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第17話 月蝕
───in「月蝕」
午後。
月蝕の拠点。
机の上には、今日の会議で使う資料が並べられていた。
……が。
彗音「…………」
彗音は資料ではなく、空になった小さな袋を見つめていた。
彗音「…………」
しばらく眺める。
彗音「……飴のストック、なくなった」
碧斗「ん?」
彗音「…………」
彗音はゆっくり顔を上げる。
そして、碧斗を見る。
彗音「…………」
碧斗「……なんや、その目」
彗音「…………」
碧斗「いや、なんか言って?」
彗音「……買ってきなさい」
碧斗「命令!?」
彗音「飴は私の生きがい」
碧斗「急に重いこと言わんといて!?」
彗音「…………」
碧斗「しかも今日、会議あるんやで?」
彗音「飴がないと参加しないから」
碧斗「いやいやいや」
碧斗「それ会議を人質に取っとるだけやん」
彗音「…………(真顔)」
碧斗「そんな真顔で言われても困るわ」
彗音「……(真顔)」
碧斗「分かった分かった後で買うたるから」
彗音「……本当?」
碧斗「ほんまやって」
彗音「……なら参加する」
碧斗「飴一個で動くんかい」
彗音「一個じゃないわ」
碧斗「え?」
彗音「……1箱で私は動く」
碧斗「欲張りやなぁ!?」
彗音「…………」
碧斗「分かった。箱買いやったるから」
彗音「…ありがとう」
碧斗「ほんま…飴絡むと素直になるよなー…飴ちゃん効果バツグンやんけ」
彗音「……?」
碧斗「気にせんでええよ」
───
ガチャ。
叶多「ごめん2人とも!…ちょっと遅れちゃって」
碧斗「お、叶多くんぜーんぜん大丈夫やでーまだ会議始まってへんから」
叶多「会議始まってなかったんだ……良かったよ…俺入って初の会議なわけだし……初っぱなから遅れるなんて事はしたくなかったからさ」
叶多「でもやっぱなんか悪いし、紅茶淹れるよ。良かったら飲む??」
彗音「……飲む」
叶多「ん。りょうーかい」
叶多「はい。どうぞ」
叶多は彗音の前に紅茶を置く。
叶多「熱いから飲む時気をつけるんだよ?」
彗音「……ありがとう、御影さん」
叶多「どういたしまして」
碧斗「お兄さんには?」
叶多「え?」
碧斗「お兄さんの分……は」
叶多「碧斗さん……飲むって言ってなかったから……てっきりいらないのかなって」
碧斗「おいちょいまち」
碧斗「なんで彗音ちゃんにはちゃんとあって、お兄さんにはないねん」
叶多「……でも碧斗さん、自分でいれられるでしょ?」
碧斗「差別やん」
叶多「差別じゃないよ」
碧斗「愛情の差やろ……これ」
彗音「…………」
碧斗「彗音ちゃん、今のどう思う?」
彗音「……紅茶、美味しい」
碧斗「話聞いてへんやん……」
彗音「聞いてる」
碧斗「聞いとるから紅茶美味しいとか言わんやろ!?」
叶多は笑いながら、自分の席につく。
叶多「そういえばさ」
碧斗「ん?」
叶多「今日の会議って、どんなこと話すの?」
碧斗「『黒帳』についてやな」
叶多「……黒帳」
彗音「…………」
叶多「二人は会ったことあるの?」
碧斗「お兄さんは何人かあるで」
叶多「へぇ」
叶多「どんな人たち?」
碧斗「そうやなぁ……」
碧斗「怖い奴もおる」
碧斗「真面目な奴もおる」
碧斗「あと、めっちゃ面倒くさい奴も」
叶多「……へぇ」
碧斗「なんや、気になるん?」
叶多「うん」
叶多「ちょっと会ってみたいな」
彗音「……私も会ったことない」
叶多「彗音ちゃんも?」
彗音「( . .)“コク」
碧斗「彗音ちゃんはそもそも人に興味ないやろ?笑」
彗音「……飴にしか興味が湧かないもの」
碧斗「そこは認めるんかい」
彗音「…………」
彗音は紅茶を一口飲む。
彗音「でも」
彗音「会ってみたい」
叶多「興味は無いけど会いたいんだね」
彗音「……会った人がそれなりに強かったら闘いのしようがあるもの」
叶多「そっか」
叶多は笑った。
叶多「彗音ちゃん強いからね」
