コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
旅の出発まで残り五日……。昨日は三人とも丸一日寝てしまったため、仲間集めは順調ではない。
このままでは出発までに仲間が集まらないので、俺はみんなと相談することにした。
「なあ、みんな。ちょっといいか?」
俺がそう言うと歯みがきを一時中断した三人がこちらを見ながら、それぞれ応答した。
「なあに? ナオト?」
「な、なんですか?」
「なあに? ナオトお兄ちゃん」
この三人は異世界からやってきた、いわば救世主だ。
最初に応答したのがミノリ。黒髪ツインテールや人より尖っている犬歯などが特徴的な吸血鬼である。ちなみに俺の未来の結婚相手らしい。
次に、応答したのがマナミ。きれいな茶髪と茶色の猫耳が特徴だ。なんとなくお姉さんっぽいオーラが出ているのだが、なぜかいつも緊張している。
最後に応答したのがシオリ。いつもマナミの後ろにいて、こちらをじーっと見つめるジト目(?)に、俺はつい見とれてしまう。
こちらはマナミと違って髪の色は白であり、長さは腰まである。真っ白な猫耳はつい触ってしまいたくなるようなオーラを常時、醸し出している。
俺を『ナオトお兄ちゃん』と呼ぶのは、シオリから見ると俺が兄に当たる存在だからだそうだ。
あまり表情が変わらないので何を考えているのか分からない面もある。
ちなみに二人には、シッポはない。残念……。
そして彼女ら二人は白いワンピース以外の服を着ようとしない。たまには、別の服を着てほしいのだが俺にその決定権はないので二人に任せている。
とまあ、こんな感じの子たちを俺が面倒を見ている。
だが、彼女らを見る度に疑問が増えていくのは、なぜだろうか?
おっと、いかん、いかん。今は目の前のことに集中しよう。
「ちょっと仲間集めについて質問があってな。俺からいくつか質問してもいいか?」
その直後、彼女らの体内にある真面目モードスイッチがオンになった。
彼女らの表情がキリッとしたのを肉眼で確認した俺は彼女らにいくつか質問をすることにした。
「じゃあ、行くぞ。この近くに、お前ら以外のモンスターチルドレンはいるか?」
「ここは、あたしの出番ね!」
なぜかミノリがいつも以上に張り切っている。やる気があるのはいいことだが、張り切りすぎるのも良くない。
「うーん、今、一番近くにいるのは……あんたとあたしの思い出の公園付近よ。だから、もうすぐここに来ると思うわ」
「思い出の公園? あー、俺が一年間、お前が入ったダンボール箱を木陰に……」
「それ以上言ったら、首が飛ぶわよ」
「ご、ごめんなさい。以後、気をつけます」
「よろしい……」
「コホン……。えっと、じゃあ、そいつ以外に『はぐれモンスターチルドレン』がいないか調べてくれ」
すると、今まで目を閉じながら仲間の気配を探っていたミノリが例の透明の水晶をどこからともなく出現させた。
この水晶は俺たちの世界とミノリたちの世界の情報が分かるらしい。俺はこれを『パーフェクトクリスタル』と名付けた。
「うーんと、ここからだと少し遠いわね……。というか、完全に迷ってるわね」
「ん? それはどういうことだ?」
「そ、それは私に任せてください!」
ミノリが答える前にマナミが話に割って入った。今日のマナミは積極的だ。
「それじゃあ、マナミ。その子がどうして迷っているのか教えてくれるか?」
「そ、それはおそらく」
「おそらく?」
「……そ、その子が今いる場所はその子の持っている水晶の効果範囲外だからです」
「え? その水晶って、この世界に来る前にお前たち全員の体内に入れられるやつなんだろ? 使い方とか、仕組みは教わらないのか?」
俺は意外な答えに驚き、ついついそんなことを訊いてしまった。
しかし、俺はそのことに興味津々だった。
「えっと、た、確かに使い方は教わるんですけど、私たちの中にはよく使い方を理解せずに転移して来る子もいると聞いたことがあります」
ふむふむ、なるほど。じゃあ今迷ってるやつはろくに水晶の使い方を教えてもらえずに転移して来た子かもしれないということだな。
でも、知らない世界に来て、いきなり道に迷ったら、いったいどうするんだろう……。
というか、向こうの世界の教育係はなにをやってたんだよ! もっとちゃんと仕事しろよ! 俺は心の中でそんな文句を言った。
