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#恋愛
#長編
「朝、好きな人が起こしに来る……。最高すぎるシチュエーションで抱きつくなと?」
「明日から起こしに来なくても大丈夫そうですね」
「全然大丈夫じゃない……」
「今までどうやって起きていたのです?」
「シズクと出会って忘れてしまいました」
嬉しそうに笑うので、言い返すことができなかった。私に抱きつくのを毎日の楽しみだと良い、慈しむ眼差しで私を見ている。そう言われてしまったら、言葉に詰まってしまう。
(……添い寝だけなら解禁しても、良いかな?)
「シズク?」
顔を覗き込んでくるルティの顔はとても綺麗で、不意を突いては私の頬にキスをする。
「~~~き、今日は薬草を採りに行くのでしょう。早くご飯を食べてしまいましょう」
「うん。今日の朝食はなんですか?」
「白パンと、昨日のシチュー、野菜のテリーヌに、ふわふわオムレツです」
「どれも美味しそうです。シズクが料理を作ってくれてから、毛並みを良くなったのですよ」
「ルティのご飯だって美味しいわよ」
そう言うと尻尾を揺らした。今日もお互いの食事を分け与えて食べ合いをする。天竜狐族は食事を一緒に取ること、食べ合いを何よりも好む。そのため食事も一口で食べやすいように作って工夫している。
ルティがしている仕事の手伝いは楽しい。薬作りとは別で紅茶のブレンド作りが結構面白くて作ってはルティに振る舞うと、とても喜んでくれた。
ニコレッタさんにも渡してみたら高評価だったので、もしかしたら商品化も望めるかもしれない。私にとって収入源を得るのは純粋に嬉しい。
「お金で困っているなら、私がお小遣いを──」とルティが言い出すも、「人族は自分で働いてお金を得ることで、大切な人に贈物をするのが愛情の一つなのですよ」と返答したら、凄く照れていた。
他種族でも、どう思っているのか。だからどうしたいのか。一つ一つ、小さなことでも会話をして自分の気持ちを伝えることで、人族の感覚が他種族には理解できない、あるいは疑問な部分もなんとなく分かってきた。
(ブリジットだった時、こんな風に年を重ねて、会話をしていたら……違った結末だったし、祖国が滅ぶことも──)
ふとそこであることを思い出す。祖国を天竜狐族が滅ぼしたと思っていたが、実際は違うらしい。つい百年前までは国として存在していたという。どこかのタイミングでルティに聞いてみようと思った。
***
森での薬草採取は結構楽しい。薬草の見分け方もルティが丁寧に教えてくれるし、季節によって咲き誇る花を眺めて、散策もできて楽しい。
森には魔物や獣が出ることもあるけれど、しっかりと武器や待避用転移魔導具を常備していれば大丈夫というか、ルティは思いのほか過保護だった。
「ルティ」
「どうかしましたか?」
「危険があるかもしれないのは分かっているのですが、毎回手を繋ぐ必要あります?」
「私がシズクと手を繋いでいると、心から安心するから」
「……まさか自分の心の安定だったとは」
「だってちょっとでも目を離したら、いなくなってしまうかもしれないではないですか。あるいはこんなに可愛いのだから、連れ去れてしまうかもしれないでしょう?」
でた。異種族あるある。
なんでも鳥種族などは托卵至上主義とする郭公一族が居るらしく、雌なら卵を他種族の巣に置いていき、雄は他種族の番を孕ませるという。あと強奪婚というのもあり、《片翼》を奪うことで自らの強さをアピールするとか。
(なんて命知らずな)
「フフフッ、もしそんなのがでたら秒で一族もろとも消し炭にします」
「(冗談……あ、目がマジだわ)う、うん。襲われるのは嫌だわ」
過保護かと思ったけれど、思った以上に闇が深い種族が多いと思い知る。ルティが溺愛デレデレ甘えるの大好き、超寂しがり屋な種族でよかった。
「シズク?」
「ううん。ルティが溺愛するまともな種族で良かったって思ったの」
「伴侶命なので、耽溺するほどの愛情を注ぐ自信ならあります」
重苦しい愛情。
それを窮屈に感じる人もいるかもしれないけれど、ブリジットの過去を思い返し、分かりやすいぐらい愛情を注いで大切にしてくれる人のほうが良い。
少なくとも今のルティは、私に優しくて大切にしてくれる。過去がどうであれ、今の彼は嫌いじゃない。
薬草採取が終わって移動する時は、手を繋ぐ。最初は普通に手を繋いでいたが、恋人繋ぎというのを私が話したら「やってみたい」と希望してきた。手の密着度が違うと大変お気に召したようで、今日もご機嫌だ。
「今日はこの後、家に戻る感じですか?」
「ミヅハ通りにできたジェラート屋か、温泉地区の足湯に寄ってもいいかもですね」
「ジェラート!」
この世界で甘い物は高価だ。女子高生が気軽に買えるような値段ではない。だからルティの提案に目を輝かせたのだが、さらなる爆弾を投下した。
「可愛い。そんなに喜んでくれるのなら、毎日甘い物を用意しておけば良かったですね」
「甘い物……毎日? 毎日……ですって!?」
「ええ。その代わり私と一緒に食べるのが条件ですよ。それに外出も。私か、少なくともニコレッタが付き添っている場合ですよ。前にも言いましたが、元の世界と違って女の子が一人で歩いていたら速攻で誘拐されますからね。特にシズクは可愛いのですから」
「(異世界の治安性。日本って本当に平和で素晴らしい国だったのね。衣食住の水準が高いし……一人歩きだって普通だもの)……もちろんです。お出かけの時はルティと一緒です」
「うん」
ルティはとてもご機嫌で、ジェラート屋で好きな物を選ばせてくれた。やっぱり金額を見ると高い。元の世界でアイスは高くても四百円ぐらいだったが、この世界でアイスは超高級品で一週間分のパン代って、庶民にとったら高価だ。いつも美味しそうだと思いながらも、遠慮していた。でも今は少しだけルティの言葉に甘えられた。
天竜狐族は《片翼》が甘えてくることが、求愛行動の一つだと認識しているらしい。私なんかは滅多にお願いをしないので、少し寂しいと言われたのだ。
(少し前なら復讐するため、あるいはルティを傷つけるために無理難題を言ってやろうと考えていたのに……)
「私のもシズクが選んで、二人でわけっこしますか?」
「はい」
「ははっ──冗談、え」
「え」