碧斗「彗音ちゃんはうちで結構優秀なんやでー??」
叶多「やっぱすごいな……俺も負けてられない」
碧斗「叶多くんやって、ある意味強いやんけ」
叶多「どういう意味?」
碧斗「まぁ言ってええんかは知らんけど、ここに誰かを雇う時ちゃ、その人の人柄的な事を調べなあかんねん」
叶多「…………」
彗音「……踏み込まれたくない所まで見てるって」
叶多「え、それはほんと?彗音ちゃん」
彗音「本当よ」
叶多「碧斗さん……さすがに……つまり俺の全部知ってるって事になるじゃん」
碧斗「いやいや、全ては知らんって!」
碧斗「彗音ちゃんも口挟まんの」
彗音「事実、そうじゃない」
碧斗「=(´□`)⇒グサッ!!(図星)」
───
やがて。
会議が始まる。
碧斗「ほな、そろそろ真面目にいこか」
叶多「いきなり、人が変わったね。」
彗音「…………」
碧斗「まず、『黒帳』について」
碧斗「最近、向こうもこっちを警戒し始めとる」
叶多「……」
碧斗「まだ大きな動きはない」
碧斗「せやけど、何もしてへんとは限らん」
彗音「…………」
碧斗「それと、単独行動」
碧斗「これからは、できるだけ避けること」
彗音「……」
碧斗「特に彗音ちゃん」
彗音「……?」
碧斗「お前、夜に一人で出歩くやろ」
彗音「ルーティンだから」
碧斗「それでもや」
彗音「……大丈夫」
碧斗「その『大丈夫』が災いを引き起こすことやってあるんやで?」
彗音「…………」
碧斗「危なくなったら戻る」
彗音「分かった」
碧斗「ほんま?」
彗音「(。_。`)コク」
碧斗「……ならええけど」
叶多「俺も気をつけるよ」
碧斗「叶多くんは……」
叶多「?」
碧斗「知らん人に話しかけられても、ホイホイついていかんこと」
叶多「俺そんな子供じゃないよ?」
碧斗「この前ついて行っとったやろ」
叶多「困ってたみたいだから」
碧斗「お前は優しすぎるねん」
叶多「でも、その人助かったよ?」
碧斗「結果論や」
彗音「……御影さんは騙されてそうね」
叶多「彗音ちゃんまで!?」
彗音「……本当のことを言っただけよ」
碧斗「まぁ、二人とも一人で勝手に動かんようにな」
叶多「まぁ単独での外出には十分注意してって事でしょ?わかった。気をつけるよ」
彗音「……(*꒪꒫꒪)( ._.)コクコク」
───
会議が終わる。
彗音「…………」
碧斗「まぁザクッとはこんな感じや」
碧斗「ほな、これで会議終わりや」
彗音「……飴」
碧斗「ほい。お疲れさん」
碧斗はポケットから飴を取り出す。
彗音「…………」
彗音「ありがとう」
碧斗「はいはい」
彗音「……」
ころ。
彗音「……美味しい」
碧斗「そらよかった」
叶多「……2人は俺が来る前もずっとこんな感じだったの?」
彗音「…………(*´༥` *)ŧ‹”ŧ‹”」
碧斗「まぁ……彗音ちゃんは基本、飴があれば何でもしてくれるから、飴には大変助かっとる。それと飴にもこだわりっちゅうもんがあるらしくてな……」
碧斗「前、今まで買ってきとった飴が丁度売り切れてたんよ……そんで、しゃーないから別の買ってきて、渡したんやけど」
碧斗「『同じやつじゃないと嫌だ。』とか言ってゆうこと聞かんだんよ……あん時は一苦労やったわ……」
叶多「……へ、へぇ、飴ってどこの飴でも味は変わらないと思ってたんだけど……そうでもない感じなの?」
彗音「何を言ってるの?飴にもちゃんと見分け方があるのよ」
彗音「味の濃さや飴の形でもすぐ分かるわ」
彗音「……飴の事を知らないなんて、重大な問題よ」
叶多「え??なんか変な方向に行ってないッ───」
彗音「……飴を全て同じ味にしないで。全ての飴にはそれぞれの味や長持ち差が違うから。───分かった?」
叶多「…………はい」
碧斗「叶多くん。どんまい……彗音ちゃんに飴の批判は相性すんごい悪いで」
碧斗「これでわかったと思うけど飴大好きっ子やから、変な事を言うたらああなってまうから」
叶多「意外と頑固な子なんだね……彗音ちゃんって」
