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雪華家もどうせ知っているだろうが、俺の見合いは今に始まったことじゃない。前々から杜若家の後援者や貴族院の知り合い達から断り切れず、貴族の令嬢とお見合いをしたことは何回かあった。
しかし、俺の前では皆猫被り。俺が居ないところで我が儘放題。妖についての知識不足。
財産目当てに手っ取り早くと、俺《《が》》夜這いをかけられたこともあった。
そう言ったことあり、ご破産になったのは言うまでもない。
だから今回、能力があり。妖に造形も深い雪華家との見合いを受け入れた。
杜若家は特に妖と直接対峙する機会が多い。
それは命をいつ落としてもおかしくないと言うこと。だから能力がある家は結婚を早くしろと、政府から急かされるのだ。
しかし何度か痛い目に遭っていたので雪華円の人柄が知りたいことや、調べたいこともあり。
見合いの話を受け入れたのと同時に、雪華家の内偵調査をした経緯があった。
その結果は環と言う、ずっと探していた『忌み子』に辿りついたので大収穫だった。
──これも明日、詳しく環に説明しなくてはいけない。
そんなことを、つらつらと考えていたらスッと手に持っていたグラスが奪われた。
「鷹夜。また何か考えごとしていましたね。眉間に皺が寄っていましてよ。このグラスは私が没収します。考えごとなら布団の中、もしくは可愛い新妻の元でしなさい」
早く寝ろと言うことだろう。
気を使われてしまい、言い返すことが出来なかった。
「失礼しました。早めに一人で就寝します」
俺の言葉に母はわかりやすく、つまんないという表情を隠さずにジト目で俺を見つめた。
「……環ちゃんのところに行けばいいのにって、コホン。なんでもありません。では、私は当分『女中頭、梅千夜さん』で環ちゃんのお世話をしたいから、そうね。環ちゃんには両親は出張中、とでも言っておいてね」
それは環を騙すようで問題があるのではと? と口から出そうになったが、母が頬を膨らませた。
「いいじゃない。あなたのお父様。|飛鷹《ひだか》さんは西へと長期主張中ですし。挨拶は飛鷹さんが帰って来てからでいいのよ。ふふっ。さて、愛する飛鷹さんにお手紙を書かないと。やっといいお嫁さんが来たって報告しなくちゃ。では、おやすみなさい」
カラリとグラスの音を立てて、母は陽気に素早く出ていった。
部屋には静けさが戻り。
俺と微かにウィスキーの香りが肩を並べているだけ。ふっと肩の力を落として、そのまま窓ガラスに体を預けた。
シャツ一枚越しに伝わる、ひんやりとしたガラスの冷たさが気持ちよかった。
あの様子なら父も母の提案に乗るだろう。
両親の顔合わせは先になるだろうが、環と我が両親の関係は良好なものを気付けそうだとホッとした。
それからと──頭が勝手に次の問題ごとの引き出しを開けたので、拒否するように頭をゆるりと振った。
「今日はもう、これぐらいにしとくか」
気がつけば壁の振り子時計の針は明日を超えていた。どうせこれ以上は酔えない。
本邸に戻るのも億劫だし、このまま仮眠室で寝ようかと思うと。扉を叩く規則正しい音がして「杜若様、ご報告があります」と知った声が聞こえた。
どうやら寝るのはもう少し遅くなると苦笑する。
執務室の机に掛けてあった上着をキッチリと着込んで席に着席してから「どうぞ」と扉に声を掛けた。
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