テヒョンside
それからジミナのお尻は、幸い合う塗り薬が見つかって、だんだんと良くなっていった。
座って食事ができる!車椅子にも乗れる!とジミナは嬉しそうで、精神的にも少し安定した気がして、僕は正直ホッとしていた。
ここ最近ずっと病室から出ることもなく、痛い治療もいっぱい耐えて頑張っていたジミナを喜ばせたくて、僕はジン先生に外出許可をもらった。
「ジミナ〜外出、いいって!どこか行きたいとこないの?どこでも連れて行ってあげるよ〜。」
「うーん…あのね……。無理だったら…いいんだけど…。」
「ん、なにー?言ってみ?」
「僕さ、遊園地って一度も行ったことないでしょう…?でも無理だよね…?車椅子だし、心臓に負担かかることは、出来ないもんね…?」
「そんなことないよ!ジミナ少しなら歩けるでしょ?車椅子で行って、乗り物乗る時だけ降りたら大丈夫だよ。」
「そ、そうかな?遊園地…行ってみたいな…。」
ジミナには大丈夫だと言ったけれど、本当のところ、遊園地は少し心配だった。乗れないものや出来ないことが多くて、かえってジミナを悲しませてしまうのではないかと思ったから…。
でも、一度も遊園地に行ったことがないジミナが不憫だったし、今まで我慢ばかりしてきたジミナが行きたいと言った場所だから、どうやってでも連れて行ってあげたいと思った。
僕は病院から電車で40分ぐらいで行けるテーマパークを見つけ、車椅子での道順や、ジミナでも乗れる乗り物などを必死に下調べした。
パンフレットも取り寄せて、ジミナの病室に持って行く。
「ほら見て。今度行く遊園地だよ〜。ジミナどれに乗りたい?見ておいてね。」
「ジェットコースターは…ダメだよね…?」
「うんそれはちょっと〜やめとこっか。俺も怖いの苦手だし…(汗)」
次の日病室に行くと、パンフレットにいっぱい印が付けてあった。
「見て見て〜観覧車って、高さが100mもあるんだって。すごくない?どんな景色かなぁ。」
「そうなんだ…高層マンションぐらい?ジミナ高いとこ平気だっけ?」
「うん、多分…。」
パンフレットは読み込まれて日に日にボロボロになって、ジミナが外出をどんなに楽しみにしているかが分かった。
いよいよ外出の当日。僕は、ジミナの私服やカバンやスニーカーを持って、朝病室に迎えに行った。
ジン先生が病室に来て、診察をしてくれる。
「ジミナ、ちょっと服めくるよー。心臓の音聴かせてね。…うん、調子良さそうじゃん。点滴の置き針も抜いておくね。ちょうど今日交換になるように調整しておいたんだよー。」
「ジン先生ありがとう!」
「遊園地行くんだって?初めてなんでしょ?楽しんで来いよー!」
ジミナはとっても嬉しそうでニコニコしてる。
ジン先生が出て行くと、僕は着替えを取り出した。
「ほらジミナ、洋服持って来たから着替えようね。俺が選んじゃったけど、これで良かったかなぁ。」
「うん、いいよ。ありがとう!」
「はい、バッグはこれね。」
ショルダーバッグをジミナに渡す。
「え、これは…?」
ショルダーバッグに付いている赤い十字マークのタグを見て、ジミナが言った。
「あ、これはね。ヘルプマークっていうんだよ。見た目では分からない、内部障害のある人が付けるマーク。」
「……え?なんで…?」
ジミナの顔がさっと曇って悲しそうな表情になる。
「え?だめだった…?これ付けてたら、援助や配慮が必要って周りの人に分かって貰えるから…。」
「こ、こんなの…障害者ってレッテル貼られてるみたいで…恥ずかしいよ〜…(泣)」
「ジミナ〜なんでそんなこと言うのー?何にも恥ずかしいことなんかないでしょ!?ジミナ今日電車も乗るし、遊園地に着いたら車椅子から降りることもあるんだから。これ付けてた方が安心だと思って、駅で貰ってきたんだよ?…ね、心配だから付けてね…お願い。」
ジミナは納得してない様子だったけど諦めたみたいで、ヘルプマークが付いたショルダーバッグを黙って肩にかけ、俯きながら車椅子に乗った。
かわいそうなこと、しちゃったかなぁ…。ジミナの悲しそうな顔を見て僕の胸は痛んだ。でも僕は、久しぶりに外出するジミナのことが心配で心配で、たまらなかったんだ…。
最寄り駅から電車に40分乗って、やっと遊園地に着いた。フリーパスのチケットを買って、中に入る。
「ジミナ、疲れてない?大丈夫?」
「う…ん。だ、大丈夫だよ…。」
大丈夫と言いながら、ジミナは右手でお腹をおさえていた。
「…ね、本当は、体調悪いんじゃない?帰りたくなくて、隠してる…?」
「う……ちが…。」
「だめだよ?大事な身体なんだから。ちゃんと正直に言って!」
「ご、ごめ…怒らないで…。ちょっとだけ…お腹痛いだけだから…。」
「え、大丈夫?ねぇ、病院戻ろ…?無理はダメだよ。」
「ぐすん……やだ!!ぜったいぜったい、帰らないもん…(泣)」
ジミナは下を向いて、泣き出してしまった。僕は慌ててしゃがみ、ジミナの顔を覗き込んで手を握った。
「ねぇジミナ…また体調戻ったら、来ればいいじゃん。いつでも外出許可取ってあげるから…。」
「ヒック…そんなん言って、次いつ来れるかなんて、わかんないでしょ?病院の外に出るのだって2ヶ月ぶりだったんだよ…?もう待てない…もう我慢するのもやだ…限界だよぉ(泣)」
