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医療刑務所の真っ白な天井を見上げながら、直樹は混濁する意識の中で
10年前の私を呼んでいた。
「詩織…今日の夕飯は……肉じゃががいいな……」
かつての彼にとって、私は「管理しやすい所有物」でしかなかった。
その傲慢な記憶だけが、今の彼の唯一の麻酔代わりになっている。
そんな彼を置き去りにして
私は父が遺してくれた土地で、新しいプロジェクト
「ルーツ・ガーデン」の構想を練っていた。
シングルマザーたちが子供と一緒に働き、学び、そして自立するための複合施設。
「……詩織さん、お久しぶりです。まさか、あなたが私を呼んでくださるとは」
私の前に現れたのは、かつて高木常務の側近として直樹と共に悪事に手を染めていた男、山崎だった。
高木が逮捕された際、直樹によってすべての泥を被せられ、業界を追われた男だ。
「山崎さん…あなたが直樹さんに嵌められ、裏帳簿の責任をすべて押し付けられたことは知っています」
山崎の顔が歪んだ。
「…あいつは、自分の保身のためなら、私のような部下さえも使い捨ての駒としてしか見ていなかった……私はすべてを失いました。家族も、地位も」
「だからこそ、山崎さんが必要なんです。……あなたは直樹の『汚い計算』のパターンを誰よりも知っている。そして、九条さんがまだ隠し持っている『休眠口座』の鍵を握っているのも、あなただけだわ」
私は、山崎に一枚の契約書を突きつけた。
「これは、あなたが失った『名誉』を取り戻すための、最初で最後の取引です。…あなたが九条さんの資金ルートを私のプロジェクトの資金源へと『還流』させる手伝いをするなら、私はあなたの再起を支援します」
山崎は、私の冷徹な瞳に射抜かれ、震える手でペンを取った。
「……詩織さん、あなたは…直樹が恐れていた通り、いや、それ以上に……恐ろしい女性になった」
「お褒めにあずかり光栄です。……私はただ、失われた10年という時間を、最高の利率で回収しようとしているだけですから」
山崎との契約を交わした後、私は夕暮れの空を見上げた。
九条が残した汚れた金も、直樹が捨てた人間も
私の帳簿の中では「再生のための資源」として再定義される。
直樹、あなたが医療刑務所で「優しかった私」を夢見ている間に
私は現実で、あなたの残した「地獄」のすべてを材料にして、天国を建てているわ。
あなたの存在価値は、もう私のプロジェクトの「肥やし」になることだけ。
【残り44日】
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