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鉄の扉が重く閉じる音が響いた瞬間、理沙は静かに息を吐いた。
外へ出た六人の声はもう届かない。校舎の中に残されたのは、自分ひとり――のはずだった。
だが、廊下の奥からコツ、コツと靴音が響いてきた。
「……やっぱり、ひとりきりにはしてくれないのね」
理沙は独り言のように呟き、懐中電灯を構える。
月明かりの差す廊下に、黒い影が揺れた。
それは人の形をしていたが、輪郭がぼやけ、目の位置だけが白く光っている。
――ジジジッ。
壁のスピーカーが鳴った。
『……ようこそ、影の住人へ。
犠牲を選んだ時点で、君は“こちら側”だ。
だが、まだ終わりではない。君の役目は、次の“挑戦者”を迎えること』
理沙は眉をひそめた。
「……私が、このゲームの管理人になるっていうの?」
『拒むことはできない。だが、抗うことはできる』
意味深な言葉とともに放送は途切れた。
影の人影は理沙に近づいてくる。
手には古びたノートを持っていた。表紙には「観察記録」と書かれている。
「観察……記録?」
理沙が受け取ると、ページにはびっしりと文字が並んでいた。
過去にこの学校へ足を踏み入れ、脱出できなかった無数の“挑戦者”たちの名前と、消えた理由。
その最後の行に、七人の名前が記されていた。
小柳菜乃花。谷本穂乃果。浜野里奈。浜野香里。原口理沙。深沢真綾。細谷瑞希。
――そして理沙の名前の横には、赤い文字で「犠牲」と書かれている。
理沙はページを睨みつけ、ノートを勢いよく閉じた。
「……いいわ。あなたたちが“影の住人”と呼ぶのなら、私は“反逆者”になる」
黒い影は歪んだ笑みを浮かべると、闇に溶けていった。
校舎の時計は午前五時を指していた。
外の世界では仲間たちが夜明けを迎え、涙を流しているだろう。
理沙は胸の奥で静かに誓った。
――必ず、ここを破って帰る。
――次に来る挑戦者が現れる前に、この呪われた“夜の学校”を終わらせる。
その決意が、暗い校舎に小さな灯火をともした。