その直後、誰かに服の袖を引っ張られた。引っ張られた方を向くとシオリがこちらを見上げていた。
「………………」
「な、なんだ? シオリ。何か言いたいことでもあるのか?」
「ナオ兄、一緒に助けに行こうよ」
「あー、そうだな……って、お前今、俺のこと、ナオ兄って言ったよな? どうして呼び方を変えたんだ?」
「ナオトお兄ちゃんって言うのが、面倒になったからだよ。……ダメ?」
そ、そんな……俺より長い名前のやつはいくらでもいるというのに……。けど、今はそんなことよりも話を続ける方が優先すべきことだ。
「いや、呼び方はシオリの好きにしてくれ。あー、でも奴隷とか下僕とかは、なしだぞ……って、おい、ミノリ。そこは残念な顔をするところじゃないぞ。というか、マナミはなんで、もじもじしてるんだ? はぁ、二人とも俺は今、シオリと話してるんだから、あまり邪魔をしないでくれよ。頼むから……」
俺がそう言うと、二人は少し残念そうに昼食の準備をしに行った。
え? 昼にはまだ早いだって? それは三人曰く椅子に乗りながら料理をするのは少々時間がかかるからだそうだ。
「えーっと、助けに行くって、どういうことだ?」
「うん、その迷ってる子のところに行って、ここまで道案内するの。あと、できればみんなで行きたい」
「うーん、残念だけど、全員では行けないな」
「どうして? 私たちのこと嫌いなの?」
「いや、嫌いじゃないぞ! 嫌いじゃないんだけど……」
「だけど?」
「その……帰りに何か買わされそうで……」
「それなら大丈夫だよ」
「大した自信だな。何か根拠でもあるのか?」
「それは……今日のお昼ごはんがハンバーグだからです!」
シオリはエッヘン! と言わんばかりにあるのかないのか分からないほど薄い胸を張った。
昼からハンバーグって三人ともすごいな。俺だったら、適当にラーメンでも作るのに……。
「なるほど。昼がハンバーグだから、その必要はないってことか。けど、俺はそれを信じていいのか?」
「魔王に誓おう!」
「いや、あまりそういうのに誓わない方がいいぞ。できれば、どっかの適当な神様にしとけ」
「うん、わかった」
「それで、いつ助けに行きたいんだ?」
「できれば、今から行きたい」
「…………」
「やっぱり、ダメ?」
「ダメ、ではない」
「じゃあ、どうして?」
「それはな、もうすぐここにその子とは違う子が来るからだ」
「どういうこと?」
「俺がマナミとシオリをうちに入れた時みたいに色々やらないといけないからだ」
「……?」
「まあ、分かりやすく言うと『おもてなし』かな」
「おもてなし?」
「そう、おもてなし。それがないと、せっかく仲間になるやつが、かわいそうだろ?」
「たしかに、ナオ兄があの時いなかったら、少し寂しかったかもしれない」
「だろ? だからまず、先に来るほうを歓迎しような」
「うん! 分かった! ナオ兄は優しいね」
「えー? そうかなー?」
「……ねえ、二人もそう思うよね?」
「え?」
俺が振り向くとミノリとマナミがこっそり俺たちの会話を聞いていた。
「二人ともこちらに来たまえ」
俺はム○カ大佐のように言った。
「い、いや、別に気になったからとかじゃないわよ? ホントに」
「そ、そそそ、そうですよ! 私たちは別に……」
まったく、素直じゃないな。気になったのなら、そう言えばいいのに……。
うーん、まあ、いいかと心の中で呟くと、俺は二人にこう言った。
「ミノリ、マナミ。その……構ってやれなくて、すまなかったな。俺はもうすぐやってくる方の子の名前を考えなきゃいけないから、それが済んでからでいいか?」
「もちろんいいわよ! ねえ? マナミー」
「そ、そうだね。そうだよね。今は新しく加わる仲間を歓迎する方が先だよね!」
「うん、私もそう思う」
「よし! それじゃあ、その子がやってくる前に色々と準備をしておいてくれ」
『はーい!』
三人はそう言うとパタパタと足音を立てながら準備を始めた。三人だと手際がいいように思えた。
そういえば、水晶の効果範囲ってどこまでなんだろう。まあ、あとで訊《き》けばいいか。
それから、数分後。俺は三人の準備が完了したことを確認してから、玄関の扉を開けた。
さて、今回はいったいどんな子が来るのかな。いやあ、楽しみだなー。
俺はこの時、とても期待していたが、このあと、扉を開けたことを後悔することになる……。