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「モノクロのみんなもかっこいいよ」
事の発端は、ツアーの最終日だった。
ラストの公演が終わり、俺ら6人は観客の拍手を受けながらはける。階段を下りながら、心には達成感が広がる。
俺のあとに北斗が続くが、北斗は後ろを振り返って客席に手を振った。それでまた歓声が沸く。
そのときだった。
すぐ背後で、「ドンッ」と鈍い音が聞こえた。
俺は下りて上着のボタンに手をかけていたが、びっくりして顔を向ける。ほかのメンバーも、そして周りのスタッフさんも。
階段の下には北斗が倒れていた。仰向けで。
一瞬、舞台裏には静寂が訪れる。時が止まったみたいだった。
それを破ったのは、「北斗!!」と叫ぶ樹の声だった。聞いたこともない大声で。
メンバーやスタッフさんが駆けつけたが、北斗のまぶたは閉じたまま。
それからは一気に時の進みが早くなり、救急隊が到着したかと思えば気づいたら俺は家に帰っていた。というか、マネージャーさんに強制的に帰されたんだっけ。
ひとつだけ不幸中の幸いだったのは、その日のライブは全公演のラストだったってこと。
翌日、北斗の意識が戻ったと連絡を受けて5人は病院に向かった。
特に大きな怪我はない、と医師は言った。バイタルも安定しているから転倒の原因は単に足を滑らせただけだろう、と。
それからこう続けた。
「松村さんは、後頭部を強打した影響で色が見えなくなっている可能性があります」
そして話は冒頭に戻る。
「とりあえず、様子も落ち着いているようなのでお会いしてはいかがですか」と言われ、俺らは北斗が入ったばかりの病室へ行った。
広い個室のベッドで、北斗は横たわっていた。
5人が近づくと、顔を向ける。倒れた直後よりかは顔色が良くなっていた。でも表情は暗い。
そんな北斗になんて声を掛けたらいいかわからず、黙り込む。
「…大丈夫か」
最初に口を開いたのは高地だった。いつもより細い声だった。
うん、と北斗はうなずく。そして微笑んだが、すごく頼りない。
「ごめんな…ライブ終わりで疲れてるのに…俺のせいで」
ううん、と首を振ったのは大我だ。
「そんなこと言うなって。…怪我、してなくてよかったよ。生きててくれて、良かった…」
大我の声が震えた。
そこでようやくわかった。北斗が今俺らの目の前にいられるのは、それだけで「奇跡」なんだ。
それを噛みしめるように、俺は北斗の手を取った。「ジェシー」と小さな声がして、北斗が薄く笑った。
そして少しの沈黙のあと、
「あのさ、北斗…目は…」
慎太郎が小さく訊く。
俺らが知りたいけど、怖すぎて聞けない答えを求める質問を。
「モノクロのみんなもかっこいいよ」
え、とそこでやっと樹の口から声がこぼれた。ずっと見たことないくらい沈んだ表情をしていた樹は、顔を上げて北斗を見る。
「俺、全色盲っていうのになったらしい。色覚異常の一種。頭打って、脳に影響がちょっと出たって。だから…色が消えて、世界が全部白黒に見えるんだ」
まさかそんなことになっているとは思わなかった。
それは大丈夫なのか、治るのか、色んな事が頭をぐるぐると巡る。
それを見透かしたように、
「大丈夫だって。ちょっと視力は落ちたけど、メガネも作り直すし。たぶんすぐ慣れるよ」
北斗はまた笑いかけてみせた。
「…無理すんなよ」
ようやく言えたのは、そんなありきたりな励ましだった。
続く
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