どうしよう…。僕は迷ったけど、ジミナが帰りたくない気持ちも良く分かった。ジミナがカレンダーに印を付けて、毎日日にちを数えて、どんなに外出を楽しみにしていたか…。
まだ着いたばかりで乗り物の1つも乗っていないのに、これで病院に帰るのは、さすがに可哀想すぎる…。
僕は、ジミナのお薬ポーチを急いで開けて中を探した。毎日飲む薬だけでも沢山の量で中身はパンパンだ。その奥の方から、座薬を1つ見つけて、取り出す。
「ジミナ…痛み止めの座薬、あったよ。」
「え…座薬…?」
「どうする…?座薬、使う?」
「いやー…(泣)」
「でも、このままじゃ、楽しめないでしょ…?病院…帰る?」
「座薬…どこで、挿れるの?」
「トイレでできるよ。俺がやったげるから…。」
「う…ん。わかった…。」
僕たちは、車椅子で入れる多目的トイレを見つけて一緒に中に入った。
座薬の包みを開けて、用意をする。
「なんかクリーム必要だなぁ。あったっけ?」
「ハンドクリームなら、ポーチに入ってるかも…。」
「それだ!あったあった。」
「ベッドがあったら良かったんだけど、このトイレには付いてないね…。仕方ないな…立って座薬挿れよう。ジミナ、車椅子から、立てる?」
「う、うん…。」
「ごめんねぇ。ズボン下げるよ。」
僕はジミナのズボンと下着を膝まで下ろした。ジミナの白くて小さなお尻が露わになる。
「ジミナさ、中腰の体勢って、できる?」
「中腰…?」
「えっと、しゃがむのと立つのの、間ぐらい…。」
ジミナはお尻を少し突き出して中腰の姿勢をしてくれた。足とお尻がプルプルと小刻みに震えてる。体勢辛いかな。早く終わらせてあげなくちゃ…。
「クリーム塗るよ。ちょっと気持ち悪いかもだけど、我慢して。」
僕は人差し指にクリームを付けると、指でジミナの肛門を探り、そーっとあてた。そのまま指先を少しだけ中に入れて、クリームを塗りつける。
一度指を抜いて今度は座薬にもクリームを塗りつけた。
「よし、準備できた。ごめんね〜座薬挿れるよー。力抜いてね。痛くしないからね。」
左手でジミナの細い腰を支え、右手の人差し指で座薬をゆっくりと奥まで挿入する。
「う……」
「大丈夫だよ。ジミナ落ち着いて息して。」
「フー、フー…」
「そうそう、上手上手。入ったから、少しだけこのまま、我慢してね。」
僕は座薬が出てこないように指でおさえたまま、ジミナに声を掛けた。ジミナは頑張って、同じ体勢を維持してくれていた。
「うん、もう出てこないかな。指、ゆっくり抜くねー。はい終わり!ジミナ頑張ったね。痛くなかった?」
「うん…大丈夫…。」
「よし。俺、手洗うからさ。ジミナ、ズボン履いて、車椅子座ってな?」
多目的トイレから出ると、近くのベンチの横に車椅子を停めた。
無事に座薬を挿れられてホッとしたけれど、ジミナは車椅子に座って俯いて、ちょっと泣きそうだった。まだお腹も痛いのだろう。右手でお腹を押さえて顔をしかめて、苦しそうに息をしている。
「大丈夫?座薬が効くまで、ここで休んでようね。」
「ぐすん…なんで今日に限って、お腹痛くなっちゃうんだろう(泣)。最近、調子良かったのにな…。」
僕はジミナの車椅子の前にしゃがみ、もうあと少しでこぼれ落ちそうな涙が目の下に溜まっているのを、両手の親指で拭う。
「ほら泣かないの。きっと、すぐお薬効くよ?」
せっかくの外出だったのに、トイレで座薬なんて、嫌だったよね…今日は病気のこと忘れて楽しませてあげたかったのに。
僕は自分の手をこすって温めてからジミナの服の中に手を入れて、華奢なお腹にそっと触れた。
「ちょっとさわるよ。痛いの、ここ…?」
「うん…。いったーい…(泣)」
「薬が効くまでさすっててあげるね」
「テヒョンの手、あったかい…ぐすん…ありがとう…。」
「可哀想にねぇ…早くよくなれよくなれ…。」
僕は、しゃがんでジミナのお腹をさすりながら、ゆっくりと話しかけた。
「ジミナ〜さっきのことはもう、忘れようよ。今日は楽しむ為に来たんでしょう?まだ時間はたっぷりあるから、痛みがひいたら気分変えてさ…乗りたいの、いっぱいあるんだよね…?パンフレットに印つけてたもんね〜?」
その時、目の前を、同じぐらいの年頃の子たちが通り過ぎた。
ジミナが、その子たちを目で追っているのが分かった。男女混合のグループで、みんなでお揃いの、このテーマパークのカチューシャを付けてる。車椅子の僕たちになんか目もくれず、ワイワイ騒ぎながら歩いていてすごく楽しそう。
僕はジミナの気持ちが手に取るように分かった。病気とか車椅子とか何にも気にせず無邪気に楽しむその子たちが、僕だって羨ましかった。
ジミナがああいう友達同士のお出かけに憧れているのも知っていた。僕と2人じゃ、つまんなかったかな…。
30分ぐらい経つと薬が効いてきたみたいで、ジミナの顔が明るくなってきた。
「テヒョン、薬効いてきた。大丈夫みたい!もう痛くないよ。」
「良かった〜。よし、乗り物、乗りに行こ!!」
僕はジミナの車椅子を押して、歩き出した。
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