碧斗「まぁ元々頑固やけど飴の事になるとその頑固は更に酷くなるなぁ」
───
少しして。
彗音が席を離れる。
彗音「……外、行ってくるね」
碧斗「また?」
彗音「少しだけ」
碧斗「気ぃつけてな」
彗音「……うん」
叶多「俺も行こうか?」
彗音「必要ないわ」
叶多「そっか…危ないから早く帰ってくるんだよ?」
彗音「……えぇ。わかってるわ。あ、御影さん」
叶多「ん?」
彗音「紅茶、美味しかった」
叶多「……」
叶多「ありがとう」
彗音はそのまま部屋を出ていく。
ガチャ。
扉が閉まる。
碧斗「……叶多くん」
叶多「ん?」
碧斗「なんや、随分嬉しそうやなぁ」
叶多「そう?」
碧斗「めっちゃ顔に出とるで?彗音ちゃんに褒めて貰えたからかー??」
叶多「……それは……元々、褒められてない事もあって…照れくさいだけだよ」
碧斗「ほんまか〜まぁ少しづつやけど2人の距離も縮まることを願っとるわ」
叶多「……」
叶多は扉を見る。
叶多「碧斗さんってたまにはいい事言えるタイプなんだね」
碧斗「…………それ、どうゆう事や!?」
叶多「いつもふざけてるから、最初は不真面目な不良キャラかと思ってた」
碧斗「……それ地味に傷つくねんけど?」
叶多「だから」
叶多「ちょっと驚いちゃったなぁ…w」
碧斗「……叶多くん。」
叶多「なに?」
碧斗「……いや」
叶多「?」
碧斗「笑った方がええ顔になるで。少なくともお兄さんはそう思ったわ。これからも恥ずかしがらんと見してや笑」
そう言って碧斗は叶多の頭を撫でた。
叶多「……。」
叶多は笑った。
そして。
叶多「…………(「月蝕」に入ったのは別に深い理由があった訳じゃない。ここの方が入りやすそうだと……過去の俺は方思ったんだろう。もし、「月蝕」の中野誰かに不意打ちに出会った時───)」
叶多「(もしも俺だったら───どれだけ運がいいんだろうね)」
叶多「…………」
叶多「(俺は、この二人ほど強くない)」
叶多「(能力は使えるけど……)」
叶多「(正面から戦うようなものじゃない)」
叶多「(だから──)」
叶多「……まぁ」
叶多「俺にも、方法があるんだけどね……((ボソッ…」
碧斗「……ん?聞こえんかったわ」
叶多「…………」
叶多「何でもないよ?」
碧斗「いや、今なんか言うたやろ」
叶多「気のせいじゃない?」
碧斗「絶対ちゃうやん……」
叶多は笑う。
その顔はいつもと変わらない。
優しくて。
穏やかで。
少しだけ、頼りなさそうで。
けれど──
その目の奥に何があるのか。
誰にも分からなかった。
叶多「……そのうち分かるよ」
碧斗「何がわかるん?」
叶多「さぁ?」
叶多は紅茶を一口飲んだ。
───
その日。
『月蝕』は、いつも通りだった。
飴を食べて。
くだらないことで笑って。
紅茶を飲んで。
仲間と話して。
まるで、何も問題なんてないように。
ただ一つ。
誰にも言っていない「何か」を抱えていた。
一ノ瀬ルナ
10
#日記
QuartoMew
1,527
62
フユめん
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コメント
1件
ああ、もうこのエピソード、すごく好きな空気感でした。彗音ちゃんの飴に対する執着が可愛すぎて、碧斗くんのツッコミと掛け合いが絶妙に心地いいんですよね。「飴がないと参加しない」って真顔で言い放つ感じとか、箱買い要求するところとか、もう完全に飴で釣られてるのが愛おしいです(笑) でも一番心に残ったのは、叶多くんの内面ですね。あの優しい笑顔の裏にあるもの。最後の独白で「正面から戦うようなものじゃない」「俺にも方法がある」って――それが何か、すごく気になります。紅茶を淹れて「熱いから気をつけるんだよ」って言う優しさと、目の奥の冷たさみたいなものが同居してて、読んでてゾクッとしました。 温かい会話の裏で、少しずつ不穏な伏線が張られてる感じがたまらないです。引き続き、どうなるか楽しみにしています🌷