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114 - 第114話 七の罪状 ~後編② 裏に棲まう者の戒め

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2025年06月15日

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※同時刻――如月家自宅内にて。



エルドアーク地下宮殿での出来事後、幸人と悠莉は自宅にて待機――というより、自宅で“最後かも知れない”夜を過ごしていた。



今夜は二人のみ――という訳ではない。もう一人、悠莉たっての希望で今夜は、琉月も此所で夜を過ごす事となった。



願ってもない琉月は元より、幸人もそれに反対する気は無かった。



エルドアーク地下宮殿にて、創主ノクティスより明かされた真実。



『悠莉は狂座の正統後継者』



これには引っ掛かるものがあり、その真意も分からない。



「何でボクなんかが他の皆を差し置いて、狂座の後継者なのかなぁ……」



そして何より、悠莉自身がその事を一番気にしている。食後も最中でも気が晴れる事が無い。



「…………」



琉月はそんな彼女を心配し、傍に居る事を選んだ。



ソファーに腰掛ける悠莉の隣へ、そっと腰掛けながら琉月は思う。



――そう。あれは初めて悠莉と出会った時の事を。



あれは四年前、管理部門統括の霸屡より紹介された、まだ当時九才余りの幼い少女を、琉月は任される事となった。



いずれ狂座にとって重要な、SS級以上のエリミネーターの可能性を秘めた逸材、とまでしか聞かされていない。



この少女のそれ以前の経歴も、何もかもが不明であり、またそれを追求するつもりは無かった。



“狂座の者は誰しも、過去を決別して此処に居る”



打ち解け合うのは早かった。悠莉はすぐに琉月を本当の姉以上に慕い、また琉月も悠莉の存在を、まるで本当の妹が出来たように思えたものだった。



――琉月は思いながら首を振る。何を怪訝に思う必要があろうか。



目の前の少女が何者だろうと、自分の大切な存在である事に変わりは無い。



「何も心配無いのよ悠莉」



琉月は今一度、悠莉を離さまいと抱き締める。



「貴女は貴女。誰にも好きにはさせないから。例え相手が何者であろうとも……」



「ルヅキ……」



それは決意だった。エンペラーだろうと、創主のノクティスだろうと、彼等の思惑がどうであろうとも、悠莉を思い通りにはさせない。エンペラーは勿論、場合によっては創主まとめて敵対する事もいとわない。



「そういう事。お嬢は俺達の家族だ。あんな得体の知れない連中のとこに、行く必要はねぇ――って行かせねえし」



ジュウベエが膝上に乗って来た。彼も琉月と同意見だ。



「でも……もしボクのせいで、皆に迷惑が掛かったら」



気持ちは嬉しいが、悠莉はますます済まなそうな表情へ。



「……何時お前が迷惑を掛けるんだ? 心配するな。お前は俺達が必ず守る。お前は何時も通り、振る舞っていればいい。というより、お前は何時も通りじゃないとこちらも調子が狂うよ」



