、とりあえず中に入る。
受付で先日アポを取った捜査課の伊達さんに用事があることを伝えると、内戦で連絡をして、
しばらくするとやたらと彫りの深い渋さと苦みが絶妙に混じった顔立ちのスーツ服を着たオジサンが、
「やぁ初めまして、私は〇×県警捜査一課の伊達 梁伊(だて はりい)です。小野麗尾 守さんのご高名はかねがねお聞きしております。本日は我々の仕事の手助けをして頂けるとお聞きしておりますが、そちらの方が、その……?」
「ふっふっふっふっふ……そう、そうよ!迷宮入り?完全犯罪?どんな事件も黄泉っ☆と解決!?冥探偵淡姫ちゃんとはこの私の事よ!!」
「ふむ……恐縮ですが、我々の仕事はドラマとは違って現実に起きた事件をですね……」
「あ~その……こんな感じの子ですが、実力は確かですので……」
多分。きっと、メイビィ……
初対面の人に随分とやらかしてくれた淡姫ちゃんだが、実際彼女の能力・権能を使えばどんな事件も解決できるだろう。
その為にも俺が上手く立ち回り、その実力を発揮できる環境を整えなければ……
「早速ですが、こちらの淡姫ですが、何かお手伝いさせて頂ける仕事はございますか?現在進行形でも未解決でも対応は出来ますが」
「そうですな……それではウチの新入りが担当している案件を手伝って頂きましょうか。まずは採用試験ということで」
「いいじゃない。で、どんな事件?連続殺人?怪盗からの予告状?」
「淡姫ちゃん、淡姫ちゃん。そんな物騒な事件があったら新人対応じゃなくて対策室が作られるレベルだから」
伊達さんに呼ばれてやってきたのはこれまたスーツ姿のヒョロイので、
「あ、この人達が伊達さんの言ってた協力者の人たちですか?自分、木矢別 曲津(きやべつ まがつ)です。よぉろしくお願いしま~す!」
軽っ!?軽いな、おい……
「どうも初めまして。小野麗尾 守と申します。こちらは平坂 淡姫です」
「あれ?小野麗尾って…… それにしても淡姫さんは別嬪さんですねぇ」
「あ、アタシはもう旦那の予約済みなんで」
「そっすか。そりゃ残念…‥グヘッ」
さすがに目に余ったのか伊達さんの鉄拳が木矢別さんの脳天に叩き込まれる。
「木矢別! お客さんに鼻の下伸ばしてんじゃねえ!こないだの路上強盗未遂の件はどうなってやがる!?」
「聞き込みはしていますが、ありゃホシ上げるの無理っすよ。外国人っぽいって証言と現場付近に捨てられてた脅迫用のナイフ(鑑識済み:指紋無し)だけじゃどうにもなりませんって……」
「淡姫ちゃん」
コクン、と淡姫ちゃんがうなずいたのを確認し、
「木矢別さん、その証拠品のナイフ、こちらに持ってきていただけますか?」
「おk、ちょっと待ってて」
「おい、木矢別……」
伊達さんの呼び止めを無視して、木矢別さんは別室に向かい、程なくして戻ってきた。
「これが証拠品のナイフだけど、どうするの?」
淡姫ちゃんが前に出て、
「それを置いて下がって」
木矢別さんが机の上にナイフを置くと、淡姫ちゃんが手を翳し、
「目覚めなさい」
の一言と共に、掌が光ったと思うと、
”ふぁ~、おや、ここは何処だ?”
「ここはけんけーほんぶって所よ。アンタに色々聞きたい事があるんだけど、答えてくれる?」
”おや、何処のお偉い神様か。あなたがオイラを目覚めさせてくれたのかい、いいぜ、何でも答えてやるよ”
「ええ!?一体何が起こっているんだ!?」
「お静かに。彼女があのナイフを付喪神にしました。どれほどの事を知っているのかは不明ですが、話を聞いてみましょう」
「旦那?」
「木矢別さん、質問を」
「あ、ああ……え~と。名前。君の名前は?」
”あ?オイラはただの作業用ナイフだぜ?名前なんかあるわきゃねーだろ”
「そ、それじゃ、君の最後の持ち主について話してくれるかな?」
”おう、と言ってもな……オイラを最後に手に取ったのは誰だかオイラも知らねーぜ。
オイラの使われていた作業所からオイラを誘拐したヤツだからな”
「じゃあその前「割り込んですまないが、最初から聞いていいかな?まず君は何処で生まれて、最初に誰に買われたのかな?」
”あ?オメェは誰”「あたしの旦那」”なんだってぇ!?……へっへっへ、こいつぁ失礼しやした。アッシはしがない町工場で大量生産されたチンケなナイフでさぁ。作られてから巡り巡って〇×工務店のオヤッサンに買われて以来10年間オヤッサンのシノギの片棒を担いできましたもんでさ。そんでもって10日は前の夕方頃に仕事終わりに机の引出しのいつものヤサに戻されたんですが、その日は直ぐにまた引出しが開けられたんでさぁ。オヤッサンが仕事を再開するたぁ珍しい事もあったもんだと思ってやしたら、アッシを手にしたのは……ああ!思い出した!!ありゃグエンだ!!!!!”
「グエン?」
”最近オヤッサンの工務店に弟子入りしたジッシューギノーセイとかゆー若ェ衆の一人でさ!あんにゃろ、大恩あるオヤッサンを裏切ってアッシと高飛車ぶったノギスやらオヤッサンの財布とか手当たり次第に袋詰めにしやがって持ち出しやがったんでさ!!!!!”
”アンチクショウのヤサに連れ込まれたアッシは抵抗虚しくヤツの手に握られて外に持ち出されて……アンニャロウ!?よりにもよって赤子にアッシを突きつけやがって「カネカネキンコ」などとほざきやがって!?”
「どうどうどう……怒りは想像できるが落ち着け。それで、君が元居た工務店の場所と、そのグエンやらいう畜生のヤサは分かるのかな?」
”おうともよ!!!”
「だ、そうです」
「お、おう……」
「やりましたね、伊達さん!早速逮捕状を「まずは証拠を固められては?
大変遺憾ながら付喪神の証言が法廷で採用された例はまだ”やいやいやい!?オレッチが嘘ついてるとでも言いやがるのか!?”」
”俺は”そう思わないけどね?
「木矢別、裏取り行ってこい」
「はい、それで場所は”錆例多駅に連れて行きやがれ!そこから案内してやらぁ!”
錆例多駅か、遠いなぁ……」
心持ちがっかりしながら退室する木矢別さん。
「で、これで良かったの?旦那?」
首を傾げて俺を見てくる淡姫ちゃんにグッジョブして、伊達さんに
「手始めとしてはこんな所かと。いかがでしょうか?」
「うむ、まぁ役に立たないってわけじゃあ……」
「次」
「え?」
「次」
「ん?」
「つ~ぎ!!アタシの力はこんなもんじゃないし、まだまだ全然余裕で行けるわよ!!!」
政治家汚職事件の被害者の魂を呼び出したり、未解決事件の解明に閻魔様の玻璃の鏡の使用や閻魔裁判記録の参照、逃亡した容疑者の追跡に地獄の獄卒の大動員等々、日を追う毎に分厚くなる冥探偵淡姫ちゃんの事件簿の最初の事件はこうして幕を閉じた。
「ウチの工具が最近うるさくて敵わないんだが」”まったく最近の新人共はよぅ”
と言った苦情処理(?)もあったがそれはまた別の話……