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「管制なんて仕事はさ、ただ画面見ておしゃべりしてりゃあ良いんだからさ、すげえ羨ましいよ。お前いいトコに目をつけたよな」
航空自衛隊、第5術科学校への入校が決まった日、部隊の先輩や仲間達から言われた言葉を、安座間雅弘2曹は忘れられないでいた。
部隊任務をこなしながら資格取得を目指し、睡眠時間や休暇を犠牲にして取り組んだ結果を茶化されたのだ。
生涯付きまとう、呪いの言葉だろうと感じた。
安座間は、埼玉県入間基地に所属する管制官だった。
現在は、東京ジェノサイドで部分閉鎖された、羽田空港の管制業務を他5人の隊員と任されている。
「今この空域はあなた方の特等席だ。幸運を!」
安座間が、この言葉を投げかけてから数分後、合衆国空中司令機、コードネームブラックナイトからの交信は途絶えた。
レーダー対空席のメイン画面に映るデータブロック。
そこに表示されているブラックナイトの現在地、航跡、高度、スピードの数値を確認し英語で呼びかけるが応答は無かった。
「ー緊急事態を宣言しますか? 繰り返します。緊急事態を宣言しますか?」
安座間の周りには、同じチームの隊員達も集まっていた。
管制塔から見える景色は、厚い雲に覆われた空と、チラチラ舞う粉雪、羽田ターミナルビルと人気のない滑走路である。
真下の首都高速道路湾岸線は、首相を乗せた車列が通り過ぎたのを最後に閉鎖され、今では数人の警察官が警備にあたっているだけだった。
安座間は繰り返し呼びかけた。
機影が消えていないと言うことは、まだ存在している証拠なのだ。
「羽田よりブラックナイト、聞こえますか?」
その時、隣にいた隊員が呟いた。
「単なる無線の故障じゃねえの?」
安座間は即座に反応した。
「違います。高度を見てください。ブラックナイトはどんどん降下している。それも凄いスピードで◦」
「それって…」
その時、窓辺で双眼鏡を手にした隊員の叫び声が聞こえた。
「おいっ!!」
管制塔上空、雲の切れ間からブラックナイトの機首が見えた。
ほぼ垂直に落下する機体は、管制塔から200メートル離れている羽田空港第2ターミナルビル目掛けて突っ込んでくる。
安座間の後方の隊員が、金切り声を上げた。
「伏せろ!!間に合わない!伏せろ!!」
安座間はそれでも立ち尽くしたまま、アメリカ合衆国が誇る空中司令機の断末魔を、視覚と聴覚を使って脳裏に焼き付けた。
ジェットエンジンのプロペラが、ゆっくりと回転しているのが見える、
ひび割れたコクピットの窓。
「United Status of America」
の文字が、ターミナルビルへと吸い込まれていく。
エンジン音は聞こえなかった。
悲鳴や怒号すらもないまま、機首がビルの屋上へとめり込む。
建物には仲間の自衛官を始め、空港職員や大使館職員、マスコミの関係者らが大勢詰め掛けていた。
砂塵が舞い上がる。
爆音が聞こえ、その数秒後に管制塔の窓が吹き飛んだ。
折れる翼と宙に舞う機体の残骸。
安座間は、炎の熱を感じた。
第2ターミナルビルから、火の手が上がる。
安座間の顔や身体に突き刺さるガラス片。
痛みは感じなかった。
1人の隊員が、安座間の身体を床に押しつけた。
2度目の大爆発は、その直後に発生した、
管制塔が激しく揺れる。
鉄骨が、管制塔の窓枠を突き抜けて壁へと激突する。
息遣いが聞こえる。
安座間は恐怖で動けないでいた。
声が聞こえる。
かみんな無事か!?」
至る所で返事が聞こえた。
安座間は思った。
「あ、生きている…」