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高瀬くんのマンションでの生活は、あまりにも心地よすぎた。
けれど、元カレ・宏太の裁判準備が進み、私のマンションの防犯設備も最新のものに付け替えられ
物理的な「避難」の理由は、少しずつ解消されようとしていた。
「……ねえ、高瀬くん。私の部屋の防犯工事、来週には終わるみたい」
夕食後、リビングで彼が淹れてくれた紅茶を飲みながら、私は努めて平静を装って切り出した。
本来なら喜ぶべきこと。安全が保障され、自分の城に戻れるのだから。
けれど、私の胸にあるのは、吐き気がするほどの寂しさだった。
「……そうですか。いよいよ、ですね」
高瀬くんの手が、一瞬止まる。
彼はいつものように笑おうとしたけれど、その笑顔はどこかぎこちなく、寂しげに歪んでいた。
「もう、ここにいる理由……なくなっちゃいますね」
「……そう、ね。いつまでも、あなたに甘えてばかりいられないし。会社でも、これ以上噂が広まるのは、あなたのキャリアにとって良くないわ」
「俺のキャリアなんてどうでもいい、って言ったら……怒ります?」
彼はカップをテーブルに置くと
吸い寄せられるように私の隣に座り、私の細い指先を一本ずつ丁寧に絡めるように握った。
「凛さん…俺、凛さんがいない部屋に帰りたくないです」
「高瀬くん……」
「でも、あんたを繋ぎ止める正当な理由が、今の俺にはない。……『守るため』じゃなくて、『愛してるから居てほしい』って……あいつと同じ独占欲で、あんたを縛りたくないから」
彼の葛藤が、握られた手の震えから伝わってくる。
彼は私の過去を知っているからこそ、自分の欲望で私を閉じ込めることを、何よりも恐れていた。
その優しさが、今はたまらなく愛おしくて、切ない。
「…縛っていいわよ……高瀬くんになら、縛られたいって思ってる」
私は空いた方の手で、彼の頬に触れた。
リハビリを始めた頃には想像もできなかった、私からの接触。
「期限が来たら、一度は自分の部屋に戻るわ。でも、それは『独り』に戻るためじゃない」
「…あなたが、本当の意味で私を迎えに来てくれるのを、待つためよ…この意味、分かってくれるでしょ」
「……凛さん……っ」
彼は堪えきれずに私を抱き寄せ、その首筋に顔を埋めた。
避難所としての疑似同棲は、もうすぐ終わる。
けれど、それは「厳しい上司と部下」と
「甘えん坊な年下彼氏と弱音を吐く女」という
さらに深く
抗えない関係へと昇華していくための、カウントダウンに過ぎなかった。
おまる