幸人もだ。今更何を言ってるんだとばかりに、悠莉の頭に軽く手を置いていた。



「う、うん……」



悠莉は思わず、涙が溢れそうになるのを堪える。



――そうだった。自分はこんなにも守られ、愛されているのを、改めて身に沁みていた。



「そうだね~。うん、ホント幸人お兄ちゃんとルヅキが結婚したらいいのに~。そして皆で一緒に暮らすの」



突然の爆弾発言に、思わず幸人はぎょっとなった。調子が戻ったと思ったらこれだ。



「それは良い考えね。でも私では、彼には勿体無いかと」



琉月は軽く、その提案を流す。



「そうかな~? でも幸人お兄ちゃんには、亜美お姉ちゃんもいるしボクもいるし、ホント日本も一夫多妻制なら良かったのに~」



「幸人には勿体ねぇよ、お嬢」



呆れる幸人を他所に、室内では笑い声が上がった。



ーー団欒に花も咲き、夜も更けてきた。そろそろ休んで、明日に備えねばならない。



当然の事だが、悠莉と琉月は一緒に寝るそうだ。



「――ところで幸人さん。今回の闘い、勝算はおありですか?」



寝床を準備の最中、ふと琉月が訊ねてきた。



本当に一番答え辛い質問だ。



はっきり言ってしまえば、勝算は芳しくない処か、極めて薄いと云っていいだろう。



だが初めから、負けを前提で闘う者は居ない。



しかしこのままでは勝てない事も、身を以て知っている。



「…………」



幸人は無言でクローゼットへ向かい、戸を開けて何かを取り出した。それが答えであるかのように。



「幸人!? お前それっ――」



ジュウベエは眼を見張った。彼も久々に目にしたから。



「福岡一文字則宗……か。久々だな」



「えっ――それって……刀?」



逆に悠莉は初めて目にするのか、というより何時も目にするクローゼットに、そんな物が隠されていた事に驚きを隠せない。



幸人が手にしていたのは、見事な拵えの――黒鞘の日本刀だった。端からでも相当な業物である事は、一見しただけで分かる。



「幸人さん……」



“遂に……刀を抜きますか”



琉月はその姿に、彼の資料を思い返していた。幸人の――雫の本領を。



雫は現在でこそ依頼執行及び戦闘に於いて、特異能と徒手空拳の複合戦術が主だが、彼本来の本質は、実は剣術に有る。



かつてエンペラーに師事していたように、特異能と剣術の高度な複合が雫最大の武器であり、最強の戦術なのだ。



その腕は狂座の歴史に於いても特筆に値し、その剣を前に生き残った者は――皆無。



“やはりこの闘い、鍵となるのは……”



琉月は、刀を手にした雫の姿を見て思う。



約四年余りもの間、彼が一度刀を納めた事を知っている。雫が刀を置いたのは、エンペラーとの決別の意味もあったのだ。



それを再び解禁するという事はーーだ。



琉月は資料のみからではなく、自分の目から見ても雫が、紛れもない天才である事を確信している。



これまで携わってきた彼の依頼に於ける確実性、正確性。その才は他の誰よりも頭抜けていた。だからこそエンペラーは、自ら雫を指南したと云われる程に。



“その天性有るがゆえに、彼はエンペラーをも上回る可能性が有る――”



「…………」



思う琉月を他所に幸人は、手にした刀を鞘よりゆっくりと抜いていく。



その刀身には錆一つ、曇り一つ無い。一度剣を置いた身とはいえ、手入れを欠かす事は無かったのだろう。



「綺麗……」



「幻の名刀――“菊一文字”……ですか」



それにしても美しい刀身だった。悠莉と琉月は刀身が放つその吸い込まれそうな程の造形美に、思わず目を見張る。



その刀身は直刃に小丁子、小乱れまじりの刃文は正に極上業物の逸品。



“福岡一文字則宗”



鎌倉時代、備前の最も名高い刀工で朝廷の為に作刀し、銘に一の字を刻んである所から『菊一文字』と呼ばれ、一説によると、かの新選組一番隊組長沖田総司が、自身の愛刀――『加賀清光』の後に所持していたとされ、現在では国宝以上の幻の名刀と云われている。



「俺達の力は本来、この世に在ってはならない……」



刀身を見詰めながら、幸人は独り言のように呟く。



「それこそ大量殺戮兵器と何ら変わらない。だからこそ、俺達は裏に徹せねばならない」



それは裏に棲まう者の戒めだった。



「ええ……。私達は人知れず世の不条理に干渉し、人知れず闇へと葬り去る者」



琉月も再度、自分に言い聞かせるように反芻する。



「それを表へ向ければ、それは只の危険な物でしかなくなる。奴等はそれを簡単に踏み外した……」



幸人は刀身を鞘に納めながら決意する。



「だからこそ、俺達の手で止めねばならない。誰であろうと」



かつての同僚、師弟同士で殺し合う。かつて親友とそうしたように、今回もその業に身を委ねねばならない。



迷いが無いといえば嘘になる。だが迷っている刻は赦されていない。



「幸人お兄ちゃん……うん、そうだね。ボクも頑張る! でもでも、絶対皆生きて帰るんだからね!」



「いやいや、お嬢は闘わなくていいから……」



「ええ~、でもぉ……」



悠莉もすっかり闘うつもりだ。慌ててジュウベエが説得に入る。元より彼女は最初から、今回の闘いの頭数には誰も入れていない。



「悠莉の護衛は私にお任せを。今回は……私も闘います。悠莉には指一本、触れさせません」



「頼む」



渋る悠莉を他所に、琉月と幸人の間で交わされる盟約。



――そして各々の想いを胸に、夜も更けていった。

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